序章 ⑤

「こうして部室で会うのは久しぶりね、今日は参加してくれて嬉しいわぁ。ゆうなぎさんが退部して先生は悲しくて悲しくてぇ……! ゆうなぎさんさえ良ければいつでもウェルカムだからね。というか戻ってきてほしいと切実に思う!」

「あ、ありがとうございます。でも今は他にやりたいことがあるのでちょっと厳しいかな」

「そこをなんとか! みんなと思い出のページを新たに刻みましょうよ!」


 先程とは打って変わって陽気も陽気だ。こんなに感情の起伏が激しい人だとは思わなかった。


「ほらほら無理強いしない。あかねは彼氏とイチャつく時間でいっぱいなんだから」

「だからイチャついてないってば! ……いやまぁ、とおくんとの時間は大切にしたいけど」

「やっぱり図星じゃない」

「うぅ、そうなんだけど……」


 二人のやりとりを聞いたかえで先生が「彼氏……」と呟き、その目が俺のほうを見る。それはターゲット変更の合図だった。


「そうそう、ふじしろくん! ふじしろとおくん! 君も参加するんですってね。この間の全校集会では素晴らしい演技力だったわ。先生感動しちゃった」


 そういえば、教師たちには俺の悪い噂を払拭するために先輩と協力して一芝居打ったことにしてあったか。


まいちゃん──お姉さんからは未入部って聞いたけど、どう、この機会に入部しない?」

「あー……ありがたいお誘いですけど、俺あまり人前に出るのは得意じゃないので遠慮します」


 手当たり次第に入部希望していた頃だったら喜んで首を縦に振ったのだが。まぁどのみち、このメンツでは猛反対されて入部はできなかっただろうけど。


「またまたぁ謙遜しない。あれだけ全校生徒のまえで立ち振る舞えたくせにぃ」

「あの時は無我夢中だっただけですよ。それに俺も先輩と一緒にいる時間を優先したいので」

「はぁ〜、二人はそこまで愛し合ってるのねぇ…………閃いた! だったらゆうなぎさんと一緒に入ればいいじゃない。好きな時と場所でイチャこらしてもらっても構わな──」

「いいかげん勧誘やめーいっ。二人の世界に入られたらこっちが気を遣うわ。何のための部活なのよ……ったく。今日はゲームの説明をするんでしょ。早くしないと下校時間になるわよ」

「そ、そうだったわね。このことはおいおい考えることにするわ」


 いやもう諦めてくれ。この先生と話すとなんか疲れる。

 ハチャメチャな顧問の登場で乱れた場を一旦仕切り直し、やっと部活がスタートする。かえで先生が教壇に立ち、俺たち生徒は各々長机の好きな席に座った。

 かえで先生は普段の教師らしい態度で話しはじめる。


「それではゲームの説明に入るまえに、このゲームを考案してくれたれいさんに感謝します。内容も、そしてその意義もとても素晴らしいわ」

「アタシはただ既存のものをパクって提案しただけよ。細かい部分は全部かえせんに投げたしね」

「ルール上それは仕方ないわ。思い立ってくれたその心意気が顧問としては何よりも嬉しいの」


 褒められ慣れしていないらしいれい先輩は少し照れたように頰をかく。たかがゲームをするには大げさな感謝の気もするけど。


「褒めても何も出ないわよ。それよりもゲームの説明に移りましょ」

「ふふ、分かりました。ではまず始めに、このゲームのあらましを読みますね」


 あらまし? 何やらストーリーがあるようだ。

 かえで先生は一枚のプリントを手に持つと、ごほんっと一度咳払いをして語りはじめる。



 とある高校に十人の生徒が所属するオカルト部がありました。特に仲良しなわけではなく性格もばらばらの面々ですが、非日常を求める思いは共通しています。

 そんなある日、部長がある話題を持ってきました。

 学校の裏掲示板に載っていた『陽気な悪魔のお友達』のオカルト話。五人以上で行うそれは、悪魔を呼び出して内一人に憑依させ会話を試みる、いわば降霊術の一種でした。

 他にやることもなかったので暇つぶしに全員で挑戦することになりました。

 掲示板に書かれていることに則り、悪魔を呼び出す儀式を着々と進めていきます。

 そして全ての工程が終了しましたが、誰にも変化が見られません。眉唾モノであることが証明されただけで終わり、所詮は作り話かとみんな白けました。

 しかし、翌日の部活動になった時です。

 いつも部室に一番に来るほど積極的な部長が、その日はいくら経っても来ませんでした。

 同じ学年の部員に聞けば昼休みに見かけているそうで欠席しているわけではありません。

 変に思った部員たちは所在を捜しに行きました。その過程で聞き込みをしたところ、生徒や教師たちは口を揃えてこう言いました。

『そんな人は知らない』

 何か異常なことが起きていると悟った部員たちは、前日の儀式に原因があると思い至り、改めて調べてみるとオカルト話には続きがありました。

 降霊する悪魔はイタズラ好きで憑依した者の人柄を模倣しては、儀式に携わった残りの人間の存在を消して回る、と。

 加えて非運なことに、肝心な悪魔ばらいの方法はいくら探しても載っていませんでした。

 唯一、部員の一人に霊媒師の知り合いがいて助けを呼べたことだけは幸いでしたが、遠方にいるためすぐにはられません。

 部員たちはその間、これ以上被害を拡大させないために二つの決まり事を定めました。

 一つ、口外しないこと。第三者に気取られないよう、部室以外では普段と同じ様子を装う。

 二つ、放課後に必ず部室に集まること。怪しい行動をしていた部員を報告する会議を開く。

 部員たちはお互いの顔を見ます。

 さぁ『悪魔』はだあれ?



「──あらましは以上です。いかがでしょうか?」


 かえで先生の問いに、各々理解したようで頷く。

 なるほど。演劇部員は七人で、俺と先輩を合わせて九人。ただゲームに興じるのではなく、この物語の続きを演技するわけか。

 隣に座った先輩が言う。


「話を聞いたかぎりだと人狼ゲームに近い感じだね」


 人狼ゲーム。会話と推理を中心としたパーティーゲーム。今では漫画や映画などの題材にされるほど有名な遊びだ。

 といっても知らない人も当然いるわけで、リョウや先輩は今一ピンと来ていない様子。

 それには先輩も気づいたようで、ゆっくりとした口調で説明する。


「簡単に説明すると会話型のパーティーゲームで、村人役と人狼役に分かれて勝負するんだよ。昼夜っていうターンがあって、昼は話し合い兼人狼を追放する投票タイム、夜は人狼が任意で一人だけ村人を減らせるの。これを交互に繰り返していって、村人は人狼を見つけて追放できれば勝ち、人狼は自分が狼だとバレないよう噓をつきながら村人を同数まで減らせれば勝ちのゲームだよ」


 見た目どおり賢い先輩は「教えてくれてありがとうございます。大まかにですけど把握しました」と言い、リョウも同意を示すように頷く。本当に分かってんのかねぇ。

 れい先輩が話を戻した。


「そうそう。で、アタシがたまたま触れる機会があって演劇部でもできないかって思ったの。もちろんそのままだと味気ないから色々とアレンジしてね」