A/Bエクストリーム CASE-314[エンペラー]

1 追憶 recollection ⑨

「おいおい、境界面ボーダーフエイスまで辿たどり着けんのか? なんなら引いてってやろうか」


 アンディはメタルリュウセイゴーにまたがってかたわらをゆくヴァンプに声をかけた。

 主人におとらぬおんぼろガンビークルは、各部で妙なうなり声や振動を起こしながら、ようやく飛んでいる。ほとんど雨の一粒でげきついされそうなたよりなさだ。


「馬には馬の意地があるものさ。人に引かれたとあっちゃ、名折れもいいとこだい」


 それでも強気に言うヴァンプに、アンディはからかい半分で言う。


「人は人でも機械の人だ。利用しないはねえだろ」

(運ぶよ果てへ あこがれの彼方かなたへ……)

「そういうぎやくてきな言い方は感心しないな、ミスター・アンドロイド。『でんこうにくに等し』だよ。第一、こっちも機械の馬だ、おづかいは無用。おいらをおっことしたりなんかしないよなあ、リュウセイゴー?」


 主人に答え、ブヒヒン、とメタルリュウセイゴーが首をきしらせる。


「へいへい、うるわしい友情をじやして悪うござんした。おれたちも負けずに、二つの力を一つに合わせてショート……もといスパークさせようぜ、ボギー」

(見たいなら行こう 知りたいなら共に……)

「…………?」


 あいぼうからの、軽く打てば短くつうれつに響く、景気付けの答えがこない。


(どこまでも続く 星を追って……)

「……おい」


 ふと、アンディの耳に、機械の駆動音に消え入りそうなはなうたがふれた。


(……どこまでも続く 星を……追って……)

「……?」


 それからほんの数秒。

 ボギーから、笑い声がもれた。


「……っくくっ……!」


 たんはしのような、ふんふちのような、きよう欠片かけらのような、声。

 アンディの作り物の背筋を、寒気とおぞが通り過ぎた。

 思わず、声をかける。


「ボ……」

「皆殺しにしよう」


 アンディはギョッとした。

 言うところのぶつそうさに、ではない。

 その声の、あまりにらしくないようはずみ具合に、である。

 引き返せない戦場の入り口が、もうそこにある。

 電子統制艦エレコン・ベースからの通信がきた。

境界面ボーダーフエイス通過まで、十秒!》


 アンディはきいていた。チームを組んで以来、初めての言葉で。


「大丈夫なのか?」

「なにが」


 ボギーはどうでもよさそうに返した。


「……嫌な予感がするぜ」

「そう」


 ほんに対する、やはり適当な答え。

境界面ボーダーフエイス、通過!》


 使が、一本のたよりない糸だけを残して、すべてを飲み込んだ。