A/Bエクストリーム CASE-314[エンペラー]

1 追憶 recollection ⑧

「治安軍の部隊なら、突入したらまず政府の事業……機関の安全確保とグレムリンじよの方を優先させる。その次は世界的偉人であるクルップ博士の救助……」


 その隣、同じ姿勢で〈ブラックゴースト〉A号機に体を入れるアンディがうれしそうに言う。


「かわい子ちゃんの救出はその次か。その点、おれたちなら真っ先に……」


 キットのけんあくな視線を感じて、声が小さくなる。

 ボギーは構わず続ける。この少年、分析や解説の時にはじようぜつになる。情感にはとぼしいが。


「ん。公団が提示した多額のほうしゆうは、優先事項を入れ替えろ、っていうあんもくの指示だ。ご令嬢には元軍人の護衛官が四人も付いてるっていうし、その軍もおっつけ動くだろうけど、救助はなんといっても早さが『命』だ。初動は早ければ早いほどいい」


 アンディがもっともらしく首肯うなずく。


「そうそう、一番に駆け付けて感謝のキス」

「着装」

「をもらモガッ!」


 キットの指示を受けて、〈ブラックゴースト〉が収縮、合体して二人を中に包み込む。


「チェック、どうぞ」


 機械のような無情の声。


「……問題ありませんです、ハイ」

「問題なし」

りようかい。武装選択、A号機、どうぞ」


 アンディは、おそるおそる前回と同じ、〈ジャックポット〉大口径プラズマ火砲を主武装とした重突撃装備一式を選択する。


ふくそう1、〈ジャックポット〉大口径プラズマ火砲」

「了解、どうぞ」


 アンディが融合視界クロスサイトの中で希望の武器をマークすると、キットが全体の回路の調ちようりつを取りながら、その装備とうさいの指示を機器に出す。指示に従って、両壁面の武器ラックから次々とけんのんな兵器がき出し、死神に力を与えてゆく。


はいそう1、〈ケーキワーク〉短身砲ダブル」

「了解、どうぞ」

「背装2、〈ヘッドシュリンカー〉たんしんじゆうダブル」

「了解、どうぞ」

ようそう1、〈ホットビーンズ〉さんばくらいラック」

「了解、どうぞ……」


 長々と続いたアンディの搭載作業もやがて終わり、ボギーの番が来る。

 まず、最初に主武装たる腹装1からなのだが、


「…………」


 ボギーは少し考えてから、アンディと違う装備を選んだ。

 それを見て、キットは少し驚く。


「〈ブルーチップ〉?」

「問題が?」

「ううん、そりゃあ、付けろといわれれば付けるけど……」

〈ブルーチップ〉は、小型だんそうのミサイルポッドだ。射出後に化学反応で爆発する弾なので山ほど抱えていてもゆうばくの心配がない、というのがウリだが、しやていは短い。弾を食らう可能性がある至近距離での射ち合いにならない限り、あまり役に立たないしろものだ。

 しかもそのマウント位置は〈ジャックポット〉と同じなので、このたよりになる大砲を下ろさねばならない。もちろん、どんな兵器が有利かというのは状況にもよるが、それでも全体的な戦闘力の低下はいなめない。今回はエクスターミネーターには異例の戦闘規模が予測されるというのに……。

 それでもボギーは、キットの先手を取って言った。


かんだよ」


 キットもアンディも、特殊技能者レアタレントだからというわけではないが、彼の勘を信用している。結局、答えは決まりきっていた。


「……りようかい。まあ、どんな装備でも当たりはずれの博打ばくちには違いないもんね」


 観念するキットに、アンディが付け加える。


「張るのは自分の命だしな」


 ボギーもうなずいた。


「ん」


 言う間にも、小さな三角形で組んだよろいのような〈ブルーチップ〉が、ボギーの〈ブラックゴースト〉B号機前面装甲にマウントされる。

 数秒で機器の最終動作チェックを完了したキットが、親指を立ててげる。


「ディビジョン・エクスターミネーターA/B、発進」

「どーぞ」


 二人のハモり声とともに後部ハッチが開いて、アームが彼らをごう降りしきるバーチカル・ランディング・ポートに下ろした。

 周囲でも同様の戦闘準備が行なわれていて、暗夜のポートは豪雨とライトの中、鋼鉄の人影とけんそうを不気味に揺らめかせている。

 今回は、〈ゾーン〉内で輸送艇から発進するという通常の方式と違って、戦闘要員四十七名は全員、自力飛行で〈ゾーン〉へと突入する。これは、ネウス研究開発本部の警務隊長が、各社のじよのサポート要員(ディビジョン駆除商会でのキットに当たる)、EXオペレーターらとともに小型の電子統制艦エレコン・ベースで救出作戦を指揮することになったためだ。

 この、きゆうきよ決まったというけいなお世話(の失点を何とか取り返したいのさ、とボギーは意地悪く言った)に、気ままな者の多いエクスターミネーターたちはいちように顔をしかめたが、スポンサーの機嫌をそこねるわけにもいかない。素直に受け入れている。表面上は。


「お二人さん、相変わらずイカしてるねえ」


 と、お軽い声が雨音に混じって飛んできた。


「ヴァンプ」

「おっ、リュウセイゴー! 久しぶりだな」


 ボギーとアンディが振り向いた先に、ボロの馬型りつガンビークル〈メタルリュウセイゴー〉を引いたボロの主人がいる。自力飛行能力を持たない彼は、この機動兵器をつばさに天を駆ける。てんというにはいささか……もとい、かなりみすぼらしいが。

 主従ともずぶれで、まるでしやぼうれいのようなヴァンプは、対する二人の、重い輝きに満ちた〈ブラックゴースト〉を、しげしげと眺める。装甲をしたたる雨が、その姿をより恐ろしげなものに見せていた。


「いつも思うんだけど……君たち、その軍でも超がつく機密兵器、どうやって手に入れてんのさ?」

「社長に聞いてくれや。ま、どーせ」

「教えちゃくれないだろうけど」


 A/Bはコントのようにそろって肩をすくめてみせた。

 と、その時、雨のポートにサイレンが鳴り響いた。


電子統制艦エレコン・ベースが来たみたい。じゃ、あたしはあっちに行くわ」


 キットが、〈チャリオット〉からかさをさしつつ下りてきた。

 サイレンに導かれるように、小型の電子統制艦エレコン・ベース(といっても全長は〈チャリオット〉の軽く十倍はある)が、バーチカル・ランディング・ポートのけられた中央部にゆっくりと降下してきていた。単純な面で構成されたすんまりの飛行船のような形態をしている。艦橋要員だけで操艦可能な簡易運用型だ。

 その様子を見やったキットは、


「それじゃ、幸運グツドラツクを」


 と言い置いて、返事を待たずにさっさと行ってしまう。

 ボギーは、ん、と簡単に返事し、ヴァンプは帽子を振った。

 アンディは、少しさびしげに遠ざかる傘を見送る。

 と、その視線の先で、キットが背中を向けたまま、保護面を下ろした。

《言い忘れてたけど》


 距離も雨も関係ない声が、彼だけに届く。

がんってね》


 ぶっきらぼうな、回路を貫く過電流のごとき一声。


 警務隊長やEXオペレーターらを乗せた電子統制艦エレコン・ベースが、雨の中をたきのぼりさながらに浮上する。その艦体下部からは通信ケーブルがのびていた。境界面ボーダーフエイヌは通過する光をかくらんする上、〈ゾーン〉からは妨害電波ECMが出ているので、どうしても有線がその通信手段となる。


「全機、離陸! 本艦に続け!」


 ブリッジの中央、指揮官をって、警務隊長が号令した。

 ゆっくりと浮かび上がってゆくさいなひも付き風船のような電子統制艦エレコン・ベースを追って、四十七の機影がいつせいに飛び上がってゆく。

 その行く手には、光り輝く巨大な使が。

 艦橋で、緊張した声が交わされる。


境界面ボーダフエイス通過まで三十秒」

「重力せいぎよ開始、現状でホールドします」

「通信ケーブル出入力チェック……異常なし!」


 その艦橋の端、他社のEXオペレーター同様、申し訳程度にあてがわれたコンソールの前でキットが目をつむり、両手の指を組んでいる。

 他者にすがり祈っているわけではない。ただ、無事であるよう願う。

 その、無事を願われている側。

 巨大な境界面ボーダーフエイスが近付いてくる。その光景に、ボギーはデジャヴュを覚えていた。

 上るにつれ、おもいも胸の奥から帰ってくる。

 人影と光景がひらめく。

 なつかしい歌が聞こえる。


(……天使の輪 てんていの船 私たちを乗せ……)