レオ・アッティール伝I 首なし公の肖像

序文

 ──その男は、こうてい陛下と、そのおきさきぜんにあって、おくした様子もなく話しはじめた。


 レオ・アッティールのようぼうを、いまわたしたちが知るすべはありません。

 彼はしようぞう画をかれることを好みませんでした。しよみんが勝手に描いてのきさきに並べることをも禁じたほどで、ゆいいつ、あのめでたき『さんだつの赤き日』において、かのちようこく家イディアスに自分の胸像をつくることを許可したばかりです。

 完成したレオの胸像は、しばらくアトールきゆう殿でんかいろうほこらしげにかざっておりましたが、こんにち、その胸像は別の城で戦利品の一つとしてさらされており、またよく知られているとおりに、現在は、首から上が失われているのです。戦争のいざこざに巻き込まれたか、もしくは何者かが意図してかいしたのか、いやあるいはレオの数少ないちゆうしんの一人が敵の手にわたらぬように持ち去ったのだという説もあって、真実はわかりかねます。

 さて、皇帝陛下もご存じのとおり、アトール公国第二公子として生まれついたかの者には、様々な異名があります。『簒奪者』であり、『どくへび』であり、『神敵』であり、またもっとも広く世にしんとうしているのが、そう、


くびこう


 でありましょう。無論、悪名であります。レオ・アッティールは、実に多くの者におそれられた。敵対者のみならず、かたを並べた味方にも、しんたちにも、そして肉親にすらこの上なく恐れられたといいます。

 その『首狩り公』ご自身の胸像から首が欠けているというのはなんとも皮肉。この皮肉をおもしろがって、地方によっては、


『首なし公』


 などと新たな異名でレオ・アッティールを呼ぶ者たちもあります。

 さて、陛下。

 ここに、レオ・アッティールの物語を陛下にお話しする機会を得たことは、まことに幸福であります。

 わたしはかねてより、いま知られているレオ・アッティールの物語にはあまりに不備が多いような気がしてなりませんでした。しょせん、勝者のつむぐ歴史のなかに、敗者としてまいぼつしていった数々の人生に公正な評価など求めるべくもないからであります。

 わたしはここに、レオ・アッティールの新たな物語を紡ぎたく存じます。

 といって、すべての評価をくつがえしたいわけでも、レオをことさらに善人としてまつりあげたいわけでもございません。

 彼が『さんだつ者』なのは事実であり、『どくへび』とも『神敵』とも呼ばれるにふさわしいこうにおよんだ歴史的事実はだれしもが認めるところであります。『首狩り公』にいたってはいわずもがな。

 が、そうとわかった上で、わたしは断言いたします。レオ・アッティールはまぎれもなきえいゆうこん、そして東西に例を見ぬほどの英雄であると。

 広間にお集まりの方々、いまは笑わば笑え。

 わたしは数々のぶんけんと新たな証言を得ており、そのなかには、現在アリオンの英雄に数えられているクロード・アングラット、パーシー・リィガンの両家から得た資料も多々あるのです。

 こう聞けば、みなみなさまも「おや」とわずかばかり関心を引かれたことでありましょう。

 いずれもアトール国にほろびの火をもたらした当人ではないか──と。

 だから、いま一度断言いたします。

 これよりはじめさせていただく物語は、現在知られているレオ・アッティールのどの伝記よりも真実性を帯びているものであり、もっとも公正な視点から語られるものである、と。

 物語は、まず、アリオン王国、東の国境付近よりはじまります──。