叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士

一章 その後の勇者たち ⑩

 三体目にはすでにギュネイがせまっている──かに見えたが、ギュネイはくるりと身を反転させてびかかってきたその三体目をかわすと、勢いそのままに店外へと飛び出ていた。


「〈くさり〉を打った術者は五人だ。たおせ」


 ケイオロスがギュネイの背中にさけんだ、この言葉の意味を理解できた者もない。

 ごく簡単に説明するならば、いま店内にあらわれたじゆうとは、じやしんに仕えるそうたちがこの世ではないどこか──神の領域に近い場所──から呼び寄せたものどもだ。これら、異次元の生物を支配下におくためには、呼び寄せた当人が近くにいなければならない。もうじゆう使いがけものにつないだくさりをずっと手にしていなければならないようなものだ。目には見えない〈くさり〉の効果はんは術者によって異なるが、平均的には数クラット。つまり、じゆうがあらわれれば、必ず数クラットのはん内に、これを呼び寄せてあやつっているそうりよがいるということになる。

 そしてそうたれれば、この世と異次元とをつなぐ〈くさり〉をたれたじゆうはまた別次元に帰らねばならなくなる。ギュネイたちがねらったのはだ。ケイオロスがじゆうをひきつけているあいだに、ギュネイは店の外へと出てランドールのじやきよう徒を捜し出した。建物のかげや、細い路地のおくにひそんでいたが、ギュネイはかれら相手に何度も戦ったことがある。〈くさり〉の存在を気配で感じることができた。

 店から飛び出すや、ギュネイは目にも留まらぬ速度でかれらをくししにした。同じしよに固まっていた三人を相手にしたときなどは、ただのいちげきで三つすべての胸をいたのではないかというほどに速い。全員を血祭りにあげるのに一タルンもかからず、ギュネイは店内にもどった。

 果たしてじゆうどもは一体残らず消えており、ケイオロスはくつろいだ姿で〈りゆう戦士〉をむかえた。ひっくりかえっていたロブをはじめ、店のすみに固まっていた人々もぜんとした顔でかれら二人を見つめている。が、


「戦いに向いちゃいない男が、的確に敵をしとめて帰ってきたか」


 ケイオロスの軽口を聞き流すでも笑って応じるでもなく、ギュネイは店から出ていったときと同様、とつぜん走りはじめた。


せろ、ケイオロス」

けんじや〉とすれちがいざまにさけんだ。「おっ」と首をすくめたケイオロスの頭上を矢が飛んでいくのをもくげきしながら、ギュネイは二階へ通じる階段を数段飛ばしながらけあがる。いまさらながら、全身にかつちゆうんだ男の動きとも見えない。

 こういう店の常として、二階は店主の住まいや宿をねている。そちらになんした人間も多かったが、ギュネイが目指した先には弓を構えたひとかげがあった。気づくべきだった。客にふんしたもうひとりのかくが、すきねらってせていたのだ。

 かくはギュネイに第二射を放った。そのすばやさと的確さはかくが並のうでまえではないことを示していたものの、ギュネイの対応はやりのひとりで事足りた。へし折れた矢が手すりをえていくのをしりに、かれは最後の階段をするどりつけた。

 まさか、というのがかくいつわらざる心境だったろう。かつちゆう姿の男がとつぜんせたかと思うと、その男はかくの頭上をもえて、いつの間にやら背後に位置していたのだ。

 かくはあわててこうとしたが、


やりいしづきなぐる」


 ギュネイがなぜだかりちに宣言したしゆんかんには、かくくずちていた。



〈異形〉をほふったよろい姿の男こそが〈りゆう戦士〉ギュネイ本人であることはもはや疑いようがなく、しかもかれが『ケイオロス』と呼んだことで〈けんじや〉の正体もていした。

 村中を、「ランドールのしゆうげきふたたび」というきようの報と、「えいゆうあらわる」というかんの報がこうめぐった結果、大勢の人々が店の前に集まりつつあったが、ギュネイはそうたちの後始末もふくめたいっさいを〈けんじや〉に任せると、店主から許しを得たうえで、二階の空いた部屋に気絶させたばかりのかくんだ。

 じんもんのためだ。最初店にあらわれて『ギュネイ』をたんけんそうとした美女のほうは、混乱に乗じてか、いつの間にやら姿を消していたし、そうたちはひとり残らず殺していたので、話を聞けそうなのは矢を放ったこのかくしかいない。

 ちなみにこちらも女だった。それも、最初のほうの美女にも引けを取らないほど目鼻立ちがととのっている。ただ、客にふんする役まわり上、目立たないようにとのはいりよだろう、しようっ気はまるでなく、どろすすでわざと顔をよごしてさえいる。としのころは十九、二十か。ギュネイと同年代だ。なわしばりつけて数タルン、


「そろそろ目を覚ますころだろうな」


 ギュネイがひとり言にしてはやや大きな声でいったとき、女が実際に目を開いた。二、三回、またたきをした女は、ギュネイのかつちゆう姿を認めるなり、その目をと見開いたが、


なわしばってある」またもりちにギュネイは教えてやった。「いくら訓練されたランドール兵でもそれでは動けまい」


 女が「貴様」とうなった。ものを見定めるけものよろしく、ぎらぎらとしたまなしだった。


「ランドール兵ということは否定しないのだな。当然か、じゆうを呼び出して、〈くさり〉でこの世にいとめたうえであやつる秘術はランドール司祭独自のものだ。〈けんじや〉がいってた、いままでのどの神官もじゆつ師もなし得なかったものだとな」


 よろいを装着すると──というより、ごく近しい仲間以外の相手に〈りゆう戦士〉として対するときは──自然、ことづかいも重々しくなる。子供っぽさが出るとめられかねないからだ。が、対するかくの女は、ギュネイのそうしたしばにもせせら笑いを返した。


じゆうだと? ふん、わが神のけんぞくおそれをなしたばんじんどもはそう呼ぶらしいな。だが、どうえたところでわがランドールが神、そのごこうと栄光には傷ひとつつかぬ。いますぐわが神の前にこうべを垂れ、ひざをつくがよい!」


 ぐるぐるにしばられた身分でありながら、女はまるでいくさに勝った将軍のごとき立場でえている。ギュネイはかたをすくめた。


「悪いが、しんこうりは断ることにしている。相手がこっちを殺そうとした相手ならなおのことだ。なぜおれをねらった?」

「なぜ? なぜだと? ほう、、か!」


 女はの上でもだえしながら、おどろき、笑い、そしてごうのようないかりを目から放った。


「貴様をうらまぬランドールがあるものか。いや、だけではない。たみぐさひとりひとり、がんぜない幼児からこしの曲がった老人にいたるまで、ランドール人のだれもがおまえを──ギュネイ、アレフ、エリシスらの名前を忘れない。この手でふくしゆうをなすまでは」

「ずいぶんときらわれたものだな」


 ギュネイがケイオロスをたせせら笑いを返すと、