わたしで童貞捨てたくせに

第二話 噂の後輩 ⑤

 咲良は顎に手を当て逡巡した後、同意するかのように苦笑い。

 一度、咲良とは付き合って別れた。

 だけど、これからも同じように咲良と共にある未来が描ける。

 そんなことを薄ぼんやり考えていると、いつしか繁華街の端にまでやってきていた。

 目の前にはオフィス街が広がっている。ここから先には、特に目ぼしいものはない。

 時刻はおやつ時を少し回ったところ。帰るにはまだ少し早い時間帯。

 しかし遊ぶにしても一通り見て回ってしまっており、微妙なところだ。

 だから宏太は判断を求め、咲良に聞いてみた。


「どうする?」

「……どうする、って」


 咲良は目の前を見据えたまま、少し硬い声で質問をオウム返しする。

 予想と違う要領の得ない返事に、宏太は首を傾げながら再度問う。


「だから、これからどうしようかって」


 すると咲良はビクリと肩を跳ねさせた後、数拍の焦れるかのような沈黙の後、ぽつりと呟く。


「……この先、突き進んで行くとラブホ街になるんですけど」

「アッ」


 しまったとばかりに大きな声を上げる宏太。場所が場所だけに、これでは咲良をそこへと誘っているようにも聞こえてしまう。

 迂闊だった。宏太がどう言い訳をしようか必死に思案していると、それを見た咲良がふいにプッと噴き出した。


「なぁんだ、そういうつもりじゃなかったんだ」

「あ、当たり前だろっ」

「もう、ややこしいところで変なこと言わないでよね。どうしようかと思ったし」

「すまん、悪かったって」

「まぁね、私も普段それなりに性的に煽ってる自覚あるし、ムラムラさせちゃったかと」

「おい、確信犯かよ⁉」

「あはっ。まぁこの年頃の男の子のそういう事情はわからなくもないし、身をもって知ってるしさ。それに簡単にカレシ以外の人に身体を許すような女だと思われたくないけど、宏太から本気で切羽詰まった様子で頼まれたら……断れ……だろうし」

「咲良?」


 最後の方、咲良の声が小さくなってよく聞き取れず、幼馴染の名前を呼ぶ。

 すると咲良は、わなわなと肩を震わせた後、ぺしりと宏太の肩を叩いた。


「何でもないっ! って、いうか……え⁉」

「うん?」


 そしてふいに再び言葉を詰まらせた咲良に、今度は何事かと声を掛けると、咲良は僅かな躊躇いの後、ある場所へと指差した。


「あれ見て」

「アレは……」


 そこには件のラブホ街へと続く道を歩く、スーツ姿の男と派手な容姿をした同年代の少女。

 その女の子には見覚えがあった。宏太はつい先日、中庭でのことを思い返して呟く。


「朝熊羽衣……」

「……っぽいね」


 困惑と狼狽の表情を浮かべる宏太と咲良。

 一見して二人は親子のように見えなかった。相手の男が若すぎる。

 かといって兄妹というには、歳が離れすぎていて。

 ――パパ活。

 そんなよからぬ言葉が脳裏を過る。

 咲良がその不安を煽るようなことを口にした。


「あの子さ、こないだも言ったけど、色んな噂を聞くんだよね。それこそモテる以外にも彼氏寝取ったとか、よからぬ人と寝てるとか、そういうの」

「マジか……」


 今まさに目の前で繰り広げられていることとか、金銭の絡むそれに見えかねない。

 あまりに宏太にとって異次元の出来事で、理解が追い付かないというもの。


「学校で問題起こさないといいけど……」


 生徒会に所属する咲良の呟きに、宏太は「あぁ」としか答えることができなかった。


 


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