ラプンツェルの翼
1:少女育成計画《オペレーション》 ①
──パニック。
自然界のフィールドでは敵を
まず視界に入ったのは赤。その赤が血の色だと気づいたとき、すでに周囲はパニックに
突然の出来事に
人波の
状況がまったくわからない。何が起こったのか、どれだけ死傷者がいるのか、どう行動すればいいのか。
ただ思った。この光景を以前見たような気がする、と。
それは強烈な頭の痛みを伴う
非日常の光景に体は拒否反応し始めていた。精神を
そんな遼一に向かって歩いてくる人影があった。
黒っぽい衣装に身を包んだその女性は血まみれだった。
彼女は
「このトランクを持って逃げてください」
──翌日。
熱気が残っている夏の夕方。相沢遼一はショッピングセンター前の並木道に立っていた。
駅ビルの側面に設置された大きなビジョンをじっと見つめていたが、画面はただバラエティ番組を垂れ流すばかりだった。テレビ番組も街の雰囲気も、遼一の
人混みの中にいると、いつも息苦しさを感じる。自分だけ周囲の人々と違うような、それでもその背景の一部分にすぎないような。
制服姿の生徒たちがアイスクリームを
排気ガスと熱気の中、だらだらと垂れ落ちる汗を
この光景は本物なのだろうかと、ふと思った。テレビのニュースも生徒の会話も真実なのか。繰り返される平凡で退屈な日常。それらは世界を飾る
ショッピングセンターのウインドウを見るとガラスに映った自分と目が合った。自分自身は何も変わっていない。いつもどおりの高校二年生の
駅に
センター内を進み目当てのショップを見つけると、遼一はその前でぼんやりと立ち止まった。買い物をしなければならなかったが、なかなかそんな気分になれない。
『平凡な日常にちょっとした刺激を……』先ほど強引に手渡されたティッシュのレジャーランドのコピーをちらっと見てから近くのゴミ箱に放り投げた。
たくさんのカラーが
そんな遼一の背後で、チリンとベルが鳴った。
「相沢君」
振り返るとセーラー服姿の女の子が立っていた。ショッピングセンター内で自転車を押していた彼女はクラスメイトの
「何してるのかな?」
美穂は肩までの髪を手で払ってこちらを見ている。
「
「何してるんだろうね。学校休んだかと思えば、ランジェリーショップを
「学校は終わりか?
「午前は現国と微分と体育は女子がバスケで男子がハンドボール……」
「校内放送を聞きながら昼ご飯食って、五時間目の英語の教師は教科書読んでるだけだから昼寝して、家に帰って夕ご飯食って寝て、また朝がきて学校だろ」
ループするかのような日常だった。ずっと変化がないと思っていた日常。
そう、
「私は帰る前に部活があるけどね。これからバスケ部の夏合宿の会議みたいなのがあるから、買いだしに来たんだ」
「夏合宿か。部活連中は大変だな」
冷えたコーヒーを飲むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「そういえば、
「どうだろうな。活動なんてないに等しいし」
「男子バスケ部が怒ってたよ。南グラウンドでいつもヘボな同好会が壁登りしてて
「
遼一は空き缶をゴミ箱に放り込んで立ち去ろうとした。
「ちょっと待って。何か買い物に来たんじゃないの?」
「いや、別に……」
「五分間ぐらいランジェリーショップを
「ずっと俺を見てたのか?」
「うん。ずっとパンツを見ながら難しい顔をしてたね。でも、最後ににやっと笑ったから怖くなって声をかけることにしたの」
「友達の……友達の姉ちゃんの誕生日で、その子供の下着でもプレゼントしてやろうと思ったんだ」
「ちょっとびっくりしちゃった。変なことに使うのかとかいろいろ考えちゃった。そんなわけないよね」
「変なことに使うんなら、新品を買ったりしないだろ。いや、変なことに使ったことはないけど」
遼一と顔を見合わせて笑った美穂だが、ふと首を
「下着のプレゼントあげるほど仲のいい友達のお姉ちゃんなんて、相沢君にいるの?」
「……ちょっとしたギャグだよ。でも、やっぱりやめよっかな。買うの恥ずかしいし」
遼一は垂れ落ちる汗を
「選ぶの手伝ってあげようか? どんな子供なのかな」
「小学校高学年から中学生ぐらいかな。二重の大きな目と小さい唇で顔つきは
遼一はそこで、美穂の視線に気づいて言葉を止めた。
「……って友達が言ってた」
「ふーん」
美穂は
「なあ、そういえば女って何を食べるんだ?」
下着を選んでいる
「はあ? どういう意味」
「やっぱり主食は甘いものか?」
クラスの女子はやたら小さい弁当を食べるくせに、そのあとはコンビニで買ったデザートの
「いや、普通の食べ物だと思うけど。君と同じなんじゃない?」
「美穂は何が好きだっけ。あ、下着は五セットぐらい。安いやつでいいから。胸は小さいから上はスポーツブラみたいなので」
「……私は甘いものだったらプリン系が好きだけどね。なんでいきなりそんなこと聞くの?」
「女の子って何に興味がある? ファッションと恋愛とおしゃべり?」



