あらすじ
魔王が殺された後の世界。
そこには魔王さえも殺しうる修羅達が残った。
一目で相手の殺し方を見出す異世界の剣豪、音すら置き去りにする神速の槍兵、
伝説の武器を三本の腕で同時に扱う鳥竜の冒険者、一言で全てを実現する全能の詞術士、
不可知でありながら即死を司る天使の暗殺者……
ありとあらゆる種族、能力の頂点を極めた修羅達はさらなる強敵を、“本物の勇者”という栄光を求め、新たな闘争の火種を生み出す。
全員が最強、全員が英雄、一人だけが勇者。“本物”を決める激闘が今、幕を開ける――。
ヒレンジンゲンの光の魔剣が三羽をまとめて薙いで、その肉体を蒸発させた。
手中より超高速で鞭が伸長し、意志を持つかのように周囲の鳥竜兵を打ち据える。二羽は、強烈な打撃のためにその衝撃で千切れ、臓器を撒き散らした。
星馳せアルスは執拗に群がる軍勢をたった一羽で引き付け、無慈悲に殲滅している。
しかし、鳥竜兵を率いる夕暉の翼レグネジィに焦る様子はない。味方の死すらも戦術に組み込まれているかのように――。
「随分と長いこと、逃げ回っていたな? 三本腕のアルス」
「…………くだらないこと、言うんだね……レグネジィ」
アルスの姿がすぐさま消えた。翼の音すらない超高速の飛翔。
影すら残さぬその突進に、眩い光がきらめいた。
ヂィアッ――と。何かが焼ける、恐ろしい音までもが続いた。
それは剣であっただろうか。
人ならぬ鳥竜に、瞬きの刹那の間に剣を抜き放つ技量があったとして。抜き放ったその剣に、鞘に収まらぬほど長大な光の剣身があったとして。その光の剣身が燻べのヴィケオンを無敵の竜鱗ごと焼灼し、両断するなどということがあり得るのだとすれば、そうであったのだろう。
「――ヒレンジンゲンの光の魔剣」
伝説の竜はもはや正中線から二つに別れて、地に潰れた燃える肉塊と化していた。
ラズコートの罰の魔剣が、銃弾に後から追いついて弾いた。
無人であるはずの旧市街の窓からの狙撃であった。こちらに狙いを定める銃口が四つ。ダカイは状況を判断している。建物内に潜伏している者は、さらに加えて三人――
眼球が素早く動く。その場から跳ねると、今まで立っていた地面を新たな二つの弾痕が抉った。地上では、折り畳み式の槍をこちらに突き出そうとする者が三人。
水路沿いの裏路地に立ち入る者は少ない。路地の片側が水路の柵であるから、敵を逃さず、狙撃にも適した地形である。加えて、この数と武装だ。鳥竜(ワイバーン)兵に発見されることを恐れていない。
(工作員の本拠の一つ。こいつらなりの要塞か。読みが当たったな)
行商を装っていた兵が距離を詰めている。射程で圧倒する三本の槍が、ダカイを同時に突き刺す。だが既に、ダカイは逆さまに跳躍している。魔剣が霞んで、一つの槍の穂先を切り飛ばした。
全11名の修羅たちが繰り広げる激闘の続きは本編で――!