<style> h1{ font-family: "Yu Mincho","YuMincho",sans-serif; font-weight: 600; font-style: normal; font-size: 1.5rem; } .main{ font-family: "Yu Mincho","YuMincho",sans-serif; font-weight: 400; font-style: normal; font-size: 1.2rem; line-height: 2.5rem; }
content: " (" attr(data-ruby) ") "; }
@supports (display: ruby-text) { *[data-ruby] { display: ruby; }
content: attr(data-ruby);
display: ruby-text;
text-align:justify;
top: -0.1rem;
font-size: 0.6rem;
line-height: 1.5rem;
} } </style>
4
アインクラッドの各層に配置された無数の地形オブジェクトは、その九十九パーセント以上が《破壊不能》属性である。岩や樹といった自然物も、家屋や城壁に代表される人工物も、プレイヤーが意図して破壊することはできない。
ダンジョンの内部には、デザインにもよるが《崩せる壁》がちょくちょく出現するし、フィールドにも《割れる岩》や《倒せる樹》がまれには見つかるが、《壊せる家》があるなどという話はついぞ聞いたことがない。だいたい、破壊可能な家など買ってしまった日には、睡眠中に突然壁に大穴が開き、そこから盗賊ギルドの連中がぞろぞろ入ってくる……という事件すら起こり得るではないか。『三匹のこぶた』じゃあるまいし。
そんなわけで、俺がかつて発見していつかマイホームにと夢見たログハウスの消失が、プレイヤーの手による破壊の結果だとはまず考えられない。
「……まあ、わたしもそう思うわ」
俺の推測をそこまで聞いたところで、アスナは一度頷き、付け加えた。
「エクストラスキル《地上げ》なんてのが発見されたんじゃなければ、ね」
「こ、こんなとこ地上げしたって意味ないだろ。セルムブルグの湖畔とかならともかく」
「あー、確かにあそこの湖沿いは高いよね。わたしの部屋の三倍くらいするよ。……でも、そうね、もしここのお家が見つからなければ、新居はあそこの一戸建てでもいいかなー」
「そっ、それはちょっと……俺の稼ぎじゃキビシイかも……」
青ざめる俺に、じょーだんじょーだん、とひとしきり笑ってからアスナは表情を改めた。半分だけ攻略組の指揮官モードになり、じっと空き地を見詰める。
「じゃ、誰かが壊した、って可能性は排除しましょう。……一応確認だけど、プレイヤーホームのカスタマイズ機能って、外壁や屋根は対象外だったわよね?」
「え……どういうこと?」
「ほら、お家買うと、オーナー専用のカスタマイズメニューを操作できるじゃない? そこから、備え付けの家具とか消せるでしょ?」
ようやくアスナの言わんとする所を理解した俺は、なるほどと頷いた。
「そうか……誰か他のプレイヤーがあの家を買って、カスタマイズで壁・屋根・床を消して更地にした可能性、か。うーん……俺、アパートみたいな物件にしか住んだことないから、一戸建てのカスタムメニューって見たことないんだよな……」
「実はわたしもなのよね。……そうだ、リズに訊いてみるね」
アスナはさっとメインメニューを開くと、彼女の親友である鍛冶屋のリズベット宛に手早くメッセージを打った。
リズは俺とも友達で、また愛剣ダークリパルサーを鍛えてくれた恩人でもあるので、アスナと俺の結婚を知らせるリストに載っている、数少ないプレイヤーの一人だ。今日ここで家を買い、結婚操作を終えたら、リズを含む十数名に即座にメッセージを飛ばす予定になっていた──のだが、代わりに住宅相談みたいな質問をすることになろうとは。
返事は即座に届いたようで、アスナは彼女にだけ見えるウインドウに眼を走らせると、こくりと頷いた。
「やっぱり、外壁や屋根は消したり動かしたりできないって。大枚はたけば色を変えたり、出窓や花壇みたいなオプションを追加したりはできるみたいだけど……」
「……色を変えるって言っても、まさか家全体を透明にはできないだろうしなあ」
それ以前に、俺とアスナはこの空き地をくまなく歩いて、何の痕跡も残っていないことを確認している。透明な家が建っていたら、とっくに鼻をぶつけているはずだ。
「なら……オプションのほう? 地面に潜る設備……みたいな?」
アスナがそんなことを言い、ブーツの爪先で足許の草地をつんつんするので、俺は思わず苦笑した。
「はは、悪の組織の秘密基地じゃあるまいし。だいたい、アインクラッドの地面に家がまるごと埋まるような大穴掘ったら、下の層に落っこっちゃうよ」
「えー、ちょっと素敵じゃない。ホビット族のお家みたいで」
「あれは確か丘に横穴を掘ってたような……。地下っていうならドワーフじゃないか? ほら、十何層だかにドワーフの巨大地下城があったじゃないか」
「あたしあそこ嫌い。湿っぽいし、虫系モンスターがいっぱい出るし……だいたいあの地下城も、実際にはフィールド上の山の内側だったじゃないの」
「それがアインクラッドの構造的欠陥だよなー、地面の厚さに限界があるから、RPGの醍醐味の巨大地下迷宮作れないもんな」
「なくていいわよ! ……それより、いいの? お喋りしてて。わたしは楽しいからいいけど」
アスナに指摘され、ハッと外周部を見やる。ちぎれ雲がゆっくり流れる空は、かなりオレンジ色を深めている。あと二時間もすれば日が暮れてしまうだろう。
「そ、そうだ、ええと、透明化でも秘密基地化でもないとすれば、あとは……移動基地化? いやいや、そんなオプションあったら主街区から迷宮区まで楽勝で到達できるしな……ってことは、空中要塞化もないなあ……」
推測から妄想へと移行しつつある俺の言葉に、アスナが呆れ顔で上空を振り仰ぐ。俺は逆に深く俯き、腕を組んで懸命に考え続ける。
「カスタマイズ機能による消滅はなさそうだな。だいたいそれだと、他のプレイヤーに買われちゃってるってことになるし……。やっぱり、プレイヤーとは関係ない現象なんじゃないかなあ……」
「…………ねえ」
「となると……地形オブジェクト破壊能力もちのフィールドボス……? いやいや、五十六層の《ジオクロウラー》だって村の門は破れなかったんだしな。二十二層でそんな凄いボス出たら、速攻で討伐レイドの募集がかかってるよな……」
「ねえ、キリトくんってば」
つんつんとコートの袖を引っ張られ、俺は推察を中断してアスナを見た。
「……なんだよ?」
「…………あれ」
アスナが白の長手袋を嵌めた右手を持ち上げるので、人差し指の延長線上を視線で辿る。
空き地の北側、ひときわ大きな杉の木のまっすぐ上空に、それは存在した。
ほとんど上層の底に接しそうなほどの高度にふらふらと浮かぶ、一軒の家──。地上からは角度の関係でほとんど底しか見えないが、立派な丸太を組み合わせた構造は、俺が探していたログハウスに間違いない。
呆気なく家が見つかった喜びよりも、それが頭上九十メートルに浮遊している驚きのほうが先に立ち、俺は愕然と呟いた。
「…………な、なんで……家が、飛んでるんだ…………」
「…………さっきキリトくんが言ってた、空中要塞オプション……じゃないわよね……」
アスナの言葉に、豆粒のような家の各所に目を凝らすが、羽根だの気球だのプロペラだのがくっついている様子はない。
そのかわりに、スキルで強化された俺の視覚は、それまで気づけなかったものを二つ発見した。
まず、家の下側で陽炎のように揺れる空気の渦。おそらくあのログハウスは、《固定された竜巻》のようなものに乗っかって飛んでいるのだ。
そしてもう一つ。
家の、南側の窓からおそるおそる顔を出し、遙か下の俺たちに向かって必死に手を振り回している、誰か。
「ひ、人がいる」
俺が指さすと、アスナも「えっ」と身を乗り出した。
「ほ、ほんとだ。……NPCか、プレイヤーなのかは、この距離からじゃ解らないわね……」
プレイヤーとNPCを確実に識別できる外見上の差異は、《カラー・カーソル》の色だけだ。しかし、これだけ離れているとカーソルそのものが表示されない。
なぜ家が飛んでいるのかは相変わらずさっぱり解らないが、あの人影がNPCでなくプレイヤーだとすると、このまま放っておくわけにはいかない。万が一あの高さから落下すれば、確実にHPがゼロになってしまうからだ。
「ど、どっちだ……」
俺とアスナが固唾を呑んで見上げていると──。
不意に、人影が振り回していた手を引っ込め、すぐにもう一度突き出した。握られていた何かが手から離れ、黄色い陽光をきらきら反射する。それは緩い弧を描き、俺たちが立つ空き地めがけて落下してくる。
「お……おっ、とっ……」
俺は右に四歩、前に三歩走り、落下地点に入ると小さなオブジェクトを両手でキャッチした。すぐにアスナが駆け寄ってくるので、二人でのぞき込む。
「回復ポーションの……空き瓶……?」
アスナの言葉に頷いてから、俺は再び空に浮かぶログハウスを振り仰ぎ、叫んだ。
「──プレイヤーだ!」
POTの中身を飲み干したあとの空き瓶は、そのまま放っておくと十秒で砕け、消滅してしまう。それを防ぎ、《空き瓶》アイテムとして保存するには、一度バッグ類、もしくはアイテム欄に収納する必要がある。NPCはそんな行動はしないので、空き瓶を持っているということはつまり、あの空飛ぶ家に閉じこめられているのはプレイヤーだということになる。
「た、助けないと……」
右手に小瓶を握ったまま俺がそう言うと、アスナがすかさず指摘した。
「ど、どうやって!?」
「………………」
まことにごもっともな疑問だ。アインクラッド、いやSAOには、プレイヤーが空を飛ぶ手段は原則として存在しない。もしそんなものがあったら、迷宮区タワーをスルーして次の層まで……いや、最終ゴールたる第百層までひとっ飛びだからだ。
数ヶ月前、俺はアスナがさっきメッセージを送った鍛冶屋リズベットと一緒にホワイト・ドラゴンの尻尾に掴まって飛翔するという経験をしたが、あれは行き先を選べないし、この層にドラゴンは出ないし、それ以前に二度とやりたくない。
「…………と、とりあえず、家の真下まで行ってみよう」
俺のお茶濁し的提案に、アスナはちらりと微妙な表情を見せたが、すぐに頷いた。
ダンジョンの内部には、デザインにもよるが《崩せる壁》がちょくちょく出現するし、フィールドにも《割れる岩》や《倒せる樹》がまれには見つかるが、《壊せる家》があるなどという話はついぞ聞いたことがない。だいたい、破壊可能な家など買ってしまった日には、睡眠中に突然壁に大穴が開き、そこから盗賊ギルドの連中がぞろぞろ入ってくる……という事件すら起こり得るではないか。『三匹のこぶた』じゃあるまいし。
そんなわけで、俺がかつて発見していつかマイホームにと夢見たログハウスの消失が、プレイヤーの手による破壊の結果だとはまず考えられない。
「……まあ、わたしもそう思うわ」
俺の推測をそこまで聞いたところで、アスナは一度頷き、付け加えた。
「エクストラスキル《地上げ》なんてのが発見されたんじゃなければ、ね」
「こ、こんなとこ地上げしたって意味ないだろ。セルムブルグの湖畔とかならともかく」
「あー、確かにあそこの湖沿いは高いよね。わたしの部屋の三倍くらいするよ。……でも、そうね、もしここのお家が見つからなければ、新居はあそこの一戸建てでもいいかなー」
「そっ、それはちょっと……俺の稼ぎじゃキビシイかも……」
青ざめる俺に、じょーだんじょーだん、とひとしきり笑ってからアスナは表情を改めた。半分だけ攻略組の指揮官モードになり、じっと空き地を見詰める。
「じゃ、誰かが壊した、って可能性は排除しましょう。……一応確認だけど、プレイヤーホームのカスタマイズ機能って、外壁や屋根は対象外だったわよね?」
「え……どういうこと?」
「ほら、お家買うと、オーナー専用のカスタマイズメニューを操作できるじゃない? そこから、備え付けの家具とか消せるでしょ?」
ようやくアスナの言わんとする所を理解した俺は、なるほどと頷いた。
「そうか……誰か他のプレイヤーがあの家を買って、カスタマイズで壁・屋根・床を消して更地にした可能性、か。うーん……俺、アパートみたいな物件にしか住んだことないから、一戸建てのカスタムメニューって見たことないんだよな……」
「実はわたしもなのよね。……そうだ、リズに訊いてみるね」
アスナはさっとメインメニューを開くと、彼女の親友である鍛冶屋のリズベット宛に手早くメッセージを打った。
リズは俺とも友達で、また愛剣ダークリパルサーを鍛えてくれた恩人でもあるので、アスナと俺の結婚を知らせるリストに載っている、数少ないプレイヤーの一人だ。今日ここで家を買い、結婚操作を終えたら、リズを含む十数名に即座にメッセージを飛ばす予定になっていた──のだが、代わりに住宅相談みたいな質問をすることになろうとは。
返事は即座に届いたようで、アスナは彼女にだけ見えるウインドウに眼を走らせると、こくりと頷いた。
「やっぱり、外壁や屋根は消したり動かしたりできないって。大枚はたけば色を変えたり、出窓や花壇みたいなオプションを追加したりはできるみたいだけど……」
「……色を変えるって言っても、まさか家全体を透明にはできないだろうしなあ」
それ以前に、俺とアスナはこの空き地をくまなく歩いて、何の痕跡も残っていないことを確認している。透明な家が建っていたら、とっくに鼻をぶつけているはずだ。
「なら……オプションのほう? 地面に潜る設備……みたいな?」
アスナがそんなことを言い、ブーツの爪先で足許の草地をつんつんするので、俺は思わず苦笑した。
「はは、悪の組織の秘密基地じゃあるまいし。だいたい、アインクラッドの地面に家がまるごと埋まるような大穴掘ったら、下の層に落っこっちゃうよ」
「えー、ちょっと素敵じゃない。ホビット族のお家みたいで」
「あれは確か丘に横穴を掘ってたような……。地下っていうならドワーフじゃないか? ほら、十何層だかにドワーフの巨大地下城があったじゃないか」
「あたしあそこ嫌い。湿っぽいし、虫系モンスターがいっぱい出るし……だいたいあの地下城も、実際にはフィールド上の山の内側だったじゃないの」
「それがアインクラッドの構造的欠陥だよなー、地面の厚さに限界があるから、RPGの醍醐味の巨大地下迷宮作れないもんな」
「なくていいわよ! ……それより、いいの? お喋りしてて。わたしは楽しいからいいけど」
アスナに指摘され、ハッと外周部を見やる。ちぎれ雲がゆっくり流れる空は、かなりオレンジ色を深めている。あと二時間もすれば日が暮れてしまうだろう。
「そ、そうだ、ええと、透明化でも秘密基地化でもないとすれば、あとは……移動基地化? いやいや、そんなオプションあったら主街区から迷宮区まで楽勝で到達できるしな……ってことは、空中要塞化もないなあ……」
推測から妄想へと移行しつつある俺の言葉に、アスナが呆れ顔で上空を振り仰ぐ。俺は逆に深く俯き、腕を組んで懸命に考え続ける。
「カスタマイズ機能による消滅はなさそうだな。だいたいそれだと、他のプレイヤーに買われちゃってるってことになるし……。やっぱり、プレイヤーとは関係ない現象なんじゃないかなあ……」
「…………ねえ」
「となると……地形オブジェクト破壊能力もちのフィールドボス……? いやいや、五十六層の《ジオクロウラー》だって村の門は破れなかったんだしな。二十二層でそんな凄いボス出たら、速攻で討伐レイドの募集がかかってるよな……」
「ねえ、キリトくんってば」
つんつんとコートの袖を引っ張られ、俺は推察を中断してアスナを見た。
「……なんだよ?」
「…………あれ」
アスナが白の長手袋を嵌めた右手を持ち上げるので、人差し指の延長線上を視線で辿る。
空き地の北側、ひときわ大きな杉の木のまっすぐ上空に、それは存在した。
ほとんど上層の底に接しそうなほどの高度にふらふらと浮かぶ、一軒の家──。地上からは角度の関係でほとんど底しか見えないが、立派な丸太を組み合わせた構造は、俺が探していたログハウスに間違いない。
呆気なく家が見つかった喜びよりも、それが頭上九十メートルに浮遊している驚きのほうが先に立ち、俺は愕然と呟いた。
「…………な、なんで……家が、飛んでるんだ…………」
「…………さっきキリトくんが言ってた、空中要塞オプション……じゃないわよね……」
アスナの言葉に、豆粒のような家の各所に目を凝らすが、羽根だの気球だのプロペラだのがくっついている様子はない。
そのかわりに、スキルで強化された俺の視覚は、それまで気づけなかったものを二つ発見した。
まず、家の下側で陽炎のように揺れる空気の渦。おそらくあのログハウスは、《固定された竜巻》のようなものに乗っかって飛んでいるのだ。
そしてもう一つ。
家の、南側の窓からおそるおそる顔を出し、遙か下の俺たちに向かって必死に手を振り回している、誰か。
「ひ、人がいる」
俺が指さすと、アスナも「えっ」と身を乗り出した。
「ほ、ほんとだ。……NPCか、プレイヤーなのかは、この距離からじゃ解らないわね……」
プレイヤーとNPCを確実に識別できる外見上の差異は、《カラー・カーソル》の色だけだ。しかし、これだけ離れているとカーソルそのものが表示されない。
なぜ家が飛んでいるのかは相変わらずさっぱり解らないが、あの人影がNPCでなくプレイヤーだとすると、このまま放っておくわけにはいかない。万が一あの高さから落下すれば、確実にHPがゼロになってしまうからだ。
「ど、どっちだ……」
俺とアスナが固唾を呑んで見上げていると──。
不意に、人影が振り回していた手を引っ込め、すぐにもう一度突き出した。握られていた何かが手から離れ、黄色い陽光をきらきら反射する。それは緩い弧を描き、俺たちが立つ空き地めがけて落下してくる。
「お……おっ、とっ……」
俺は右に四歩、前に三歩走り、落下地点に入ると小さなオブジェクトを両手でキャッチした。すぐにアスナが駆け寄ってくるので、二人でのぞき込む。
「回復ポーションの……空き瓶……?」
アスナの言葉に頷いてから、俺は再び空に浮かぶログハウスを振り仰ぎ、叫んだ。
「──プレイヤーだ!」
POTの中身を飲み干したあとの空き瓶は、そのまま放っておくと十秒で砕け、消滅してしまう。それを防ぎ、《空き瓶》アイテムとして保存するには、一度バッグ類、もしくはアイテム欄に収納する必要がある。NPCはそんな行動はしないので、空き瓶を持っているということはつまり、あの空飛ぶ家に閉じこめられているのはプレイヤーだということになる。
「た、助けないと……」
右手に小瓶を握ったまま俺がそう言うと、アスナがすかさず指摘した。
「ど、どうやって!?」
「………………」
まことにごもっともな疑問だ。アインクラッド、いやSAOには、プレイヤーが空を飛ぶ手段は原則として存在しない。もしそんなものがあったら、迷宮区タワーをスルーして次の層まで……いや、最終ゴールたる第百層までひとっ飛びだからだ。
数ヶ月前、俺はアスナがさっきメッセージを送った鍛冶屋リズベットと一緒にホワイト・ドラゴンの尻尾に掴まって飛翔するという経験をしたが、あれは行き先を選べないし、この層にドラゴンは出ないし、それ以前に二度とやりたくない。
「…………と、とりあえず、家の真下まで行ってみよう」
俺のお茶濁し的提案に、アスナはちらりと微妙な表情を見せたが、すぐに頷いた。