世界の果てのランダム・ウォーカー 特別版




 廊下を歩く。

 天井、壁、床、すべてが白い。人工的に清潔さが保たれた空間。つきあたりで、ヨキは足をとめる。端末が網膜パターンを認証し、扉がスライドして開く。

 窓際にベッドがあり、シュカが身を起こしていた。

「花はもってきませんでしたよ」

 ヨキはいう。

「食べ物のほうがいいでしょう」

 果物の入ったかごを、机のうえに置く。

「お菓子もいっぱい食べたいところだね」

「次くるときに持ってきますよ。しかし、食欲もどって良かったですね」

 セントラルの首都にある、総合中央病院でのことだ。

 ヨキは調査局での勤務を終え、その足で入院しているシュカの見舞いにきたのだった。

「どうでした?」

「手術は問題なく終了したよ」

 シュカがいう。

「医師がいうには、もう少し発見が遅れていたら、命の危険すらあったそうだ。しかし、医師は首をかしげていたよ。どうして専門外のヨキにみつけることができたのかって。まるで腫瘍があることを知っていたみたいだ、ってさ」

 シーラザット遺跡の調査から帰ってすぐ、ヨキはシュカを病院につれていった。そして精密検査の方法について横から細かく口を出した。すると、通常の検査ではみつかりづらい部位に腫瘍があることが判明した。今日、それを摘出する手術をおこなったのだ。

「まあ、細かいことはいいじゃないですか。健康が一番ですよ。退院したら、また一緒にどこかいきましょう」

「そうだね。しかしまあ、やっぱり、すまなかったよ」

 シュカは珍しく、しおらしい表情になっていう。

「つまらないことに使わせてしまったからさ」

「何のことですか?」

「シーラザットだよ。みつけたんでしょ、自分のやつ。たった一度の願いだったのに。ごめんね」

 細い眉が下がって、本当にすまなさそうな顔になる。

 ヨキは首を横にふる。

「何いってるんですか。あそこには世界に存在する人の数だけ石があるんですよ。そんな都合よく自分の石がみつかるわけありませんよ。それに、もしみつけたら、僕は遠慮なく自分の好奇心のために願いを使います。僕がどういう人間か、先輩も知っているでしょう」

 二人は視線を合わせたまま、少しのあいだ沈黙する。

 それはちょっとした、気持ちのやりとり。

 やがてシュカが表情を崩す。

「じゃあ、そういうことにしておこうか」

 見なれた笑顔のはずなのに、ヨキはなんだか気恥ずかしくなって顔をそらしてしまう。

「いずれにせよ、礼はいっておくよ」

 シュカが親指を立て、こぶしを突き出す。

「サンキュー、ヨキ」

 ヨキは明後日の方向をむいたまま、同じく親指を立てる。そして、シュカのこぶしと自分のこぶしを優しくぶつける。

「マイプレジャー」





――次回、世界の果てのショート・ウォーカー②『災厄』は3月9日更新予定です!