Chapter 2 "For the Captain" ‐01-

 俺はステージの上に立っている。


 こちらに向けられたライトがまぶしくて、客席はよく見えない。

 手にはギターが握られている。


 ああ、いつもの悪夢だ、と俺は思う。

 これからなにが起きるかも、すべてわかっている。

 わかっているのに、どうしようもなく苦しい。


 隣に立つ、あいつの横顔を見る。

 あいつは俺を見ない。

 そう、それもいつもどおりだ。


 やがて演奏がはじまる。

 ドラムとベースに合わせて、俺はギターを弾く。


 何度も弾いた曲だ。

 次になにが来て、なにをするべきか。

 この曲のことなら、すべて知っている。


 山ほど練習してきたからというだけではない。

 当然だ。この曲は、俺が自分で作ったのだから。


 けれど、隣で歌うあいつの歌声は、まったく別のものにさえ聞こえる。

 確かに俺の考えたメロディーのはずなのに。


 俺はその歌に合わせようとして、必死で手を動かす。

 しかし、どれだけ合わせても、俺のギターは、その歌に、合うことがない。


 リズムは合っている。ピッチも合っている。

 なのに、どこかわからない、けれど決定的に重要な部分が、合っていない。


 俺は自分でわかっている。

 合わない、のではない。


 追いつけないのだ。

 その歌の、美しさに。


 ただひたすらもがいているうちに、演奏は終わる。

 なにをやったのかすら、もう覚えていない。

 客席からの拍手が満ちても、俺の心は、空洞なままだ。


「ヨシ。それじゃダメだよ」


 ステージを下りる途中で、あいつは、俺の名前を呼ぶ。

 俺は振り向く。


 あいつの透明な瞳が、俺を捉える。

 すべてを射抜くように。

 なにもかも見透かすように。


 そしてさっきまで、美しい音を奏でていたのと同じ喉で、言う。


「ヨシの音楽には、魂がない」

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オーバーライト3 ――ロンドン・インベイジョンの書影
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