シャインポスト ねえ知ってた? 私を絶対アイドルにするための、ごく普通で当たり前な、とびっきりの魔法
第二章 《TiNgS》の壁(1)
会議室をあとにして、近くにいた社員さんへ声をかける。
どうやら僕は随分と恐ろしい形相をしていたようで、声をかけられた社員さんは顔を
言葉で感謝を、心で謝罪を告げて、階段を上る。
オフィスのあった二階から四階へ。そこが、僕の目的地……社長室だ。
「どういうことか、説明してもらえるよね?」
乱暴にドアを開くと同時に、そこにいる人物へ、いの一番にそう伝えた。
「おっと! 久方ぶりのナー坊との再会はクレームから始まりか! 悪くないね!」
豪勢な椅子を軽快に回転させ、僕の鋭い視線を平然と受け流すのは、
二四歳という若さで、芸能事務所ブライテストの社長を務める、血縁上は僕の従姉にあたる人物。電話では何度か話していたけど、こうして直接会うのは一年ぶりだ。
「言ったよね? 『マネージャーだけは絶対にやらない』って」
「言っていたね! だからこそ、《心を痛めながらナー坊を
「電話でしか話さなかったのは、こういう意図があったわけか……」
僕は相手を直接見なければ、相手が
この《
「はっはっは! ナー坊、君の弱点は私を信じすぎていることだと、以前から言っていただろう? つまり、今回の件は君の身から出た
後悔先に立たずとは、まさにこのこと。もっと
「僕が解雇を言い渡された時、すぐに電話をしてきたのは、こういう理由だったわけ?」
「純粋に心配していたからだよ。私にとって、ナー坊はとても大切な人だからね」
「…………っ」
僕が自分の《
本当に、心配してくれていたのかよ……。
「……その結果ついてきたオプションが、いい迷惑にも程があるんだけど?」
「ナー坊の未来、彼女達の未来、双方にとってベストな選択をしたつもりだよ」
だとしても、もう少し方法を選んでほしいものだ。
「ところで、ここに来るまでに彼女達とどんな話をしたのだい?」
「
「ははは!! さすがナー坊だ! 私の期待を裏切らないねっ!」
バンバンと、立派なテーブルを
こっちの気持ちを知った上でこの態度なんだから、本当につかみどころのない人だ。
「相変わらず、君の『ぶっとびキラキラアイ』は絶好調というわけだ!」
「……その呼び方、どうにかならない?」
「なぜだい? かっこいいじゃないか!」
この人には、子供の頃にこの《
「マネージャーはやらないからね」
今回の件を看過するかどうかは、別問題だ。
「まずは、私の話を聞いてから考えるというのはどうかな?」
「絶対に何か
「つまり、話を聞いたら、やる気になってしまう可能性があると?」
意地の悪い笑顔でこっちを見てきたので、どこか居心地が悪くなって目を
「ナー坊、君は滅多なことでは
「どういう意味?」
「君は、私が誘った時から今に至るまで、ずっとマネージャーをやらないと言っている。だが、一度も言っていないのだよ。……やりたくないとはね」
「…………」
「どうだい? せめて、話ぐらいは聞いてもらえないかな?」
「はぁ……。分かったよ……」
本当に、僕はこの人の手の平の上で転がされてばかりだ。
「だけど、聞くだけだから。……それと、これで借りを一つ返させてもらうよ」
「いいだろう! つまり、ナー坊への貸しは残り九八だ!」
いったい、僕が
「では、ナー坊の決意が固まったところで、『TiNgS』について説明しようか!」
固まってない。あくまで、話を聞くだけだ。
「『TiNgS』は、去年結成されたグループだ。メンバーは、
「別にふつ……っと、うん。
危ない、余計な噓をついて痛い目を見るところだった。
「ふふっ。そうだね、君は
「そんなメンバーで構成されている『TiNgS』だが、グループとしては何とか体裁を保てる程度のパフォーマンスしか発揮できなくてね、話題性に欠けていていまいちパッとしない」
だろうね。僕も今日まで存在を知らなかったくらいだし。
「一応、週に一度の定期ライブで三〇人程の観客は集められているが、そこが限界だ」
定期ライブ……専用劇場を持つ事務所のアイドルが、ファンと触れ合うために一定期間
「ようやくスタートラインに立ったってところだと思うけど、どうして限界に?」
「メンバーそれぞれが、何らかの壁にぶつかっているようでね……。その壁を壊すことができれば、素晴らしいアイドルとして成長してくれると、私は見込んでいるよ!」
「その壁の正体は?」
「《これが、さっぱり分からない!》」
知りたければ、自分で調べろってことね……。
「彼女達の経歴など、大まかな情報はこれで確認するといい」
手渡されたのは、一冊のファイル。確認すると、そこには
「それで、話はもう終わり?」
数秒だけ開いたファイルを閉じて、僕は
彼女達が何らかの壁にぶつかっていたとしても、そこに僕が踏み込むかは別の話だ。
「いや、まだ終わっていないよ」
突然、スイッチが切り替わったように、
「なぁ、ナー坊。君は、今の時代のアイドルをどう思う?」
「は?」



