シャインポスト ねえ知ってた? 私を絶対アイドルにするための、ごく普通で当たり前な、とびっきりの魔法

第二章 《TiNgS》の壁(2)

 何の話だ? てっきり、このまま『TiNgS』の話を続けると思ったのに……

「どうって……。いや、すごいと思うよ。ブライテストの看板アイドルグループ『』は、キー局のゴールデンで冠番組があるし、他事務所なら子供から圧倒的な人気があって、ライブチケット即売は当たり前の二人組ユニット『ゆらゆらシスターズ』。最近出てきた新人グループだと、『RAINレイン』かな? 結成一年で一万人ライブを達成するなんて、かなりのものだよ。……これですごくないわけがなくない?」

 アイドルのすごさなんて、語れば語るだけ出てくる。

 年間シングルランキングなんて、上位はほとんどがアイドルの曲。

 ライブをやれば、3Daysで一〇万人を軽く集めるアイドルだっているくらいだ。

「そうだね。……だけど、その真実はまだ多くの人に伝わっていない」

「え?」

「ナー坊も分かっているだろう? アイドルは、いつでも命がけ。本来、当たり前のように手に入れられるはずだった多くのものを犠牲にし、そのはかなき命をファンのためにささげている」

「……うん」

「彼女達の献身的なおもいは、奇跡を生んだ。だが、その奇跡は全ての人に伝わっているかい? この世界で、アイドルは全ての人に認められた存在になれているかい?」

「それは……」

 なれている……とは、言い切れないな。

「奇跡の裏側に潜む、血を吐く努力、健闘むなしく流れていった涙、夢かなわず壊れてしまった心。私は、その全てを無駄にしたくない。捨て去ることなんて看過できない」

 仕方がないことだと割り切れば簡単だ。でも、ゆうさんは……

「私は、アイドルが認められ、愛される世界を作りたい。いつか旅立っていく彼女達が、『アイドルをやっていてよかった』と胸を張って言えるように」

 誰よりもアイドルを愛してるゆうさんは、その愛情の分だけ知っている。

 アイドルが、どれだけ死に物狂いの努力をしているか、その苦しみを一切見せず、ファンの前では笑顔でい続けているか。……そして、その笑顔が一部の人にわいきよくてきに受け取られ、彼女達がいかに深く傷ついているかを。

 だからこそ、そんな『今』を変えたい。

 その気持ちは、僕もよく分かるよ……。

 だけど……

「そこに辿たどけそうなアイドルなら、一人いるじゃないか」

 誰からも認められ、愛される存在へと成ったアイドルは、すでにいる。

ほたるかい?」

 このアイドル業界で、グループではなく個人で、圧倒的トップに君臨するアイドル。

 通称『絶対アイドル』と呼ばれるほたるは、多くの人から愛されている。

 シングルの最高売り上げは、配信と合わせてトリプルミリオン越え。

 動画サイトにアップしているMVの累計再生回数は三〇億回越え。

 去年達成した、年間観客動員数二〇〇万人の記録は、もはや伝説扱い。

 誰もが『アイドル』と聞かれたら真っ先に名前を挙げる人物……それがほたるだ。

「彼女だけでは、ダメなんだよ……」

「え?」

ほたるが認められたとしても、それはあくまで、『ほたる』という個の存在。悲しいことだが、彼女がこれからどれだけの成果を挙げようと『アイドル』が認められる日は来ないと思う」

 それは、否定できないかもしれない……。

「なら、そんな今を、彼女達なら変えられるっていうの? あのほたるですら、まだ辿たどけていない場所に『TiNgS』なら辿たどけるって……」

「違うよ……。みんなで変えるんだ。みんなで辿たどくんだ。命を懸けて魂を燃やし、おもいを届ける。全ての人に認められる絶対的存在に、アイドル全員で成るんだよ」

 スケールが大きすぎる話だ。でも、ゆうさんは本気で……

「だが、それを達成するためには全てのアイドルが一つになる必要がある。バラバラのアイドルのおもいを一つにして、世界を変える。彼女達には、そんなアイドルになってほしい」

 この言葉で、どれだけゆうさんが彼女達に期待しているかよく分かったよ……。

TRUESING理想的IDEAL気高きNOBLE少女達GIRLS。それが、『TINGS』のグループ名の由来だよ」

 そんな大切なグループを、ゆうさんは僕に……。

「ナー坊。彼女達のマネージャーを引き受けてくれないかい?」

 あぁ、くそ……。こういう時だけ、優しい声を出さないでくれよ。

「……少し考えさせてもらうよ」

「というと?」

「自分ので確かめるってこと」

 彼女達の実力、そしてどんな可能性を秘めているか、それをまずは見極める。

 そこからどう導いていくかを考えるのが……はぁ……。マネージャーの仕事だな。

「ふふっ。君ならそう言ってくれると、信じていたよ。マネージャー」

「まだ、そうなるとは決まってないよ。あくまで、もう少しちゃんと確かめるってだけ」

「今は、それで十分さ。ここから先は、君と彼女達の物語だからね」

『TiNgS』なら僕が正式に専属マネージャーとして就かせてほしいと言い出すと、ゆうさんは信じているわけか。

 そんなわけない……とは、ここまで術中にはまり続けている僕には言えないか。

「分かったよ。……あとさ、僕ももう子供じゃないんだから、いい加減『ナー坊』は……」

「私に真実の輝きを見せてくれるまでは、まだまだナー坊さ」

 ちぇ……。いい加減、僕のことを認めてくれてもいいじゃないか。