シャインポスト ねえ知ってた? 私を絶対アイドルにするための、ごく普通で当たり前な、とびっきりの魔法

第二章 《TiNgS》の壁(5)

「なら、これからの活動予定を説明させてもらうよ」

「分かったわ! 東京ドームね!」

 この子、気がマッハ。

「とりあえずは、今週末の定期ライブからかな」

 今日は月曜日。そして、専用劇場で行う定期ライブは日曜日。

『とりあえず』とは言っているが、そこがタイムリミットだ。

「それじゃ今までと変わらないじゃない! 折角、マネージャーになってくれたのに!」

「落ち着いて、ちゃん! 一見すると今までと変わってないように見えるけど……はっ! ほんとだ! 今までと変わってない!」

 当たり前でしょ。さっきゆうさんから聞いたんだけど、本来であればブライテストは、専用劇場の定員一〇〇人を満たせるまで、専属マネージャーをつけないルールらしいんだよ。

 君達の最高動員記録は四八人。それでも、専属マネージャーをつけようとしてくれたゆうさんの特別措置に感謝しなさい。一部、激怒していい箇所がある点はさておき。

 ……というか、疑問が一点。

 ゆうさんは、『TiNgS』にも噴水広場の話は伝えてあると言っていた。

 噴水広場を埋められなかった場合は、解散。

 そんな絶体絶命の状況に、彼女達は立っているはずなのだけど……

はるも落ち着いて下さい。定期ライブで結果を出せば、続きもあるということですよ」

「そうだね! じゃあ、まずは定期ライブを思いっきり盛り上げて、その次はみんなで噴水広場にゴーだよ! もちろん、マネージャー君も一緒にね!」

「ふふーん! この様がいれば、定期ライブも噴水広場も大盛り上がり間違いなしよ!」

 この態度を見る限り、とても解散のことを知っているとは思えないんだよね。

「ふふふ。初めての専用劇場以外でのライブ……とても楽しみです」

「そうだね! 最低でも、専用劇場の倍の……二〇〇人は集めちゃうぞ!」

「甘いわよ、はる! この様がいれば、さらにその倍の四〇〇人は集められるんだから!」

 あ、これ、知らないわ。

 倍に倍をかけたのに、目標の半分も達成できてないわ。

 ゆうさんめ、噴水広場でライブをやることだけ伝えて、解散のことは伝えてないな。

 どうする? 正直に事情を……いや、今の最優先目標は専用劇場の定員一〇〇人を満たすことだ。余計なプレッシャーを与えるべきじゃない。

「じゃあ早速で申し訳ないんだけど、一曲見せてもらえるかな?」

「オッケー!」「お安い御用です」「もちろんよ!」

 噴水広場の件は心の中で蓋をして、マネージャーの業務をスタート。

 レッスンとライブでは状況が違うけど、彼女達の実力を見るいい機会だ。

 僕は、彼女達……『TiNgS』のパフォーマンスを、まだ一度たりとも見ていない。

 現状聞いている話だと、週に一度の定期ライブで三〇人程度を集められるという話だが……この子達は、あのゆうさんから最大限の期待をかけられているアイドルグループだ。

 あくまで認知度が足りないだけで、かなりの実力を持っている可能性も……

「じゃあ、始めよっか! きようちゃん、ちゃん!」

「もちろんです」

「ふふーん! 様の力に、ふるわせてやるんだから!」

 立ち位置は、センターにはる、サイドにきよう

『TiNgS』は、はるを主体にしたグループということか? それとも、この曲だけ?

「…………」

 彼女達の集中力を乱さないよう、静かにスマートフォンを取り出す。臨時とはいえ、一応はマネージャーになったわけだしね。レッスンの録画はやっておこう。

「ミュージック・スタート!」

 はるが、レッスン場に置かれたラジカセのスイッチを押す。

 かなでられるのは、聞いているだけで元気が出そうな明るいイントロ。

 同時に、三人が曲に合わせたダンスを踊り始めた。

 …………

 ……

「……な、なんてことだ……っ!」

 思わず声が漏れてしまった。まさか、ここまでとは……。

「……えい。……えと。……んしょ!」

 青天国なばためはる。年齢は一六歳。常に笑顔を絶やさず、楽しそうに踊っているのは素晴らしい……んだけどさ、安定感が全然ないよ? いところとそうじゃないところの差がすごい。

 その安定感のなさを示すような視線のばらつき。右を見たり、左を見たりとせわしないな。

「……っ。……っ。……っ」

 たまきよう。年齢は一五歳。れいに整った、精練された動きはい。

 ただ、粛々と踊るその姿は、『教科書通り』という言葉がしっくりとくる。

 まるで、心に刺さるものがない。言われたことをこなしているだけ。そんな印象だ。

「…………わっ! っとと! ……んっ!」

 せい。最年少の一四歳。アグレッシブで、自由奔放……と言えばいいのか?

 他の二人からワンテンポ遅れたダンス。しかも、ところどころ振り付けも間違ってない?

 どうにか笑顔を維持しようとしてるけど、必死過ぎてひきつっちゃってるし……。

「…………」

 歌は立ち位置の通り、メインボーカルがはる、コーラスがきよう

 ただし、はダンスに集中するあまり、ほとんど声が出ていない。

 はるの歌唱力は……うん、これまた普通。きようも似たようなものだ。

「……なるほどね」

 駆け出しらしいといえばらしいけど、その中でもかなり下に位置するクオリティ。

 特にひどいのは、統一感のなさだ。

「何とか体裁を保てる程度」とは聞いていたが、まさにその通りじゃないか。

 これだと、初見の人達のほとんどが、彼女達に『いまいち』という評価を下すだろうな。

 ………………

 …………

 ……

 結局、そこから先もこれといった変化をすることなく、一曲目は終わりを告げた。

「《ふ、ふふん! どう? 完璧だったでしょ?》」

 を泳がせながら、ふんぞり返ってる……。いったい、どういう感情だ?

「……とりあえず、質問をしてもいいかな?」

 僕はセンターに立つはるへと確認をした。

「なーに、マネージャー君?」

「『TiNgS』は基本的にこの形なのかい? はるがセンターで、二人がサイドっていう……」

「はい。君達がライブで行う曲は、全てはるがセンターを務めています」

 ん? どうして、はるに聞いたのにきようが……

きようが、センターをやったりは?」

「《やりません。私は、サポートに徹すると決めているので》」

 まず一つ、問題発見。

 ダンスのえは、はるよりもきようのほうが上だったんだけどな。

「そうなんだね……。なら、はどう? センターに挑戦してみたい?」

「え? できるの? 《やりたい! 私、センター、やってみたい!》」

 あっという間に、二つ目の問題が顔を出した。

 彼女の性格で、こんな発言が飛び出してくるなんて……、これまた難問だ……。

「…………なるほど、ね」

「マネージャー君! 私も質問を要求します! 二人だけ質問があって、私だけないのはさみしいのです! さぁ、何でも聞いて!」

 そんな、ドンと来いと言わんばかりに腕を広げられても、ちょっと困る。

 はるにも最初に質問しているんだけど、きようが答えたから本人の中ではノーカウントか。

「じゃあ……、はるが『TiNgS』に必要なものって何だと思う?」

「必要な物? う~ん、そうだなぁ~……あっ! 思いついた!」

「何かな?」

「メンバー! 三人だとちょっと寂しい時があるから、メンバーが増えるとうれしい!」

 テコ入れが早い。

 そういうことは、せめて三人のパフォーマンスが安定してから言いなさい。

「それでそれで! マネージャー君の感想はどうだった?」

「まだ分からないことが多いけど、レッスンでも手を抜かずに一生懸命やっているのは、すごくいいことだと思うよ」

 本当は、もっと他にも伝えたいことがある。

 だけど、それを今伝えるのは危険だと判断して、僕はあえて言わなかった。

「そ、そっかぁ……」

 先程まで見せていた明るい笑顔とは真逆の、落ち込んだ表情。

 きっとはるは、『一生懸命』以外に褒めるところがないと、思ったのだろう。

 ネガティブな言葉は避けたんだけど、くいかないな……。

「よぉ~し、それならマネージャー君にしっかりと『TiNgS』のことを分かってもらうためにも、もっともっと頑張らないとダメだね!」

「ありがとう。……そうだね、もう少し見せてほしいかな」

はるちゃんにお任せあれ!」

 センターをやりたくないとうそをつくたまきよう、センターをやりたいとうそをつくどううそはついてないけど少し見当外れなことを言う青天国なばためはる

 ゆうさんから託されたアイドルは、良くも悪くもくせものぞろいだな……。