わたし、二番目の彼女でいいから。4
第28話 桐島事変③
校門をくぐって、下駄箱に靴を入れる。
どこかで時間をつくって、三人で話し合いをしようと思った。俺がどちらかを選ぶ話がまだ残っているのか、それとも彼女たちで決めるのか、まずは現状を確認して、今度は感情が激突しないように、慎重に──。
そんなことを考えながら教室に入っていったときのことだ。
クラスメートたちの視線が、俺に集中する。退院を祝ってくれる感じじゃない。戸惑っていたり、どこかしらじらしかったりする。そんな彼らの輪の中心には早坂さんがいた。
「桐島くん!」
早坂さんは満面の笑みを浮かべながら、俺に近寄ってくる。
「退院おめでとう、ずっと寂しかったんだよ!」
「いや、それよりこの感じ……どういうこと?」
クラスメートたちは怪訝な顔で俺たちのことをみている。その視線を察して、早坂さんがすねたようにいう。
「みんな全然、信じてくれないの」
「なにを?」
「私と桐島くんが付き合ってること」
「え?」
「みんな、桐島くんと橘さんが付き合ってると思ってるの。おかしいよね? 私がクリスマスに指輪もらったっていっても全然信じてくれなくて。だからね、桐島くんが登校してきたらその証拠みせる、っていってたの。ねえ桐島くん、今からみんなの前で──」
「ちょ、ちょっと待って」
俺はいったん早坂さんを廊下に連れだす。早坂さんは「彼氏に呼ばれちゃった~」とにこにこ顔でついてくる。廊下だとまだみなの目があるので渡り廊下までいってから、俺はきく。
「みんなに、俺と付き合ってるっていってるの?」
うん、と早坂さんは元気よくうなずいていう。
「桐島くんが選んでくれて私、ホントに嬉しかったんだよ」
「えっと、その話だけど」
「贅沢いうと、抜け駆け禁止のペナルティを使うんじゃなくて、もっとストレートに選んでほしかったけど、えへへ」
「いや──」
俺そのルール知らなかったんだけど、という前に、早坂さんが「それでも私、感動しちゃった」とつづける。
「私ね、桐島くんに好きでいてもらえるようにがんばるね。あ、大丈夫だよ。がんばりすぎないから。だって、無理したら桐島くん心配しちゃうもん」
でもダメだよ、と早坂さんは笑う。
「私のことがいくら大事だからって、橘さんで処理したりしちゃ」
「えっと、早坂さんがいってることって、つまり……」
「桐島くんは責任とれる大人になってから、私とそういうことをしようと思ってるんでしょ? そうだよね、私たち高校生だし、なにかあったら大変だもんね。でも、十代の男の子はやっぱり、そ、その、そういう衝動…があって……」
早坂さんは頰を赤く染め、恥じらいながらいう。
「それで、橘さんで処理しちゃったんだよね? あ、大丈夫だよ。私なにも気にしてないよ? だって私の体を大切に想ってくれてのことだもん。それに私、重い彼女にはなりたくないもん、そんなことでめんどくさいこといったりしないよ」
でもね、と早坂さんは両手で俺の手を握っていう。
「やっぱり橘さんがかわいそうだよ。女の子をそういうふうに扱っちゃ」
だから──。
「きっぱり別れてあげてね。ちゃんと、もう気持ちはないって伝えてあげてね。約束だよ?」