わたし、二番目の彼女でいいから。8

第27話 京都正常化交渉 ⑤

 ◇


 試合後、控え室の前で待っていると、遠野はチームメイトたちと一緒にでてきた。

 俺は声をかけようとするんだけど、まず女バレ軍団に囲まれる。


「あんた、遠野にひどいことしといてよく顔みせられたね」

「どういう神経してんの?」


 当然、彼女たちは俺が遠野をふったことを知ってるし、遠野の味方だった。それで、俺は背の高い女子たちに囲まれ、詰められ、後ろにいる宮前と一緒に、縮こまる。


「いいんです」


 そんな女バレ軍団を遠野が制する。


「みなさんは先にいっていてください。私が話しますから」


 それで、女バレ軍団はしぶしぶといった感じで去っていった。

 俺と遠野と宮前、三人だけになる。

 遠野は少しつかれた顔をしていた。緊張感のある試合をしたあとだから当然だろう。髪をおろして、ジャージ姿だ。そんな遠野は、俺に向かっていう。


「なにしにきたんですか」

「俺はその、遠野を応援したくて……」


 遠野は少し黙ったあとで、自分の腕を抱えながらいった。


「それが、なにになるっていうんですか」

「…………」

「桐島さんが考えていることはわかります。でも、それをしてどうなるんですか。私が元気になって、しおりちゃんと仲良くさせて、それで、自分は早坂さんと橘さんのところにいっちゃうんじゃないですか。それって――」


 それって――。


「全部、桐島さんの都合じゃないですか」


 俺はなにもいえない。


「別にいいですけど、私は誰かのために自分が動くの、全然イヤじゃないですけど」


 遠野はボストンバッグを肩にかけ、俺に背を向ける。


「なぜだか……今回は全然笑えません……桐島さんがなにかするたびに、私は辛くなるばかりです」


 そういって、去っていった。

 俺はただ、遠野の背中をみていた。

 帰りの新幹線、俺は窓の外を眺める。真っ暗で、なにかみえるわけではない。それでも、ただ遠くの街の光をみつめていた。


「帰ったら一緒に食べようね」


 となりに座る宮前がいう。膝のうえには駅で買ったシューマイの袋がのっていた。俺を気づかってくれているのだ。


「ああ。ありがとう」


 俺は宮前に笑いかける。

 ただ、頭のなかでは遠野の言葉がずっとリフレインしていた。


『それが、なにになるっていうんですか』


 俺は目を閉じる。

 京都正常化交渉、三正面作戦、長ラン、応援。

 それが、なにになるっていうんですか――。

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