境界線上のホライゾン きみとあさまでGTA Ⅳ
第二十八章『果たし場で結ばれる果て』
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孫一は、その瞬間を見ていた。
槍だ。
渡辺・守綱の持っていた鉄の素槍が、爆発の起点となったのだ。
無論、鉄の槍は、弾頭でも何でもない。
ただ、技か術式がそこにあるとしたならば、

……捻れ、ですね。
渡辺・守綱の高速左右機動。
その動きは、単なるターンではなかった。
あれは、身体を振って、溜めのあるスピンを重ねたものだった。
そのスピンの際、渡辺・守綱はある事を行っていたのだ。

……手にしていた槍を自分と一緒に回すことなく、捻転の動きを溜め続けたのでしょう……!
恐らくは術式。

『……ああ! 先日、陰竜と戦闘したときに、あれを見ました!』

『陰竜が捻れて崩壊したアレだよね!』
指示語の解説有り難う御座います。
ともあれ”アレ”だ。
忍者として、体術中心の渡辺・守綱にして、きっと唯一の術式攻撃法。
隠密と逃走の忍者が敵と相対したとき、不意打ちとして一発だけ用意する術式だろう。
鉄の素槍に自分が作った機動力を重ね、そして打ち出すのは、

「……大範囲のコークスクリュー式杭打ちシステム!」
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渡辺は、宙を砕いた。
爆圧は螺旋の気流をまとったもの。
だが、槍の先端が地面を穿つより早く、伸長した気流の突撃が、空気と地殻ブロックそのものを打撃したのだ。
人工の大地に反射した力は一斉の大圧を周囲に打ち広げ、ヤタガラスの銃弾を払い、

「……っ!」
爆圧が、半径三メートル程から、一気に十数メートルに拡大する。
自分に対して反動が無い訳ではない。
本来なら水平撃ちにして、三十メートルほどの先までを砕くための術式なのだ。
それを足下に放てば、緩衝術式があるとしても、

……相当に来ますねえ……!
この一撃を前に放っていれば、孫一をそのまま倒せたかも知れない。
しかしそれでは、正面以外の二方からの弾丸を食らって相打ちだ。
撃たれる訳にはいかない。
相打ちでは駄目なのだ。
何故なら、

「明日は雅楽祭ですから」
自分は鳥居達とバンドに出る。
相打ちでは、それが叶えられない。
だから己は決めた。
爆発とそれが吹き抜けの底で圧迫され、空へと勢いよくぶちまけられる瞬間。
地殻ブロックが崩落し、吹き抜けの内壁が爆圧に打撃されて散る下で、

「──行きます」
孫一へと、加速を敢行した。
●
孫一は下がった。
爆圧に押され、崩れる足場を蹴りながら下がった。
天上側からは砕けた内壁が落ちて来ている。
足下は、隆起と沈下をモザイク状に跳ね上げ落とす状態だが、

……来ます……!
渡辺・守綱が、全ての破壊をこちらへと駆け上ってきた。
来る。
金の髪が跳ね、水平方向へと直角に曲がって消える。
次の瞬間には、別の位置に彼女の姿が見え、身を捻り、

「────」
消え、また生じる。
先ほどまでの突撃と違って、左右の振りの回数は少ない。
もう、宙を砕く一撃を放てないのだ。
この瞬速は、素槍でこちらを仕留めるための、純粋な加速だろう。
対する自分は、背後に飛んでいる一本のヤタガラスしか使えない。
左右に飛ばした残りの二本は、離れすぎている。
爆圧と落下の瓦礫が邪魔だ。
左右の二本が渡辺・守綱への射程を確保するより先に、彼女の槍がこちらに届くだろう。
瓦礫の音が聞こえる。
足下が持ち上がり、こちらの下がる勢いをプラスしてくれる。だが、

……く……!
仇として追われている。
●
孫一は思う。

……危機ですね!
本願寺勢力に荷担し、実戦に出て、そこで名を上げた襲名者の自分が、武蔵の襲名者に追い詰められている。
一体誰だ。
極東は戦力を持たず、牙を失ったような無能だと言ったのは。
少なくとも、役職者、襲名者においては、そうではない。そして、

……元忠。
お前が、私に望んでいるのは、こういった隠された力の先にあるものか。ならば、

「──もっと高いところに、飛ぶ鳥は、人を導く」
ここではない。
今ではない。
もっと先。
もっと後。
そこにあるものを掴むように、自分は渡辺・守綱の接近を見ながら、後ろに手を伸ばした。
手にするのは、背後の空に飛んでいた一本の長銃。
ヤタガラスの一羽だ。
己はそれを引き寄せ、構え、敵の姿を今こそ正面に捉え、

「如何なる形か、……未来を止めずに鳴き導け、ヤタガラス」
射撃した。
●
渡辺は、一撃を正面に打ち込んだ。

「――!!」
槍ではあるが、内側に巻き込むような貫きの一発だ。
肩から先を放つようにして、全身の動きを連動させた。
孫一の至近にて腰を起こし、急角度の方向転換をする流れで、右の槍を放ったのだ。
行った。
術式による圧撃はもう放てないが、槍は撓み、威力をバネのように内包している。
軌道も単なる直線ではなく、こちらから見て右に下がる孫一を追ったものだ。
当たる、とは思わない。
当たって、と思うのが、自分らしいと言えるだろうか。
対する孫一が眼前で挙動する。
向かって左の肩越しにヤタガラスを一本引き抜こうとしているが、遅い。
こちらの槍の方が先に届く。
だから自分は、全身を伸ばした。
早く、寸秒でもいいからすぐ届けと槍を放った。
直後、一つの音が響いた。
射撃音だ。
孫一が、肩越しに引き抜こうとしていたヤタガラスに、一撃を許したのだ。
無論、そんな不確かな姿勢と構えからの一発は、こちらに当たらない。
だが、自分は見た。
ヤタガラスの放った弾丸が、確かに狙いを果たしたのを、だ。
実弾の向かう先、それは、

「……頭角!?」
●
孫一だ。
こちらから見て、右に下がっていた彼女の、左の頭角を、弾丸が外から内に撃った。
弾丸の調整はされているのだろう。
しかし、小柄な身体は確かに首から右へと吹き飛ばされ、結果として、右の頭角が半ばから砕けたが、

……距離が……!
空いた。
一撃が届かない。
●
続くように、自分は三つの音を聞いた。
背後の空から追いついてきたヤタガラス二本が放つ射撃音と、

「……!!」
吹き抜け公園の崩落だ。
左右の壁が完全に崩れ、瓦礫として自分達を埋める。
複雑な連音が、一斉に下から上へと昇り立った。
○

「ここまで……! これ以上は危険です!」

「誾殿、最初にあんな事言っておいて思い切り破壊するあたりは流石で御座る……」

「流石で御座ります」

「いえ、まあ、その……」

「何かフクザツだが、ともあれ次行こう。誰だ?」

「Jud.、私というか、点蔵様が状況理解のアフターケア担当ですね」
●
点蔵が、多摩吹き抜け公園の崩落を知ったのは、多摩にて警報が鳴るのと同時だった。
自宅は多摩の地下二階。
六畳間には高いロフトが組まれており、二畳分が自分のパーソナルスペースだ。
狭い場所ではあるが、天井裏のスペースや吊り棚が使えるために、収納には困っていない。
今夜の予定としては、祭の中で買った各種同好会製のゲームを筐体に奏填するのが第一であったが、

「ふうむ、……渡辺様が、打ち上げ花火の事故に?」
第一特務隊の通神に来たのは、副会長の忠世からの通神文だ。
奏填情報の入った符束を、読み取り筐体に差し込むのを止めて、己は思案した。

……渡辺様が、右舷吹き抜け公園に用意されていた打ち上げ花火と、その近辺の不審火の見回りに向かっていた、と?
●
明日の後夜祭合わせで、多摩の吹き抜け公園から花火を数百発打ち上げる。
そのような用意が、生徒会主導で内密に進んでいたのだという。
しかし、今夜はまだ街に人が繰り出している。
表層部では、打ち上げ花火などを上げる音も響いていた。
そういった花火の残り火が、不審火として、下に用意されている花火玉の群に落ちて、

「気づいた渡辺様が、現場に飛び込んだが、間に合わなかったと言うので御座るか……?」
渡辺の安否については心配ないと、通神文は言っている。
古くからの友人である忠世が言うならば、そういうことなのだろう。だが、

……そのような花火の用意、聞いたことも無いで御座る。

「父上、右舷の吹き抜け公園で花火の用意があったの、知って御座ったか?」
ロフトを仕切るカーテンをめくって下を見ると、父親が卍の字になって倒れていた。
トリップ系の何かを研究しているのか、口から緑色の液体を畳に零している。
母が帰ってきたら張り倒されるで御座ろうな、と己は思い、

「えーと」
急ぎ家を出て、知らぬ振りをすることに決めた。
念のために奏填情報の符とパッケージは布団に隠し、マニュアルだけを懐に入れていくことにする。
後は、下の畳を踏むのも一回だけにして玄関に飛びだし、

「──どういうことで御座ろうか」
扉を開けると、地下の横町は人通りが騒がしい。
表層部に見物に出ようとする者と、二次災害がないかと情報交換をするために通路に出てきた者達ばかりで。

「さて……」
第一特務隊の通信網にアクセスし、ある事に気づいた。
自分当ての通神文が、渡辺から来ているのだ。

「何で御座ろう?」
辺りを見回し、皆が自分に注視していない事を確認。その上で、己は、寄越されてきた文面に目を通した。

「これは……」
○

「ハイ。点蔵様引きですが、私の方ではまだ文面を確認していません。
次の点蔵様のシーンへ持ち越しでしょうか」

『アー、すんません。文面を送っただけで済ませたのでフォローしとらん……。
すぐ追いかけるんで、丁度ええ処でネタにしたって下さい』

「えーと、じゃあここからは、旧総長連合と生徒会の面々か……」