境界線上のホライゾン きみとあさまでGTA Ⅳ
第三十三章『独壇場の作り物』
●
P-01sは、おもむろに店内の神肖筐体を打撃した。
斜め四十五度。インパクトの瞬間に手首を軽く回して下に打ち込むのが大事だ。
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「しかし、……映りませんね。P-01s、しくじりましたか」
と、客が引き気味で見る中、P-01sは腕まくりをして二発目を構える。
しかし、右の手が放たれるより先に、厨房から影が来た。
店主だ。
彼女はスープの入ったカップを盆に載せてきて、
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「無理無理、P-01s、それは叩いて直るタイプのブラックアウトじゃないからね。きっと、放送元の方で遮断になったのさ」
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「成程、P-01s、見切りがまだまだ甘かったと判断出来ます。──しかし、店主様、どういうことなのですか、一体」
そうだねえ、と、店主は各テーブルにスープカップを載せていく。
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「簡単に言えば、皆がピンチってことかねえ」
●
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「ま、真喜子先輩! 映像遮断されちゃいましたよ! 折角、鳥居さん達の新曲が二曲目に来てたところだってのに!」
武蔵アリアダスト教導院、正面の橋階段の最上段から、声が上がる。
段に座っていた三要だ。
彼女は、空に映るブラックアウトした表示枠を指さし、
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「一体、どういうことなんです!」
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「Jud.、いい光紀? あのまま放送して、ぐちゃあー! とか、ぬちょお──! みたいな映像は危険だものね。
機材や放送経路乱れたってのが第一義だと思うけど」
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「あのう、真紀子先輩? どうした真喜子先輩はそう落ち着いていられるんですか」
そうねえ、とオリオトライはもう一度頭上を仰いだ。
ややあってから、
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「でも、今からだと救けに行っても間に合わないし」
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「ひ、他人事! 他人事になってますね!」
皆の、大丈夫か……、という視線の先、オリオトライが眉を下げた笑みで言葉を作る。
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「大丈夫よ。半端はするなって皆にはいつも言ってるし、そのとおりにすると思うわ。
光紀だって、自分なりにそういう形で教えてるんでしょ?
だったら、そういう自分を少しは信じなさいって」
●
浅間は、空の夜風を浴びていた。
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……流石に、風が強いですね。
自分がいるのは、伏見城の東側の空だ。
距離にして五百メートルと言ったところ。
この距離から見ても、雷撃を浴び続ける伏見城と、その艦首側の崩壊は明確だった。
視線の先、親隠竜による天上からの直撃で、伏見城の艦首部は潰れている。
流体燃料の漏出が起きているのだろう。
光の霧と、武蔵側から生じている雷撃の連続で、主甲板側が見えていない。
ここから解る範囲では、艦首側の崩壊が深刻だ。
親隠竜の落下位置が舞台裏だったため、どちらかというと艦首側は反動で跳ね上がった形に変形している。
その一方で、直撃を食らった舞台裏の控え場所だけではなく、艦内地下一階部の楽屋までもが一段低くなっている。
あれを直撃されたら、と思うと肝が冷えるが、
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「いや、救かりました、ナルゼ」
●
自分は眼前の黒い翼に声を掛ける。
今、己が座っているのは、ナルゼが持つ新機殻の機殻箒だ。
”白嬢”。
その加速力で、自分は隠竜の落下から救われた訳だが、
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「気にすることは無いわ、浅間。
見捨てなくてよかった、ってことだから」
ナルゼの言葉に、自分は小さな笑みを得た。
複雑な物言いだが、こちらの身を案じてくれたのは確かなのだ。
あまり深くここに突っ込むと、そっぽを向かれることになる。
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「──じゃあ、ええと、隠竜によく気づきましたね、ナルゼ」
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「何が”じゃあ”なのか解らないけど、気づいたのは偶然よ。
──まさか、マルゴットと艦首甲板で盛り上がって、押し倒された視界に落下してくる隠竜が見えるなんて。
一瞬、まあどうでもいいか、とか思ったけど、気を変えて良かったわ」
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「冷静に言ってますけど大概ですよね!? あと、隠竜ちょっと可哀想ですよね!?」
いいじゃない、というナルゼの顔横に、魔術陣が一つ現れた。
スピードメーター型のそれは、ナイトのものだ。
黒魔女の笑み顔が映るそれは、
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『ほーい、ガっちゃん大丈夫。あ、こっちは西側ね』
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「大丈夫よマルゴット、こっちは東側、そっちに二人、拾えてる?」
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『Jud.! ミトっつあんと喜美ちゃん拾えてるよん。ミトっつあん後ろで、ブースターみたいに髪の毛凄くて、喜美ちゃん機首側で踊ってる』
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「どーいうバランス感よ」
ナルゼがうんざり声で言うが、光景が容易く想像出来る自分はどうしたものか。
ただ、
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「ええと、隠竜は今──」
艦首側より後ろは、裂音を響かせる雷撃と流体燃料の霧で見通せない。
だが、重なる八雷光の向こうから、別の音が聞こえてきた。
ナルゼがそちらに抉るような加速を始める先、耳に届くのは、
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「……獣声!?」
隠竜のものではない。
知っている。
今、あの雷の檻から外に届いてくる叫びは、
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「まさか……」
●
アデーレは、一瞬で従士隊の隊列が崩壊したのを悟った。
いきなり過ぎた。
親隠竜が来る、というのは予測されていた事だ。
だが、非神系が八体同時というのは、想定を越えている。
隠竜のチャージに対し、中央密集からの後退で身構えたところまでは良かった。
だが、左右からの非神系が、己の有する力を叩きつけてきた。
布陣の前方側では、ほぼ真横からの攻撃だった。
ゆえに従士隊と戦士団は、一番分厚く作るべき先頭を横から砕かれ、
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……そこに隠竜のチャージを食らったわけですね。
鉄がぶつかり合い、装備が砕け、しかし突然の事に、苦悶の声さえも上がらなかった。
布陣の半ばにいた自分も、同じように吹っ飛ばされた。だが、
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「……え?」
妙な事がある。
自分達は、雷撃の下で、親隠竜の突撃を受けた。
そのはずだった。
それなのに、吹っ飛ばされた身は勢い軽く、受けたのは衝撃と言うよりも風圧で、
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「これは──」
己は見た。
自分達と親隠竜の前に存在する巨大な姿。
その正体は、
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「──非竜刀!?」
●
点蔵は、鈴木・孫一の監視で後部客席にいたため、隠竜の突撃範囲に含まれていなかった。皆と共に防御布陣を組めなかったことへの申し訳なさと、だからこそ無事であった己の行幸を腹に抱えながら、眼前にある光景を確認する。
今、自分達は武蔵から生じる八本の雷撃に伏見城を洗われながら、敵を迎えている。
近くにいる観光客達は退避しつつ、
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「御父様が巻き込まれていなかったことで得た複雑な感情は、何と呼ぶべきでしょうか……」
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「ネ、ネガティブなものでなければ何でもいいで御座るよ!?」
鳥居と孫一の歴史再現どころではない。
正面にあるのは、左右四体の非神系と、親隠竜と、しかしこちらに背を見せて守るような姿勢を取った、
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『……!』
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「非竜刀……」
●
知っている。
先日に浅間達が隠竜相手にハシャいだとき、元々は先行するようにこの非竜刀が生じていたのだ。
この非竜刀は、あのとき、親隠竜との戦闘を行っていたと、記録にはある。
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……無論、非竜刀も、非神系と同様で、本来は人に害為すものの筈!
しかし、それが何故、今、自分達を守っているのか。
自分はそれを思い、
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「────」
ふと、ある可能性を思った。
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……まさか、この非竜刀、発生において、単純な淀みではないのでは?
ミトツダイラのケルベロスと同じだ。
淀みよりも、地元の精霊や、武蔵の純粋な地脈が寄り添って出来たもの。
精査はしていないので、明確な答えを作ることは出来ない。
ただ今、言えるのは、
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「皆の衆! この非竜刀、味方で御座る!」
●
叫んだ点蔵は、直後に皆の反応を得た。
それは、誰も彼もが眉を立てた顔を向け、
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「はあ!?」
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「何言ってんだ貴様! 常識で考えろよ!」
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「いい加減な事言って、振り向き尻尾でも食らったらどうすんの!」
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「あ! こいつ、発光器をこんなに持ってやがる!」
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「ぬううう、飛んだ藪蛇というか、完全に個人攻撃まで呼び覚ましてしまったで御座るよ!」
しかし、助けが来た。
前方の崩れた布陣にて、両腕を振り上げたアデーレだ。
彼女は眼鏡の位置を直し、こちらに声をあげた。
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「大丈夫です皆さん! この非竜刀、味方です!」
その言葉を聞いた点蔵は、即座に皆の反応を聴いた。
それは、誰も彼も首を下に振り、
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「そうだよな!」
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「いい見解だな君! 常識も時には無視する必要がある!」
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「自信ある発言! こんな竜が味方なら、安心ね!」
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「あ! その子、ちゃんと従士の正規ナンバー持ってる! 実力あるぞ!」
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「ぬうううう! 何か性別格差というか、社会の暗部を見たで御座るよ!」
だが、結論としてはこっちの望みと同じだ。
そしてもう一つ、こうなったら自分としては、アデーレに一つ頼りたい。
皆を動かす起点となって欲しいのだ。
今、総員は、非神の斬撃や打撃の風を受けている。
前線は必死に防戦を行っているが、防御の厚さは頼りなく、それを見てか、非竜刀は隠竜と睨み合って動けない状態だ。
だから、
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「アデーレ殿! 以前、隠竜を張り倒したアデーレ殿の見解を聞きたいで御座る!」
アデーレを指さし、自分は言った。
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「現状、どのような作戦がいいで御座るか!」
●
アデーレは、口を横に引きつらせた。
通神用の表示枠に対し、
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『な、何を無茶振りしてんですか──!!』
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『いや、流れ! 流れで御座るよ!』
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『仕方ないね。じゃあ、ここは僕が作戦を立案しようか』
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『危険だからやめろ……!!』
思わず皆と一緒にツッコミを入れてしまい、
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……あ、いけない。
言った分はやらなければならない。
だから自分は、
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「えーと」
風が吹き、雷の火花が降る中で、迷いはするけど息を吸った。
先輩達や役職持ちもいる現場だが、自分だって対竜の経験者なのだ。
ならば、と己は腕を振って叫んだ。
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「全体、左右分隊! ──隠竜は非竜刀に任せて、両翼から非神系を各個撃破します!」
●
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……自分は左舷側!
散った瓦礫を避けながら走った。
手元に、作戦のために用意された防護術式の符を展開。
光る流体の楯を掲げながら、左舷側の列に合流し、
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「突撃──!!」
皆が行くと同時。
中央にいる非竜刀も、身を前に出した。
総員が、自分達を改めながらではあるが、激突を選択したのだ。
●
”武蔵野”は、全体の推移を露天艦橋から補足していた。
検分の判断としては、
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……ぎりぎり、保っているというところでしょうか。
八体同時出現の非神系と、親隠竜。
それらを放置すれば、結局は武蔵に害が残り続けることになる。
だからここで絶対に全て砕かねばならない。
だが、出来るのか。
自分に可能なのは、武蔵からの淀み抽出によって生じる八本の雷撃を、防護系と緩衝系の制御押さえ込むことと、艦の姿勢を保つことだ。
以前の”奥多摩”が出場した戦闘では、艦の傾きが勝負を決めた要因だった。
だが今、同じ状況で動ける者が多いとは思えない。
今回は一般客もいるのだ。
ならば、
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「”西国分寺”、艦首側に傾斜がつきつつあります。艦尾側を下げて水平を。──以上」
戦場に、なるべく悪い要因が出ないようにする。
それが自分達の手伝いだ。
しかし、
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「”武蔵野”様。
──非神系が己を確定、動き出しました。──以上」
●
悪い状況だ。
敵と水平に向き合っている戦士団は気づいていないが、上から見る限り、非神系は出現位置からの移動を始めている。
非神達の方が遙かに背が高いため、戦士団の布陣の意図を読むことが出来るのだ。
更には、妙な事が生じていた。
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……非神系の出力が、上がっている?
己の姿を確定したからだろうか、斬撃や打撃の風が、数多くなっている。
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「──伏見城、非神の結界に包まれます! 以上!」
以前と同様で、荒れた雲の結界が伏見城を包んでいく。
八体が呼応して、自分達の”場”を作ろうとしているのだ。
ですが、と己は思った。
自分はこういう妖物との戦闘経験が薄いものだが、
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……これほど、統制のとれた動きを取るのですか!?
何かが式を執っているのではないかという、そんな疑問に対する答えは、意外な形で回答を寄越された。
声が聞こえるのだ。
雷の奥、風の向こうから、確かに届いてくるのは、
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「歌……!? ──以上」
●
鈴は、歌を聴いた。
退避で、まずは左舷側通路に引き、そこから艦尾側に向かう流れの中だ。
イントロから響く曲は、聞き覚えのあるものだ。
湯屋のカラオケでもたびたび唄われることがあるダンス系の曲。
低音のドラムが叩きつけるように響いてくるのは、
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「”決まり事”……」
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「ふむ、生徒会長、歌によって無事を知らせてきているのか?」
ウルキアガの言葉に、鈴は反射的に首を横に振った。
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……違う!
根拠はない。
だけど、違うと、感覚がそう告げている。
今響く音も、風に絡むような前奏の声も、全ては自分の無事を告げるものではない。
これは間違いなく、
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……この、甲板上の全てを示す曲……!
●
ドラムは雷撃で、歌声は荒れる風。そして歌詞は、
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『夜に出よう 町に出よう いつもの事 変わりない事──』
嘘、と鈴は思った。
これの何処が、いつもの事で、変わりない事なのかと。
だけど、
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……うん。
自分は感じた。
今日の、ここまでのライブにて、人の思いを浴びてきた己は、ある事実を感じた。
この荒れた、砕きの現場がいつもの事で、変わりない事と、ずっとそう感じていた人もいるのだと。
音が、もはや音楽と歌だけではなく、雷や艦の震動をもって伝えてくる。
●
これがいつもだよ。
これが、変わりなくあるべきことだよ。
●
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……何で?
何をもって、そんなことを言うのか。
そんなこちらの疑問について、詞は続いた。
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『皆が出来る事』
それは、今の皆が行っている精一杯の抵抗だろうか。
非竜刀が隠竜と激突し、艦を大きく震動させている事だろうか。
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『私の出来る事』
それは、今、この現状だろう。
間違いなく、生徒会長は、芸能神の奏者として、歌で怪異祓いに介入した。
温まっていた力を解放し、本来ならば浅間の順番で成立すべきことを、強引に自分達で起こしたのだ。
だが、何故だろう。
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『囲まれた空 囲まれた夜』
その通りの今を作ったのは、何故か。
●
鳥居は、半壊したステージで身を回し、声を放った。
眼前には隠竜の背が有り、巨大な激突の音が響き続けている。
左右には非神達がこちらの歌声に押され、侵攻を続けている。
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……だけどさあ。
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『広げた両腕は 囲いの檻に届かない』
どうだ。
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『夜の中にさしのべても 翳りもしない』
どうだろう。
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『ただ歌があれば ただ踊りがあれば』
どうなのだろう。
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『夜はいつもの空気 また私を誘う』
どうだ皆。
●
アデーレは、押される自分達を感じた。
突撃を連続で掛け、シールドアタックを繰り返し、総勢は前に出ているはずだ。が、
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『──夜に踊ろう 町に踊ろう』
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……く!
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『いつもの事。変わりない事』
それはまるで、
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……現状が、ずっと続くようです……!
押してはいる。
しかし、気圧されているのだ。
足は重く、腕は上がらず、ただ心だけが焦り、散る雷撃の火花に弱気を得る。
空はもはや見えない。
あるのは稲妻の檻と、散る流体光と、
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『誰にでも出来る事──』
自分達の行為を、特別としない歌声だ。
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『私も出来る事』
非神が前に出る。
こちらがシールドアタックを重ねるならば、対するように、極厚の大気の刃や貫通撃を連打で叩き込んでくる。
●
減らない。
●
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『空を見上げ 夜を見透かし──』
それが見えているのは、生徒会長達だけだろうか。
自分達には、振り仰げば非神達の見下ろしが有り、空を隠す雷撃と暗雲の檻がある。
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「くあ……!」
右の女子が、姿勢を崩して吹っ飛ばされた。
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……しまった!
慌てて右腕を伸ばし、
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『そして抱いた胸の中』
必死に支えるのは、彼女のためだろうか。
それとも、そうすることで、ここに居続けようとする自分の意思を失わせないためだろうか。
ただ聞こえるのは、
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『囲いの外を望むなら』
まずい、と己は思った。
非神が、自分を見ている。
そんな気がする。
右腕で仲間を支えた自分は、今、前線の一角だ。
そこに対し、
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『私の中にある心は』
来た。
風の攻撃が、一気に四つ。
上から見ている非神にとって、全体のほころびは明確なのだ。
だからというように、
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『──鼓動を越える』
一度に数発の力が、こちらの楯を砕いて胸元に飛び込んで来た。
●
アデーレが風を耳元に感じたのと、眼前に攻撃の四発を見たのは、ほぼ同時だった。
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……死んだあ──!!
非神の力が前髪を揺らす瞬間に、自分はこう思った。
オッパイ大きかったら、十センチほど先で食らってるんですよねー、と。
無くて良かった。
いや、あんまし良くないですけど。
でも今はいいことにしておきます。
だが、現実は厳しい。
すぐに自分は吹っ飛ぶ事になるだろうが、
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……ああ、点蔵さんにノセられた自分が馬鹿でしたね。
あの忍者、もし生きて帰れたら食事を奢らせましょう。
ええ、それがいいです。
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『ええと、すみません』
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「あ、観光客さんの幻影が謝る必要ないですよ!」
しかし、だからと言って現状は変わらない。
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「つまりMURI──!!」
思いを、そのまま言葉にした瞬間だった。
自分は、視界正面の四発が、いきなり光に砕かれたのを見た。
●
鈴は、アデーレの直前で力が砕けたのを悟った。
飛来した非神の四撃を割ったのは、彼女の後ろから飛んで来た四つの破壊力。
しかも、どれも別の形をしたものだ。あれは、
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……槍に、お金に、矢?
振り返るアデーレと一緒に、自分は背後を仰いだ。
階段客席の上、露天艦橋がある。
雷撃の音を背景にそこに立っているのは、
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「ハアイ、賢姉様が愚衆共を救済に来てあげたわよ──! ほら、どいつもこいつもシケた顔してウダってないで、オシーリの穴に気合い入れて前向きなさい! ハイそこアデーレ! アンタ他の人より敵弾が当たるの遅いんだから、とっとと前出る!」
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「思いっきり個人攻撃来ましたよ……!!」
だが、声をあげる喜美が、既に自分の周囲に表示枠などを展開している。
そして、彼女の横に四人分の影が並んだ。
ナイトとナルゼ。ミトツダイラに浅間だ。
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「皆……!」