境界線上のホライゾン きみとあさまでGTA Ⅳ
第三十六章『いつもの園の賛同者』
●
”武蔵野”は、偽神の咆吼を聞いた。
爆圧は空に、そしてほぼ水平方向に放たれた。
自分が殺されなかった事への抗議だろうか。
身を仰け反らせ、振るように戻す動きは舞のそれに等しく。
打ちつける手から放たれる落雷は甲板どころか周囲の大気を薙ぎ払った。
風が起きる。
しかし、偽神の動作よりも、こちらにとって深刻な事態が一つあった。

「艦の流体燃料が、吸われています。──以上」

「え? 何!? 流体チューチューされてんの!?」

「フフ、馬鹿ね愚弟! 流体チュパチュパよ! ねえそうでしょ”武蔵野”!」
この姉弟、二人揃うと今まで以上に業務の邪魔だと判断出来ます。
だが、出力系が低下する勢いで、流体燃料の減少が起きている。
その原因は、

「偽神が、自分を保つために流体を欲しているのだと判断出来ます! ──以上!」
●
”武蔵”は、”武蔵野”からの報告を表示枠で受け取った。
それは、伏見城と武蔵の図解をつけたもので、

……このままだと、三百十八秒後に伏見城が武蔵に落下する……!?
艦を水平に保つべきか。
それとも垂直化して、武蔵の間を通して落とすべきか。
その判断が”武蔵野”から来ている。
彼女としては、もはや伏見城は保たないと、そういう判断なのだろう。
●
伏見城落下を防ぐ方法は、二つある。
一つは、伏見城に、偽神による吸収量を超える莫大量の流体燃料を送ること。
だがこれは、流体燃料を運ぶ手段と時間に問題があるため、ほぼ不可能と判断されていた。
あともう一つは、

「酒井様、偽神の討伐を行うには、何が不足しているでしょうか。──以上」

「──神格武装じゃない?」

「酒井様のは──」

「あれは準神格だから、ちょっと無理だねえ。移動用だし」

「使えない回答を有り難う御座います。──以上」
いやいや、と酒井が苦笑した。

「他にもある筈だからさ、ちょっと頑張ろうよ”武蔵”さん。あとこっちもこっちでいろいろ対処すべきだし、何よりも──」
空、直上の方角から、今まで以上に近く、轟音が響いた。

「何か、上、落雷増えてない?」
●
”武蔵野”は、己の視界に新たな敵を見た。
偽神が、非神を生み直したのだ。
その両手、先ほど非神を食った手から放たれる雷光が、形を取り、非神刀を生む。
二体。
流体による非神ではない。偽神が、雷撃に形を与え、

「浸蝕のポイントを増やすのですか! ──以上」
地脈に介入し、自分達の存在出来る場を作る。
現在、整調された武蔵の周辺地脈を、また淀ませようというのだ。非神クラスなら、その浸蝕をするために自分を削りきって自然消滅するが、この偽神は違う。全ての淀みの集合なのだ。自分を消したとしても、明らかな”汚点”を武蔵に残すだろう。
もしそうなったとしたら、と、己は計測した。
結果は、幾人もの自動人形の検算を経て即座に返るもので、

「武蔵直上に、直径五十メートルほどの怪異発生点が常駐します……!」
以上、と自分は詰めなかった。
更に言葉を重ねるのは、

「──浅間神社代表! この場の権限者としてプランの判断を御願いします」
それは、

「あと二分半以内に偽神を討伐出来なかった場合、当艦を自爆させます。
そうして、発生している浸蝕を最小限に押さえるのが最善のプランです! ──以上」

「解りました」
回答は、雷撃の走る甲板上から来た。
弓を構え、非神に放っていく浅間神社代表が言葉を確かに作ったのだ。

「あと、二分半、そんなに時間が貰えるんですね」
●

「────」
己は、言葉を失った。

……本当に……。
人類とは、訳が解らない。
最善のプランは、二分半後の自爆なのだ。
それまで、何をやろうとも、最善ではないのだ。
だからそう言っているのに、

……人類は、どうして、身勝手な解釈をするのですか。
だが、解釈は解釈でしかない。
それを示すように、

「……!? 偽神周辺の流体変動あります! あれは──」
爆圧と、雷撃の重複だ。
非神もつけてくるとなると、今まで以上の規模の攻撃となる。
なった。
神の鳴る音を、雷という。
そのものの打撃が、偽神側から人類に与えられたのだ。
舞の動作に重ね、まるで遊ぶように、最大の打撃が叩き込まれた。
●
神の一撃は、一部通り、一部が通らなかった。
直撃を覚悟し、防護障壁を構えた浅間は、それを見ていた。
自分達の頭上を越え、巨躯が前に跳びだしたのだ。
非竜刀だった。
白の刀。
それは雷撃を浴び、爆圧を食らい、

『……!!』
尚も突撃した竜は、偽神に咆吼をぶち当てた。

……竜砲!!
先ほどの隠竜戦でも使用しなかった白の竜光だ。
恐らく、非竜刀も疲弊している。
だからこそ温存していた一発を、ここで使うという事は、

『──!!』
浅間の視界の中、非竜刀が、しかし、偽神の身体を狙わなかった。
鳥居の存在する弱点を狙わず、竜砲が穿ったのは、右脚だ。
対する偽神が回避を望む。
だが、こちらに爆圧を放ったばかりだ。
無理な動きは舞として成立しないのだろう。
緩やかに大きな動きをとったが、獣の動作がそれを上回った。
右の脚が、光に散った。
直後。
非竜刀が、偽神の雷撃と爆圧の直撃を受けた。
打撃の音が、雷と圧の爆撃の響きに重なり、夜が揺れた。
巨躯が一度膨らんだように衝撃され、

「非竜刀……!」
●
叫び、己は思った。この竜は、確実に自分達の味方です、と。
きっと、淀みをきっかけとしながらも、武蔵の正常な流体を基礎に生まれたもの。
だけど、と自分は重ねて心に言葉を作った。

……どうして、鳥居さんを撃たなかったんです?
まるで、自分達の望む事を知っているようだ。
だが、大事なのはそのような疑問より、現状だ。
非竜刀は、敵の重爆を防いだのだ。
左右舷側は流石にカバー出来ず砕かれたが、白の竜は後ろ脚二本で浅く立ち上がり、両の前脚と翼を広げ、受けられるだけの全てを受けた。
そして竜が砕けた。
白の光、散る刀のようなテクスチャも何もかも。
咆吼すらあげずに非竜刀が散っていく。
その姿に自分は手を打ち、

「有り難う御座います」
●
おそらくこれは、武蔵の竜だ。
●
地脈は、そこに住まう者や、土地の歴史や、時間とも密接だ。
武蔵の地脈から生まれたこの非竜刀は、そういったものを全て見据え、行動したのだろう。だが、

……え?
己は、竜が最後の動きを見せたのを知った。
背後。
艦尾側。
露天艦橋へと非竜刀が首を向けたのだ。
そこにいるのは、

……トーリ君?

「おう」
彼は、振り向いた竜に片手を挙げた。

「よくわかんねえけど、有り難うな」
そして、

「オメエ、武蔵の何かだろ? だったらさ、また今度、機会あったら頼むわ」

……また訳の解らない事を!!
こんな希少な存在に何度も出て来られたら肝が保たない。
しかし、自分は竜が表情を変えたのを見た。
それは確かに、目となっている知覚部分を細め、

『──!!』
咆吼を上げ、散った。
●
守られた。
それも全力で、全てを懸けて守られた。

「ええ」
その意味が、己の意思を改めて前に向かせた。
眼前には、偽神と雷光の非神がいる。
それらは過熱した流体を池のように広げ、こちらに力を放ってくる。
非神が前に出た。
だが、偽神は前に出てこられない。
右脚を失っているためだ。
膝から下は残っていて、空間的には腰と繋がった状態を保っている。
しかし、芸能神の”型”を用いた偽神だ。
舞の動きをとれないなら、動くごとに自己否定で砕けていくだろう。
故に偽神は、脚を修復しながら、上半身だけで舞った。
身を揺るがし、雷を叩きつけ、圧を唄って、

『──!!』
伏見城の甲板全てが、偽神の舞台となる。
そして、

「あと、一分半です!! ──以上」
どうしますか、と自分は思った。
●
無いのは、力だ。
意思はあるのだ。
後は力があれば良い。
そのための仲間もいるのだ。
だから、まずは、準備として、

「ミト!」
呼びかけた。
甲板の艦首側。
最初の一撃を食らって倒れている人影がある。
ミトツダイラだ。
爆圧のほぼ直撃を食らい、甲板に叩きつけられた俯せで。
自分の防護術式はぎりぎり間に合ったと思ったが、

「──ミト!」
あの位置からならば、偽神に届くのだ。
●
アデーレは、前に出ようとした。
今、自分達の眼前には、観客席だった瓦礫が広がっている。
その向こうには、浅間と、左右舷の空のナイトとナルゼ、そして遠くに倒れ伏したミトツダイラがいるだけで、

「……出ないと」
だが、出てどうするのか。
武装も無く、防御ですら、一撃で砕かれるような相手だ。
数で攻めようにも、あの爆圧で何もかもが無意味とされる。それなのに、

『乗ったわ、浅間、付き合ってあげる』
左右の空から、非神へと高速の射撃が放たれ始めた。
魔女だ。
自分達の同級生の白魔女と黒魔女が、前線を二人で担う覚悟をしたのだ。

『皆、キツかったら退避した方がいいよ。ナイちゃん達、二人ずつくらいは拾えるけど、それ以上は無理だから』
言われ、自分は思った。

……うわー。
吐息して、前に出る。
行く。
行くのだ。
●
夜の中。
滅多に見えない空は、雷の向こうだ。
音もうるさく、ちょっと厄介な状況にある。だけど、

「従士が楯にならないでどーすんですか、ってね」
言うと、口の端に笑みが生じた。

「いいでしょう」
己は言った。
かつても、非神刀や隠竜に突っ込んで、吹っ飛ばされたのだ。
だから悟った。

「従士とは、吹っ飛ばされる事が仕事ですね!」

「オメー、それ楯って言わないんじゃね?」
後ろから冷静なツッコミが来るが、自分は無視した。そして、

「騎士一等!」
遠く、偽神に近い位置で倒れている騎士に、従士として叫んだ。
解っている。
彼女が、爆圧の直前に咄嗟の指示を出したのだ。
自分達に退避と防御を促し、自分は誰よりも前に出て楯になった。
だから自分達は助かった。
だが、それじゃいけない。
従士が騎士に守られるなど、恥だ。
チャンスが欲しい。
もう一度、やり直すチャンスだ。
騎士の突撃を支える機会だ。
それを得るためには、

「騎士一等!」
自分は、疾走する雷光と、それを自動防御して砕けるミトツダイラの防護障壁を見ながら、声をあげた。

「指示を御願いします!」
叫んだ言葉に、答えるものがあった。
ミトツダイラの声ではない。
それどころか、彼女の言葉でもない。
獣の三声。

『……!!』
ケルベロスの叫びだった。
●
ミトツダイラは、意識を醒ました。
このところ、朝によく聞く目覚ましの声を聞いたのだ。
三つ重なって耳に届く獣の小さな咆吼。それは、

……ケルベロス?
その通りだ。
だが、

「──!?」
周囲の状態を知覚するなり、自分は俯せの上半身を起こした。
前を見る。
右脚を砕かれた偽神がいた。
左右には非神がいて、戦場は雷撃の走る荒野だ。
今も自分の周囲では、浅間が用意してくれた自動防護の防護障壁が、迫る雷に砕けている。

……これは──。
状況は解る。
戦闘は続行していて、敵は強大で。
前線にいる自分は、

「……あ」
立ち上がろうとして、出来なかった。
身体が左に傾き、横向きに転がった。
爆圧を食らったのだろう。
人狼として、身体はタフに出来ているが、三半規管が揺らされてしまっている。
ふらつきが大きく、立てないと、そう思う。

……否、違いますわね。
どうしたらいいか、解らないのだ。
●
強大な敵がいて、現状は追い詰められている。
意思はあっても武器はなく、背後からアデーレが指示を求めてくるが、

……このままだと、何も出来ませんのよ!?
どうしたらいい、と、己が思った時だ。

『……!』
咆吼が聞こえた。
眼前、倒れる自分が見たのは、小さなケルベロスの背だった。
尻尾を立て、最大限に自分を大きく見せながら、ケルベロスは偽神に吠えていた。
下がらない。
相当に恐れを得ているのは、総毛の立ち方で解る。
だが、ケルベロスは、下がらない。

……この子は……。
浅間達が言っていた。
このケルベロスは、自分の感情の何かを”型”にしているのだと。
だとすれば、今、この小さな身体を敵に向かわせている感情は何だろうか。
勇気?
違いますわ。
これは単なる無謀でしょうに。
だったらプライド?
いえ、それも違うでしょう。
総毛だってるの隠してませんもの。
ならば守護の慈愛?
いえ、それも違いますわね。
守る対象見てませんもの。
これは、きっと、馬鹿な感情だ。

……ええ。
敵に対し、無謀であっても、ビビっていても、必死にただ前に出て否定する。

「これは──」
と、思った時だ。
眼前に出ていたケルベロスに、偽神が身を向けた。
腕を振り、落雷が来て、

「……!」
●
アデーレは、騎士が動いたのを見た。

……危ない!
ケルベロスを救うため、騎士が強引に身体を動かしたのだ。
前に。
ふらつきながらも確実に一歩を踏み、小さな身体を抱き上げた。
無謀だ。
恐れも含めた震えに満ちながら、己すらも顧みず、

「ですけど……」
座り込むようにケルベロスを抱き、守った彼女の頭上。
光が連続重複で破砕の飛沫を上げた。
防護障壁だ。
甲板の手前側、腕を振る浅間の手元、表示枠が何枚も出ていた。
騎士は守られたのだ。
自分達の指示者、騎士一等の執った行為は、愚かなものだと言われるだろう。
だが、無謀も何も通そうとする感情。
それは何かを、アデーレは知っている。

「正義、ですね」
●
ミトツダイラは、自分の正義を抱きしめた。

『――!!』
無謀であれ。
恐れを否定するなかれ。
我が身を省みるなかれ。
それは全て、かつての自分が見たものと同じだ。
どう考えても無茶で、結局その通りの結果となったのに、自分を守ろうとしてくれた人。
彼が見せてくれたものは、自分の中に確かにあった。
だから、己は信じた。
自分の中の正義が、支持をされていると信じた。
ゆえに、

「我が王!」
正面、追い打ちの雷撃が走ってくる。
構わない。
必ず支持はあると、そう確信し、振り向きもせずに叫んだ。

「我が王! ──今だけの力を!」

「オッケオッケ、さっき頼んどいたから」

……軽──!!
だが、それは来た。
直上の天を貫き、眼前に立ったもの。自分が見慣れたその形は、

「先生の長剣!?」
●

「真喜子さん、借りちゃって良かったの?」

「ええ、子供達には危ないので、鞘は抜けないようにロックしましたけど、あれ、一応はIZUMOの試作ですしね。流体系の対応は出来るので。それより──」
オリオトライは酒井に目配せした。
横を見ろ、と。
そして酒井が振り向いた右横。

「”武蔵”さん、……何か上見て、怒ってる?」

「いえ、別に、重力射出した行き先が気になっているだけです。──以上」

「あー、うん、何か凄く手際よかったね。大物飛ばすの初めて?」
問い掛けに、”武蔵”が視線からゆっくりと振り向いた。
そして彼女が、酒井に一つ頷き、こう言った。

「初めてです。そんなに手際がよく見えましたか。──以上」
●
ミトツダイラは、自分の身長ほどもある長剣を手にした。
頭上にケルベロスを乗せ、両手で構えると、

……随分、重いですわね。
オリオトライは、きっとこれをバランスで振り回しているのだろう。
自分にとっては、力で振り回すしかないものだが。

「剣術など、早く軽く動けるように練習が必要ですわね」
吐息で呟きながら、自分の視覚は、鞘からゆっくりと立ち上る流体光を見た。
鞘はロックされているが、構わない。
非神がシールドアタックで砕けたように、流体系攻撃が可能なら、衝撃はそのまま攻撃となる。
斬撃よりも、面で破壊出来た方が好都合だろう。
自分の使命は、偽神の左足を砕く事。
だが、

「っ……!」
雷撃が厚い。
更には、偽神が幾度かゆっくりと空を仰ぐ動きを見せている。
爆圧を、再度叩き込もうというのだろう。
ならば、と己は思った。
雷撃を長剣で砕き、手応えを憶えながら、銀狼は、今の自分に足りないものを言葉にする。

「従士隊! 偽神達の雷撃を押さえなさい! あと、智──」
と、呼びかけた言葉が、止まった。
非神だ。
追加の一つが、産み落とされる。
素材に使うのは、砕かれた右脚の破片だ。
正面だった。
走ってくる稲妻は長剣で破砕出来る。
しかし、幾発かは背後に抜け、

「智! 貴女の神格武装はありますの!?」
●
ミトツダイラが肩越しに振り向いた先。
浅間がいた。
彼女は片梅と呼ばれる弓を手にしているが、これは神格武装ではない。
非神や偽神のような大物相手ならば、動きを止めてから本体内の”核”を撃つのが常道。
だけど、浅間に神格武装がないという場合は、

……私が、全て砕くしかありませんわよ!?
それでも、対応手段があるだけ、随分と事態は好転した。
ただ、

「あと、一分です! ──以上!」
●

『……え!? タイムリミット!? 何ですのコレ!』

『ああ、ミトっつぁんが寝てる間、”武蔵野”が煽りまくってねえ』

『じゃ、ミトツダイラ? 一分で偽神砕いてくれる? 私の方はもうアンタ拾って逃走する方に賭けてる感じだけど』

『諦め早いですわね!? そうですわね!?』

『い、いや、大丈夫ですよ! うちの方の新規武装をトーリ君がうちの父さんに頼んでたようで、マサの方から射出されてきます!』
来る。
空に、一直線の雲の棚引き上がった。

「あれは──」
風の斬撃を防ぎながら振り仰ぐのは、

『ちとデカいのと、倉庫近かったから、武神用の射出機で打ち出した。
受け取るがいいさ、アサマチ』
はい、と、浅間が構えた。
両腕を広げ、眼前にそれが落ちたら、すぐに手にするつもりだ。
落下が、来た。
一瞬だ。
甲板に食い込む勢いで、快音が落ちる。
届いたのは三メートルほどの、杭に似た配送ケースだ。
白地に赤で白砂台座のエンブレムと浅間神社のロゴがある。更には、

「上位用……!?」
中位の浅間に対してのものだから、特別許可が出たのだろう。
確かに浅間の手元には表示枠が有り、使用契約だの何だのと言う文字が言える。
神格武装だ。
確かにそれは、こちらに届いた。だが、

「私の真後ろですのよ──!」
浅間まで、余裕で百メートル以上ある。
●

『あれ? 届かせるのは、さっき”武蔵”が打ち込んだ位置じゃないんさ?』

『あれは前線の私の位置! というか私、今ちょっと前に出てなかったら上からグシャアでしたわよ!?』

『あー、悪い悪い。現場で調整してくれさね』
●
ミトツダイラは、無言で配送ケースを蹴り飛ばした。
両腕が塞がっている以上、そうするしかないのだが、

「……え?」
配送ケースが、蹴った瞬間に割れた。
宙に跳んだのはケースのパーツと、その中にあったもの二つ。
見たところ、折りたたまれた弓と加護手のセットと、もう一つは閉じた扇にも似たバインダーのセットだ。
見た目より軽いらしく、それは宙に飛ぶが、

『え!? ちょっと、全く届きませんよ! ミト、ちゃんと本気で蹴りました!?』

『何かツッコミどころ違くない?』

『いや、本来なら着地の衝撃で開く筈なんだが、タイミングが悪かったんかねえ』
だが、二つの内包物は、やはり左右に分かれて宙を舞った。
落ちる位置は左右舷側。
浅間まで五十メートルほどの位置だ。
届かない。
それどころか、二つに分かれては回収も難しい。
更には、

「……非神!!」
●
左右の非神が動き出した。
宙を落ちていく二物を危険と判断したのだろう。
連続で風の斬撃を放ち、破壊を狙う。

……マズイですわ!

「人のものを足蹴にしないと、小等部で習ってた筈ですのに!」

『桶とか、足で摘んで揃えるの、あ、あり?』

『有りでしょう!!』
回線を開放しすぎじゃないだろうか。
だが、浅間の武装は落ちていき、そこに非神の斬撃が重なっていき、しかし、

「……!?」
自分は、錯覚を得た。
落下する浅間の武装二つが、甲板に触れる直前でいきなり水平方向に突っ走り出したのだ。
否。それは錯覚ではなかった。
浅間用の神格武装。
それを構築する二つのパーツ群は、確かに運ばれている。
高速で疾走する二人。
荷物を掲げて行くのは、

「安芸の、陸上部……!」