境界線上のホライゾン きみとあさまでGTA Ⅳ
第三十七章『支配者の受け継ぎ』
●
安芸陸上部の代表。

「そうともさ!」
荒れた甲板を走るのは二人だった。
●
行く。
安芸陸上部のエンブレムをつけたシャツに、短パン姿で。
片方はスパイクを履き、片方は裸足だ。

「おい! 裸足野郎! 足裏痛くねえのか!」

「お前こそ、荒れた足場でスパイク跳ねてんじゃねえか!」
左舷と右舷、行く二人は自分の荷物を抱え、お互いの顔を見合わせた。
そして歯を剥いた笑顔を作ると、空を見上げた。
この船のまっすぐ上。安芸の観覧船が存在している。
自分達が、下の危機を見て飛び降りた船だ。
その側部から顔を出し、身を乗り出しているのは、安芸の学生達。
皆、先日の非神刀事件に出場していた者達ばかりだった。

「あの時の恩を返すぜ、極東武蔵!」
彼らを追うように、非神の斬撃が連続で突っ走る。
だが、二人は身を前に倒し、

「勝負……!」
疾走した。
一歩のストライドが伸び、前に倒した額が風を切る。

「おい! 部長様よ!」
背後から追ってくる斬撃を見て、裸足が叫んだ。

「そっちの荷物を俺に寄越して、お前、俺の後ろの一発食らえよ! そうすりゃお前、ヒーローになれるぜ!」

「お前こそ、俺が食らいそうになったら壁になるってのはどうだ!?」

「嫌だよ馬鹿!」

「俺もだ馬鹿!」
じゃあ、と二人は同時に言った。

「まくるしかねえな!」
●
両者が身体を倒し、腰を垂直に上げた。
腰の高さを上半身の振りで押さえ込み、脚の動きで腰が浮かないようにする。
腰が浮かなければ、脚の力は全て甲板に叩きつけられる。
二人はそうして、全身の動きを繋げた。
腕を振る事で腿のかち上げを支え、上半身を下に振る事で蹴り脚を床に叩き込む。

「……!」
加速した。
一歩一歩が尊いというように、足を踏むごとにストライドが伸び、速度が上がる。

「くっそ……!」
部長が声を放った。

「俺、すげえ格好いい!!」

「だったら俺は美しいね!」

「裸足で何言ってんのお前? 軽石で毎晩足裏こすってる俺にかなうと思ってんの?」

「はあ? インソールに脱臭効果あるの入れてんの誰? おい」
うるせえよ、と言いながら、お互いが、

「……っ」
速度を上げた。
もはや、身体を動かすという加速法ではない。
全身を、走らせるのではなく、前に跳ばす。

「行くぞ……!」
一気に、二人が背後から追う斬撃を引き離した。
更に、先行して飛んでいた斬撃すらも、二人は追い越した。
その前を交差すらして、彼らは同時にこう叫んだ。

「極東ナメんな……!」
●
アデーレは、息を詰めた。

……そうですね。
安芸は暫定支配を受けている。
安芸はK.P.A.Italiaの庇護下にあるとは言え、居留地は極東の所属なのだ。
今回の雅楽祭、安芸の能舞台は使えなくなり、安芸側の正式参加は見送られている。
安芸にいる極東勢にとっては、非神刀の一件について、何の返答も出来ない状態だった筈だ。
ならば彼らの疾走は、今の一声を告げるためにあったのだろうか。

「それに……」
自分は憶えている。非神刀と戦闘のとき、この二人は加速術式を使って走っていたのだと。
だが今は違う。二人は、身体の強化加護などはあるだろうが、

「おおおおお……!」
加速術式無しで、非神達の斬撃を抜いた。そして、

「ゴォ──ル……!!」
浅間の横を通り過ぎながら、彼女の荷物を甲板に突き立てた。
●
浅間の装備が、保護ケースから自動展開で懸架されていくのと、ファナリストの二人が立ち上がりつつあった戦士団に受け止められるのは同時だった。
雷撃は有り、圧はある。だが、

「……!」
己は、前に出た。
ミトツダイラが、騎士として前に出て行くのだ。
だから、その前に、道をつけるために、

「行きます!」
叫んだ瞬間だった。

「──Jud.!!」
大勢の声が後ろから響き、自分と並んだ。

……え?
戦士団だ。
従士隊、第一特務隊と、そこまでは解る。しかし、

「皆!?」
●
アデーレは皆と並んだ。観客として来ていた学生達も、自分のクラスの者達も。

「ははは、楯持ちくらいは出来るよアデーレ君!」
イトケンに頷く巨躯は、楯を四枚重ねで持ったペルソナ君だ。
他、ウルキアガも、ノリキも、皆がいて、

「ええと、鈴さんは……」

「ここ……!」
声は背後から来た。
流石にこの突撃には加わらないのだろうと、皆は安心して振り向いた。
そこに、白のドレスを着た鈴が立って、手を振っていた。

「さて」
ネシンバラが、両腕を軽くげて、困ったような笑みで言う。

「僕達の姫様は不退転のようだよ」
馬鹿な妄想を、とは誰も言わなかった。総員はただ頷き、

「じゃあしょうがねえ!」
先行する騎士を追って、全員は行く。

「行くで御座りますよ!」

「――はい!」
足並みを揃え、可能な限りの走りで皆は行く。
対し、敵とて見ている訳では無い。
正面と左右から、斬撃と雷撃が放たれる。
非神だ。
二方からはナイトとナルゼが援護射撃を繰り返しているが、動く非神の核を貫くのは至難なのだろう。
出来ればそちらの対応をしたい。
皆がミトツダイラに届くまでに、左右から削られるのは避けたいからだ。
だが、左右からの攻撃は厚く。

「正面を狙うこちらに容赦がありませんの!」
今も、連続の打ち込みが飛来する。
しかし、直撃の一発が、

「──!?」
こちらに届く前に破砕した。
●
点蔵は、皆の隊列が崩れぬよう、早い者を前に、遅い者を後ろに送りながら、それを見た。
敵の放つ斬撃が、甲板上から消えていくのだ。
それは放たれ続けているが、飛ぶほどに存在出来ず、光に散って割れていく。

……一体、誰が!?
ナイトとナルゼではない。
二人だけではこれだけの応撃を賄えないだろう。

「ならば──」
点蔵は、水平の空を見た。
夜の闇、その中に紛れるように、無数の姿がある。
魔女達だった。
武蔵配送業の内、戦闘能力を持った者達。

「ウヒョー! ここが出番だね!」

「極東の魔女は、結構いるのよ」
彼女達が、援護をしている。
●

「……全く、学生の力を見せるのが大事なのに、オバさんどもが余計な事を」
ナルゼはうんざりを自覚して呟く。
すると、己の声に、北の空から返事があった。

「だから、対処するのはアイツが余計に呼び出した非神の斬撃だけにしてるじゃないか。
本命は偽神。それはお前達が倒すべきもの。そうだろ? ──双嬢」

「そうですね。配送業第一位。
そして、次代の代表候補達。
貴女達が本当の現場に立つための舞台が、きっとここなんですよ」
そうね、と自分が”山椿”と”海兵”に頷いた時だった。
偽神が動いた。

『……!!』

……あれは――。
あの動きを、自分は知っている。
広範囲の雷撃と、爆圧を一気に叩き込む前触れだ。

「来るわよ! 対流体加護の弱い連中は下がって!」
叫ぶなり、それが来た。
光と、声の無い音圧の広範囲攻撃。
甲板にいる者達を薙ぎ払う、偽神の声だ。
だが、自分は聞いた。偽神の吠える歌の中に、

……は? 別の歌?
もう一つの歌が、重なっているのだ。
●
声が聞こえる。
鳥居の口調で、偽神の圧が唄っている。
それは、か細く、

『ただいつもの事で ただいつものように……』
この爆圧の薙ぎ払いと、全ての拒絶をいつもとするのか。

「退避──!」
叫ぶ向こうで、歌が聞こえた。

『夜はいつもの空』
何もかも無くすつもりか、

『私の背を押して』
押されぬ身だからこその拒絶が、夜を吠えた。
●
か細く、泣くような歌を響かせる偽神の圧に、皆は身構えた。

「根性──!」
だが、総員の防御より先に、正面から爆圧に激突するものがあった。

「フフ、馬鹿ねえ。そんな暗い歌で。
祭の唄ってのは、こういうものよ」
露天艦橋上。
喜美が舞った。

「ダイジェストだけど、行くわよ、──”早朝協奏曲”」
●

『一体いつから やっているのさ』
圧に、声が激突した。
それは偽神の歌に対し、遙かに小さいもので、

『いつも一人で 続けているのさ』

「そうよ」
喜美は言った。

「アンタなんかより、ずっと昔から、一人で続けているのがいるのよ」
だけど、

『いつも通りに いつもを変えて』

「その馬鹿は、”いつも”というものを”何も無い”とは思わないの」
こちらの舞と言葉に、ある現象が起きた。
光だ。
皆の正面。偽神と自分達の間に、壁のような光の破裂が生じた。

「フフ! 偽神の放つ爆圧や雷撃も、流体によるものよ!
だとすれば、どう抵抗したらいいか、解る!?」
己の声も、術式として流体に乗せたものなのだ。

「フフ、後はイージー、かあんたあん!」
その両者が激突し、破砕する。
偽神の爆圧、その展開を止めたのだ。
●
笑い、しかし汗が出た。

……やっぱ上位は、やるわねえ。
爆圧と歌の激突だ。
現状、拮抗しているようだが、押されている。
非神刀相手ならこのくらいで場を制圧出来たのに。
このまま押されると、流石に危険だ。
だ・け・ど、と自分は言った。

「偽神? 見覚えたわよ? アンタの舞」
流石は上位である鳥居の舞だ。
動きが複雑かつ精緻で、幾つかのポイントで騙されてしまった。
コツは、動いていると思ったところが動いてなくて、別の場所が動くという事だろう。
上半身を振っているように見せて、腰のくねりと肩だけであったり、身体を前に倒しているようで、ただ腰を上げ、首を前に倒しているだけだったりする。
それは単なるフロックではない。
その動きだからこそ、シフト出来る別の動き。
それに転じるためのものだ。
だから、見ている側は、騙される。
ある動きから、当然あるべき動きが始まるかと思えば、違う動きが開始されるからだ。
それはしかし、後の動きに仕掛けがあるのではない。
先に作られた騙しの動きこそが、仕掛けなのだ。
だが、己はそれを読んだ。
難しいのは、鳥居が自分よりも小柄な事だ。その分の補正をして、

「逆位動作で、浸蝕してあげる」
●
舞を逆転した。
そして速度を上げる、
向こうは足が使えない。
ならばこちらの方が舞は”上”だ。
だから後は、

「乱しなさい……!」
圧は迫る。
だが、狙うは本体だ。
偽神はこちらの視界の中で、

「……!」
砕けた。
全身に亀裂が走り、流体の光が血のように散った。しかし、

……あ、ヤバ。
偽神を崩すための舞に集中し過ぎた。
結果、全体防御としての流体障壁が弱くなり、壁を押してきた偽神の咆哮圧が一気に拡大し、

「ちょっと、喜美! 同じ神社系列の緩衝で押さえるんじゃなかったんですか!」

「いや、そんなこと言っても、武蔵上では大椿も浅間の管理下じゃない?」

「そーいう丸投げやめましょうよ……! というか、溜めた分だけ、向こうの気合い弾が大きくなってるんですから!」

「浅間さん! 変な技名と、前線の不安煽るのやめて下さいよー!」
と、アデーレの叫びに合わせるように、偽神の”圧”が、完全にこちらの声を押した。
わあ、と、眼下で突撃を掛ける皆が身構えた。

……全く、面倒ねえ。
自分は吐息して、舞いながら集音器を胸の間から出した。
それを手にして、こう言った。

「──愚弟!」
●
浅間は、装備を身に着けていきながら、艦尾上に特設されたステージを見た。
馬鹿二人が、今、そこに並んでいる。

「さーあ! 偽神吹っ飛ばすのに一丁行くわよ!」

「オッケオッケ! 俺も入れて合計二丁! 行くぜ姉ちゃん!」
一人は喜美で、もう一人は女装だった。
どちらも巫女服姿で、特に女装の方は偽巨乳も詰めながら、

……喜美に似せた髪色のウイッグとか。
髪はややストレートに加工してあるが、あんなもの、いつ用意したんでしょうか。
あ、いや、芸風違うので、あんま気にしちゃ駄目ですね。
だが、二人は声を揃えた。

「愚弟、動きを真似出来る!?」

「尻振るの、ちょっと無理かなあ」
それ以外出来るなら凄いです。
そして始まった。

『行くわよ諸衆! オンステージ!!』
直後から二人の歌声が走った。

『時間合ってる』

『単独行』
重なる。
二人は大椿の中位。
一人では上位に敵わないが、二人ならばどうか。
そして生まれた新しいこちらの圧が、迫る爆圧に刺さった。
対する偽神が舞う。
声がする。
それはやはり、

『広げた両腕は 檻の外に届かない……!』
拒絶の歌だ。
●

……構わないわ!
喜美は舞った。そして唄うのは、

『さあ行こう さあ行こう』
弟と声を重ね、舞いながら告げる。

『いつも通り 勇気出し』
唄った。

『扉開け 叫ぶのさ』
弟と手を取り、眼下の浅間を見て、歌詞の通りに自分達は叫んだ。

『覗きに来ました浅間神社──!!』
●
浅間は、赤面を感じた。

……最後、こっちに奉納したバージョンで唄いましょうよー……。
だが、仕方ない部分もある。
実のところ自分が歌詞を作るのが遅れて、この雅楽祭、自分の持ち歌としてこれを唄おう、という事になっていたのだ。
喜美は苦笑しながら、

「こりゃ、アンコールは絶対に取らないとね。
でもまあ、この歌だって、アンタが初めてカラオケで選んだ曲なんだし、合っていると言えば合ってるわよ?
大体、これを浅間神社の代表が唄ったら、それだけで話題になるし」

「コミックバンドになってる気がしますが……」
だが、浅間神社で集まった夜に、ナルゼ達にこの案を話したら青い顔をされた。

「”生”ネタは卑怯よ……!」
とまで言われたが、そういうものだろうか。
だが、

……唄えるなら、自分で唄いたかった気もしますね。
自分もちょっと芸人になってしまったという事だろうか。
しかし、

「……あ」
空に、光の爆発が生じた。

「偽神の歌が、砕けます……!」
行けるか。だが、

『――!!』
左右の非神刀が、援護のように軋む咆哮を上げた。
偽神の歌を護ろうというのだ。
しかし、対抗するものが生じた。それはもはや一人ではなく、現場にいる全員の、

『覗きに来ました浅間神社――!!』

『YEAHHHHH!!』
●

『――!?』
偽神の歌が迷った。
それで決まりだった。
空が割け、明らかに闇が亀裂を得た。
そして、暗い大気が光に弾け、

『アハ! 歌い手も踊り手も、観衆を味方に付けた方が勝ちなのよ!』
偽神の爆圧が、馬鹿二人の舞の介入と歌によって砕かれたのだ。
●
”それ”は光の塵となり、雪のように空を舞った。
散っていく光の下を、行く無数の姿がある。
その先頭は、

「突撃……!」
ミトツダイラが、アデーレ達を従え、走って行く。

「行きます!」
●
ミトツダイラは、ただ自分の使命を果たした。
雷撃を受け、防御し、耐えては吹き飛ばされる皆の間を抜け、

「……っ!」
長剣を、ただ一直線に偽神の左足に叩き込んだのだ。
快音が響き、鞘から放たれる流体光が白く、月光のように輝き、

……っ!
異族の血が身を震わすと同時。
硝子を割るような音と共に、巨大な女の足首が砕け散った。
●
ナイトは、非神を砕きながら、その光景を見ていた。

……アサマチが、構えていく……。
自分達の中で、恐らく最も”上”にいる者。
自分とナルゼが、ようやく同じステージに上がれたと、そう感じる相手。
無論、向こうはそんなことを思ってもいないだろうし、自分達だって、やがてはそんなことを意識しなくなる筈だ。
だが、今の自分達において、いろいろな思考の判断となった存在が、

……うわあ。
中位の彼女にとって、やがて来るであろう上位装備。
それは、いつも彼女が使用している弓を、巨大な籠手に上下一本ずつ差したものだ。
腰の左右には自己位置確定用のバインダースカート。
腰の後ろには排気用のテールバインダーが二枚もついている。
そして彼女は、弓を天に起こした。
通神から聞こえる声は、いつもの落ち着いた響きで、

『──浅間神社は、武蔵を守るために、その力を行使します』
砕け、膝をついていく偽神に向け、つがえられる矢は先端を潰してある。
救うのだ。
●
浅間は、己の位置を確定させた。
既に左右のバインダースカートは、空中に展開した位置固定用の表示枠を貫いていた。
足下も靴横のピックが甲板に打ち込まれている。
樹脂材で出来たソールは分厚く、しかしある程度の軟度をもってこちらの身体を支えてくれている。
あとは胸を反り、

「白砂台座、試作神格装備”梅椿一型”」
二本の弓は、籠手の上下に接続されている。
後は番えた弓を、術式弦とともに引き、

「ん」
息を吸うタイミングに合わせ、弦を一息に引き絞った。
正面に照準術式がレンズ状に展開し、絞り合わせの旋回を自動で始める。
そして見える偽神を狙いながら、

……行きます。
籠手のグリップを握って引いた。
そのスイッチに連動し、弓を接続している装甲部分が前にせり出した。

「つ……」
一気に張力が高くなり、矢が震えた。しかし、

……我慢!
●

「なあ、姉ちゃん、浅間、プルプルしてね?」

「フフフ、オパーイもプルプルしてるわよ! そうよね浅間!」

……この姉弟は──!
ハナミが、一枚の表示枠をこちらに見せた。
雑念メーターと書かれた一枚は、ゲージを赤まで溜めている。

……くあ──!

「誰か、ちょっと、気分切り替えるための禊祓の水か塩持ってませんか!?」
●

『あるわけないじゃない。あの巫女、おかしくなったの?』
どーだろうね、と応じたナイトは、しかし、自分が浅間の要求を叶えられることに気づいた。

『アサマチ、水でいいの?』

『え? あるんですか?』
ああ、うん、と、己はインナースーツの懐に手を突っ込んだ。
魔女服に着替えるときも、インナースーツに入れている小物類は条件次第で継承される。
財布や貴重品を位相空間に仕舞われては困るからだ。
とはいえ、極東式とM.H.R.R.型のインナースーツは差があるもので、対応箇所は少なく、

「あ、運がいい。あった」
それは、薬包に入ったもの。
”黒嬢”の射出ラインに乗せて撃ち出すのは、

「青雷亭の”水”。行くよん」
●

「pナンタラ、ナイスアシスト……!」

「いやホントにスゲエよ……」
●
頭から”水”を浴び、息を整えると、雑念メーターが下がった。
本当に水らしい。
どういうことなんでしょーかね……、と思う心も止めて、浅間は矢を向けた。
手の震えはない。
額に汗が浮き始めているが、構わない。
左目の義眼、”木葉”が、照準術式と連動。
射撃許可を出した。
だが、自分は、まっすぐに相手を見据え直し、皆を思った。

……ここに来る事が出来たのは、皆さんのおかげですよね。
自分達の分の雅楽祭は、無茶な事になってしまったが、まだ先はあるし、

……うん。
●
いつも通り。
●
でも、自分達の”いつも通り”に閉塞はないと、自分はそう思う。
たとえ偽神がこちらに手を伸ばし、

『広げた両腕は』
唄う。

『檻の外に届かない……!』

「さあ、どうでしょう」
己は言った。

「いつもは、いつものままで、でも、いつものものではなくなっていくものですよ。
──私はそう信じます。信じていられます。だって皆と動き続けるから」
だから、

『私の背を押して』
頷き、自分は告げた。
ようやく、皆と共に、答えとして、

「──会いました」
●
風を纏った矢が、偽神の姿を抜いた。

「センキューぶち抜きフォーエバー!!」
光が散り、避けて割れ、舞い散った。
偽神が崩壊する。
闇色に近かった全身は光として破裂し、それは、

『――!』

『――!!』
左右の非神刀達にも連鎖した。
一斉の光爆発が生じ、しかし響く音は白い波のような、寒気を伴った高鳴りだ。
ただ極厚の波のように光が溢れ、偽神の全身は空に光の柱を突き立てる。
立った。
それはしかし数秒。全てほどけるように砕けて下り、

「艦から流体光が溢れますわね!」
その通りのことが生じた。
光ばかりがある現場の中、誰もが顔を見合わせて笑い、光と音に全身を洗われながら、

「……!」
歓声を上げたとき、皆は気づいた。
自分達のいる伏見城が、武蔵八艦の間。
奥多摩と武蔵野の間にまで降りてきていたという事実を、だ。
”武蔵野”が、周囲八艦を見回し、軽く頭を下げる。

「結局、二分半で自爆は控えました。
──どうにかなると判断出来ましたので。──以上」
その声に、空と全艦のあらゆる場所から、歓声が上がった。
雅楽祭が終了する。
その合図となる、喜びの声だった。
○

「完! 全! 決! 着……!」

「あっあっ、感心して見ていたら出番が……!」

「普通は無いんだから、それでいいんじゃないかしら……」

「事件としては、これで終了ですか?」

「Jud.、でも雅楽祭や私達としては、ここからのアフターケアがありますの」

『……!』