野﨑まど劇場

作品 No.10 魔王


「魔王様」

「魔智将軍フェンブラか」

「はっ」

「何用だ」

「どうやら例の勇者が、とうとうこの魔王城に近付きつつあるようです」

「ほほう。ついにきたか」

「かなり力を付けている様子」

「フェンブラ。この我が、魔王であるこの我が、力を付けた人間風情に遅れを取ると申すのか」

「滅相もございません。勇者ごときが何人集まろうと魔王様の敵にあらず」

「一捻りにしてくれる」

「しかし魔王様。あの程度の勇者、魔王様が直々にお相手することもありません。我らが最強の魔王軍とこの魔智将軍フェンブラが、魔王城の迷宮で片付けてご覧にいれましょう」

「迷宮なぞあったか」

「これから作ります」

「間に合うのか」

「人手はありますゆえ。つきましては魔王様には、迷宮建造の具体的なご指示をいただきたく」

「よかろう」

「こちら図面です」



「こっちが入り口です」

「ここから勇者がやってくるわけだな」

「御意」

「ではこうだ」



「魔王様」

「なんだ」

「加減というものがございます」

「勇者を殺すのに加減する必要があるのか」

「あまり圧倒的にねじ伏せ過ぎますと二度と来なくなりますゆえ。そうなると我々も存在意義と言いますか立場というものが」

「難しいものだな」

「とりあえず最初ですから苦戦しつつも勝てそうなモンスターを配置してください」

「どれぐらいだ」

「ヘルハウンドぐらいで」

「なに? 勇者の奴ヘルハウンドに勝てるのか? 地獄の番犬だぞ?」

「そう言われますと私も自信が……。多分勝てるかと……いやどうでしょう」

「一応もっと弱いのにしておこう」

「そうですね」



「弱過ぎませんか」

「勝たれる分には文句はないのだろう」

「まぁそうですが」

「最初だしサービスしてやろう」

「御意。では続きをお願いいたします」

「うむ」




「魔王様」

「なんだ」

「迷宮にございます。ダンジョン。迷路」

「そうだった」

「分かれ道お願いします」

「面倒だな……」



「誰も曲がらないでしょ魔王様。道から行き止まりが見えるでしょ魔王様。もうちょっと先まで作ってください魔王様」

「うるさいなぁ」



「イラつくダンジョンですね」

「勇者がイラつくならよかろう」

「来なくならないと良いのですが」

「次はなんだ」

「そうですね……では宝を置いておいて下さい」

「サービスし過ぎではないか」

「魔王様。これは魔王軍のスケールの大きさを示すためでもあるのです。財宝を見た勇者は魔王軍の財力に驚愕し、戦慄し、畏怖するのです」

「そういうものか」

「そういうものです」

「わかった」



「加減」

「財力を示すんだろう?」

「魔王様。金貨なんで。小切手じゃないんで。置いておこうとするとこうなりますんで」



「すごいな。勇者も喜ぶだろう」

「人間変わりますよ」

「なんかさっきからサービスし過ぎな気がする」

「そうですね。少しは罠も作りましょう」

「そうこなくては。ふはは、勇者よ苦しめ。苦しむがよい」



「無理ゲーです魔王様」

「回復魔法で回復しながら来ればいいだろう」

「絵面を想像して下さい」

「……辛いな」

「少し緩めましょう。これくらいで」



「効くのかこれ」

「金貨のとこを通った後ですし。人格攻撃はよく効くでしょう」

「そろそろ倒してもいいんじゃないか」

「そうですね。大分弱ったはずです。ではこの辺りで私が出ましょう。この魔智将軍フェンブラが」

「お前汚いなぁ」



「姫がいる」

「この日のために王女を誘拐しております。これで勇者は手も足も出ないはず」

「お前汚いなぁ」

「魔智将軍フェンブラとお呼び下さい」

「罠も置いていい?」

「棘の床以外なら」

「ちぇっ。だったら……そうだな……」



「辛い、辛いです魔王様」

「ふはははは。これならば間違いなく勝てるであろう。フェンブラよ、すぐさま迷宮の建造に取り掛かれ。身の程知らずの勇者を迎え撃つのだ!」

「仰せのままに!」




 魔智将軍フェンブラがたくさんの棘のある姫から人格攻撃を受け、言い返そうと思って近付いたのが棘の出る姫だったので棘に刺さって戦死したのはそれから一月後のことであった。

刊行シリーズ

独創短編シリーズ2 野崎まど劇場(笑)の書影
独創短編シリーズ 野崎まど劇場の書影