野崎まど劇場(笑)
作品 No.17 まごのてコレクション
「ねぇねぇねぇ
「なによ、
「本なんていいからさ。一緒にこれやろうよ」
「これなに? 携帯のゲーム?」
「ソシャゲだよソシャゲ。CMいっぱいやってるじゃん。佳奈ちゃんもスマホ買ったんだからさー。一緒にやろうよー」
「私はそういうのは別に……」
「やろうよぉ!」
「なんでそんなに勧めるの」
「友達を招待すると特典カードもらえるの」
「ああそういうこと……。まぁいいけど、無料なの?」
「無料無料」
「じゃあやってみる。どうすればいいの?」
「今招待メール送るー」
「あ、来た。このアドレスにいくのね」
「少し先まで進めないと特典カードもらえないから頑張ってね佳奈ちゃん」
「ひっ」
「どしたの?」
「急にスマホの画面に大勢のお年寄りが……」
「それそれ」
「なによこれ……」
「
「私やらない」
「なんで! やってよ! 特典カード!」
「そんな痛ましいの嫌だよ……もうタイトル画面から痛ましいし……」
「かっこいいじゃん! ほらこの真ん中のお爺ちゃんが
「誰よそれ……」
「遠距離系最強のお年寄り」
「ごめん、何言ってるかわからない」
「いいからやってよぉ! 特典カードもらえたらウチで余ってる弱い老人全部送ってあげるからぁ!」
「わかった、やるから、絶対送らないでよ……」
「やったね! じゃあ気が変わらないうちにドンドン進めよ! チュートリアルから!」
「あ、なんか女の子が出てきた」
──有料老人ホーム『まごのて』にようこそ! 貴方のお世話させていただきますヘルパーの酒井です!
「ねぇ杏。このヘルパーさん、何故こんなに胸の開いた服を着てるの?」
「最初は多少の露出がないと食いつきがね」
「なんのよ……」
──この老人ホームではカードを使ってライバルの入居者たちと戦うの。
「なんで」
「そういうものだから。大体みんなそうだから」
──最初に貴方のタイプを三種類の中から選んでね!
【 悲観 】
【 孤独 】
【 病気 】
「選ばないといけないのこれ……」
「いけないの」
「じゃあ…………【孤独】にする……」
「あー。それ辛いよ?」
「わかってるよ!」
──次はカードをもらうよ! 老人ガチャを回そう!
「この酒井さんて人、なんか酷いんだけど」
「そういう名前のガチャなんだからしょうがないんだってば。ほらタッチして、ガチャ回して」
「お年寄りが輝きながら出てきた」
「何もらえた?」
「ええと」
[孤独]
歳72 HP8 攻1400 防1200
「娘夫婦の顔なんてもう朧気でね……」
「孤独だぁ……」
「結構強いやつだよ。やったね」
「強いのかは知らないけど……このゲームってこんなもの寂しいカードしか無いの?」
「元気なのもあるって。ほら今もらえた中にも一枚」
[悲観]
歳76 HP9 攻1600 防600
「貴様らの喉笛を引き裂いてくれるわ!」
「何があったのキミさん……」
「まぁ塩谷キミは雑魚だから、レアの福澤正三をメインに使っていこうね佳奈ちゃん」
「なんかこう、不遜だよ杏。もやっとするから敬称つけようよ。お年寄りは敬って」
「ゲームなのに」
「ゲームだけどさ……」
「じゃあ正三ちゃんをリーダーに設定して。始まるよー」
──それでは福澤正三さん! 最初のミッションをこなしましょう!
「ミッションてなに?」
「老人ホームの生活の中で色んな課題に挑戦するんだよ。一番最初はえーと、【囲碁室で碁を打つ】だね」
「なるほどねぇ」
「行動力が続く限り進行できるから。頑張って」
「やってみる」
──[福澤正三は立ち上がった。]
──[行動力が切れた!]
「あの……まだ立っただけなんだけど」
「老人だから体力ないんだよ」
「無さ過ぎでしょ……」
「一分待ったらまた行動できるから」
「手間だねこのゲーム……。あ、回復した」
──[福澤正三は歩き出した。]
──[レベルアップ!]
「なんかレベル上がったよ?」
「能力ポイントがもらえるんだ。振り分けて佳奈ちゃん」
「わかったー。ええと、今のステータスは」
行動力 1
寿命 1
攻老人力 50
防老人力 50
「寿命が1だけど……」
「最初は行動力全振りで良いから」
「いや寿命が……」
「寿命は伸ばしてもしょうがないって」
「死んじゃったらどうするのよ!」
「そしたらガチャで新しい老人引くし……」
「ひどい!」
「佳奈ちゃん。人は死ぬものなんだよ」
「知ってるよ! 知ってるけど見過ごせないよ!」
行動力 1
寿命 4(+3)
攻老人力 50
防老人力 50
「あー振っちゃったぁ! これでまたしばらく待たなきゃいけないじゃん!」
「福澤さんが死ぬよりはいい!」
「むぅー……あ、でも。行動力も寿命も両方上げられる方法もあるけど」
「え? どうやるの?」
「課金」
「人の命も結局お金なんだ……」
「あ、回復した。佳奈ちゃん進めて進めて」
──[福澤正三は廊下に出た。]
──[ポセイドンランスを拾った!]
「どういうことなの」
「同じメーカーの『ファンタジアコレクション』の素材が大分流用されてるからさぁ。結構手抜きなんだよね『まごのてコレクション』」
「なんでそんなゲームやってるのよ杏……」
「まぁ拾えるものは拾っておこう」
「立ち上がるのもやっとなのに」
「そうだ、食事で正三ちゃんを強化したらそのランス持てるかもよ」
「食事って?」
「別のカードを餌として正三ちゃんに食べさせると強くなるんだよ。要らないものはみんな正三ちゃんの餌にしちゃうといいよ。餌を食べさせれば食べさせるほど」
「餌って何度も言わないで……」
「じゃあご飯」
「ご飯ね。ええと持ってる中でご飯にできそうなカードは……」
[孤独]慰問の小学生がくれた飴(レア)
[孤独]冷めかけのお汁(ノーマル)
[病気]病人食(ノーマル)
「あんまり強くなりそうにないね……」
「その辺はイマイチだねぇ。あ、これがいいと思う」
「どれ?」
[悲観]バハムート(レア)
「食べられないでしょ」
「食べられるよ」
「いや、だって……福澤さん、お爺ちゃんだし……。無理だよね。バハムート食べられないよね」
「食べられるってば。ほら」
「あっ」
──食事開始!
──福澤正三 は バハムート を食べました!
「食べた!」
「超強くなった」
「どうやって食べたのよ……」
「さぁ……押さえて齧ったんじゃ」
「まぁでもこれで槍が持てるくらい元気になったなら良いのかなぁ……装備って、こう?」
「あ、違う」
──福澤正三 は ポセイドンランス を食べました!
「ああ」
「ああ」
「元気になり過ぎてる……」
「基本なんでも食べられるからさー。操作ミスで他の入居者食べないように気を付けないと」
「もうバイオハザードみたいになってるよね、この老人ホーム……」
「さ、ボス戦だよ! これで最後だから!」
「ボスって誰なの?」
「最初のミッションだから、ボスは碁盤」
「そう……うん……戦えばいいのね……碁盤と……」
──戦闘開始!
──福澤正三 は 口から
「Skipでいいよ、はい」
「ちょ、あ、終わっちゃった、え? いま福澤さんどうしたの? 口から?」
「勝利ー」
「杏! 福澤さんは口からどうしたのよ! ねぇ! 気になる!」
──チュートリアルが終了しました!
「終わった終わった! やったー!
「気になる……」
「もうー。佳奈ちゃんはゲームに感情移入し過ぎだよ。どうせ福澤正三が口から出すものなんて唾か痰か終焉のアルテマバーストくらいだって」
「大違いだよそれ!」
「ほら佳奈ちゃんもあんなショボレアの事は忘れてさ。新規ユーザー特典のブリリアント老人ガチャ引きなよ。
「ごめん杏が何言ってるかよくわからないの……とにかく引けばいいのねこれ……」
「そうそう。出た。って…………」
「あ、綺麗なカード」
[孤独]
歳 88 HP2 攻9800 防8200
「何年も会えていなくともな、
孫はずっとわしの宝物よ……」
「レジェンドレアだあああああ!!」
「なに? これそんなに凄いの?」
「
「杏こそゲームに感情移入し過ぎだよね……」
「何言ってんの! 超凄いんだよこれは! 全国の『まごのてコレクション』に出演したいお年寄りの、その中でオーディションを勝ち上がった一握りの老人しかなれない
「もう完全にゲームじゃないよ!! ただの知らないお年寄りの遺影だよこれ!!」
「ちょうだい佳奈ちゃん! うちの老人全部とトレードしてぇ!」
「いらない……いいよ、あげるから……」
「やったー!」
「本当にこのゲーム好きなのね杏……」
「うん! だってさだってさ、すごくない? お爺ちゃんお婆ちゃんが日本中からこんなに集まってさ。みんな割と元気でさ。たとえ死んじゃってもカードが残って子供に大人気なんて。他に無いよこんなゲーム」
「あー。まぁそういう言い方をすれば良いゲームと思えなくも……」
「あたしね、本当に思う。『まごのてコレクション』やっててよかったなぁって……」
「杏……」
「浅次郎お祖父ちゃん、あたしのこと宝物だと思ってくれてたんだね……」
「生前に会いに行ってやってよおぉぉ!!」