野崎まど劇場(笑)
作品 No.12 大相撲秋場所フィギュア中継
「大相撲秋場所、初日。五時を過ぎまして、これより幕内後半の取組が始まります。本日の解説は元横綱
「どうも」
「さて、力士達の集団訴訟の影響により新体制に変わって二場所目となる秋場所ですが。味乃素さん、いかがご覧になられますか」
「…………」
「……味乃素さん、少々ご機嫌がよろしくないご様子で」
「当たり前でしょうが」
「なぜでしょう」
「あんたねえ、おかしいでしょこんなの。何が訴訟だよ」
「ここで事情をご存じない視聴者の方にご説明いたしますと、昨今の携帯カメラ等の普及により力士のプライバシーが侵害されているのではないかという問題提起があり、訴訟の末に力士の肖像財産権が認められ、その結果先場所より取組の撮影が禁止となっております」
「見られたくないなら力士なんてやめりゃいいんですよ」
「ごもっともで」
「あんたたちも映せもしないのに中継なんてやる必要ないんだよ」
「仰る通りで。ですが味乃素さん、全国三千万の相撲ファンが中継の存続を望んでおります。相撲界のため、何卒ご理解の上お付き合い下さい」
「わかりましたよ、やりますよ、やりゃいいんでしょ」
「ありがとうございます。それでは大相撲秋場所フィギュア中継をお送りいたします」
「味乃素さん、最後は突き出しの形になりましたね」
「下手を離したのが敗因ですな」
「それでは味乃素さん。今の一番をこちらのフィギュアで再現お願いします」
「じゃあ仕切りから……」
「青の廻しが
「まず正面から当たって右四つ。すぐに栃苺が下手投げにいったけど外されて、北極海の突き出しと」
「見事な突き出しです」
「あのね富岡くん」
「はい」
「先場所も言ったけどね、この棒立ちの人形はなんとかならんのかね。こんなので取組再現しろったって無理でしょ。どこが突き出しなのよ。雑談でしょ」
「確かに今晩飲みに行く相談にも見えますね」
「ほら無理があるんだよ」
「ご心配には及びません味乃素さん」
「うん?」
「実は先場所いただいたアドバイスを参考に、今場所より別の形のフィギュアもご用意しております」
「なんだ君、そんなのがあるなら早く出しなさいよ」
「次の一番からご活用いただければ。では
「湯吞山の突っ張りが冴えていたね」
「ではこちらの突っ張りのフィギュアをどうぞ」
「腰が全く入ってないな……」
「玉子錦の方は猫騙しが不発に終わりましたね。猫騙しのフィギュアはこちらに」
「どうでしょう」
「せっせっせのよいよいよいだよ」
「味乃素さん上手い」
「で、決まり手は送り出しだったが……」
「送り出しかこれ」
「私には托鉢にきた坊さんを追い返している所に見えます」
「だからどうして全部棒立ちなんだ」
「フィギュア製作者のコメントによりますと、形を大きく変えるのは大変なんだそうで」
「仕事なんだからちゃんとやりなさいよ」
「申し訳ないですが本日はある分でご対処を……取組続きまして巨漢・
「巨漢の人形なんて用意してないんだろうどうせ」
「ございます」
「なんだって」
「これは巨人だ」
「形を変えるのは大変なんだそうで」
「勝てるわけないだろこんなの。ええと決まり手は」
「浴びせ倒しですね」
「死んでるよ」
「リアル対戦相手の
「もう大体わかったな……」
「切るなよ! ちゃんと小さいの作ってやれよ!」
「小さく作るのも大変なんだそうで」
「かわいそうに琴微風……」
「しかし結果は琴微風が勝っていますが」
「これでどうやって勝てと言うんだ」
「四次元殺法でどうです」
「私はもう帰る」
「味乃素さんあと少しだけ、ほらもう結びですから。現在土俵上では横綱
「確かに今のは微妙な落ち方だったな」
「現在土俵上はこのようになっております」
「なってないだろ」
「すみません、審判のフィギュアがないもので……。ただいま協議が終わりました。審判長がマイクを取ります」
「マイクのフィギュアもないもので」
「わかったから」
「おおっと? 差し違え、行司差し違えです。なんと玉転河岸、玉転河岸の逆転勝利ですっ」
「座布団が舞い飛んでおります」
「帰る」
「解説は味乃素義光さん、実況富岡でお送りしました。大相撲秋場所フィギュア中継また明日」