野崎まど劇場(笑)
作品 No.20 インタビュウ
この七月に早川書房から『know』を刊行した野﨑まどと書評家の
【野﨑】 気温が高いですね。湿気も多い。
【香月】 地球の大気と組成が近かったのは幸いだったな。ヘルメットだったら暑くて死ぬところだった。
【野﨑】 しかしなぜ我々はこんなところに居るんでしょう。
【香月】 野﨑君、それは言っちゃいけない。早川書房刊行のSF作品は実は全てノンフィクションで、作家や編集がこうして定期的に宇宙取材に出てネタ集めをしていることが知られてしまったら世界中がパニックになるだろうし、多分早川書房も潰れる。そうなったら僕らの食い扶持が。
【野﨑】 それは困ります。
【香月】 母船に聞かれていたら事だ。黙って進もう。
【野﨑】 そうですね。早く取材して帰りましょう。
【香月】 なにか珍しい生物でも居ればいいんだが……。
その時であった。突如、恐ろしい音量の叫び声が惑星クウィリーの空を裂いた。続けて地響きが大地を揺らし、巨大な影が野﨑と香月を包むように伸び上がる。木々をなぎ払って現れたのは、身の丈数十メートルはあろうという巨大な四足の獣であった。
【巨獣】 ギギャアアアアア!
【野﨑】 うわああぁっ!
【香月】 しまった! 巨大陸棲生物インタ・ビウィだ! 凶暴な奴に見つかった!
【野﨑】 に、逃げましょう!
【香月】 こいつは巨体だが素早い……一瞬で追いつかれて胃袋行きが落ちだ。
【野﨑】 そんな。
【巨獣】 ギギャアアアアア!
【野﨑】 ひぃ。もう終わりだ。
【香月】 いや……一つだけ助かる方法はある。
【野﨑】 なんですって?
【香月】 インタ・ビウィには、その名の由来になった非常に特殊な生物的性質がある。成獣のインタ・ビウィは獰猛な声を上げるだけだが、幼獣の時のインタ・ビウィはまるで人間がインタビュウしているかのような声で鳴くんだ。
【野﨑】 人間がインタビュウをしているような鳴き声……。
【香月】 つまりここで我々がインタビュウを行えば、このインタ・ビウィは我々を自分の子供と勘違いするかもしれない。
【野﨑】 なるほど、それなら食べられずに済みますね! ちょうど新刊が出たところですし!
【巨獣】 ギギャアアアアア!
【香月】 いかん! 興奮し始めた!
【野﨑】 か、香月さん、インタビュウを!
【香月】 よし!
──今回、早川書房から作品を刊行することになったきっかけを教えてください。
【巨獣】 グルルルル……?
【野﨑】 やった、大人しくなった!
【香月】 あ、いけない野﨑君!
【巨獣】 ギギャアアアアア!
【野﨑】 ひぃ!
【香月】 君もきちんと答えなければ駄目だ! インタ・ビウィの耳はインタビュウっぽくない言葉には敏感に反応する!
【野﨑】 わ、わかりました!
【野﨑】 最初のきっかけは早川書房の編集さんに声をかけていただいたことです。好きなレーベルの一つだったのでご連絡いただけた時は嬉しかったです。
【巨獣】 グルルルル……。
【野﨑】(良い感じですね)
【香月】(この調子で行こう)
──『know』は、多くの人々が情報を処理するための人造脳葉《電子葉》を植えつけた近未来が舞台の、デビュー以来初となるSF長篇ですね。短篇集『野﨑まど劇場』(電撃文庫)にはいくつかSF短篇も入っていますが、もともとこうした本格的なSFのアイデアや構想も練られていたのでしょうか?
【野﨑】 はい、以前からSFの長編に挑戦してみたいという気持ちが
【幼獣】 『停電惑星』は上中下巻合わせて一五〇〇ページという超大作ですね。執筆中に一番苦労したポイントを教えて下さい。
【野﨑】 え?
【香月】(ああっ! 見ろ野﨑君! インタ・ビウィの幼獣だ!)
【野﨑】(ほ、本物!)
【香月】(子連れだったとは……計算外だ)
【幼獣】 『停電惑星』の執筆は僕の作家人生の中で間違いなく、最も困難なチャレンジだった。
【野﨑】(もう一頭来た)
【香月】(インタ・ビウィは一度の出産で二頭の子を生む。二頭いないとインタビュウできないから)
【幼獣】 実を言うとまだ雑誌用のスピンオフが手を離れていないんだ。全く、大作過ぎてうんざりするね!
【野﨑】(本当にインタビュウみたいに鳴くんですね)
【香月】(しかも海外作家っぽいな)
【幼獣】 これまでにヒューゴー賞を七回、ネビュラ賞五回、ローカス賞を八回受賞されており、『停電惑星』も既にダブル・クラウンの期待が高まっていますが、その点については?
【野﨑】(なんか凄い作家なんですけど……)
【香月】(惑わされちゃいけない。そういう鳴き声なだけだ)
【巨獣】 グルル……グル?
【野﨑】(あ、親が混乱してます)
【香月】(危険だな。我々が偽物だと見抜かれたら食われてしまう。向こうに負けないインタビュウっぽさを出さないと……)
【野﨑】(そうだ! 書影がありますよ!)
【香月】(それだ! 野﨑君でかした!)
【香月】(ちくしょう! 先に出された!)
【野﨑】(この動物、どこから書影を……)
【香月】(口からだ。体内に書影を作る独自の器官を備えているんだ)
【野﨑】(しかもストーリーまで付いてますよ。このあらすじも全て自然淘汰が作り出した偶然の産物だと言うんですか)
【香月】(生物進化の奇跡としか言えない)
【巨獣】 グルル……。
【野﨑】(巨獣が僕らを疑っています!)
【香月】(くっ! こっちも出すんだ!)
【野﨑】(三ページ目上段に紹介とか、いつもと場所が違ってすごく噓臭いんですけど)*S-Fマガジン(早川書房)のインタビュー記事の体裁に基づく。
【香月】(先発されているしな……別の記事の誤植みたいだ)
【巨獣】 グル……グルアァ……。
【野﨑】(インタ・ビウィも怪しんでます)
【香月】(よし、こちらの印象を強めるためにもう一度載せてみるのはどうだろう)
【野﨑】(危険では)
【香月】(賭けだが……何もしないよりは)
【野﨑】(わかりました)
【巨獣】 ギギャアアアアア!
【香月】 賭けに負けた!
【野﨑】 やっぱり同じ紹介二回は無理があったんですよ! 完全にこっちが偽物だ!
【幼獣】 ちなみに劇中のモンスターは妻がモデルなんだ(笑)
【野﨑】 うるさいな!
【香月】 ……こうなったら、もう最後の手段を使うしかない…………一面広告だ!
【野﨑】 なんですって?
【香月】 母船ハヤカワを呼び寄せて、この場にページ一面の広告を差し込んでもらうんだ。それを見ればインタ・ビウィも我々の本物っぽさを認めざるを得ないはず……。その隙をついて母船の重力リフトで引き上げてもらい、この星を脱出する。
【野﨑】 それしかありませんね……。
【香月】 母船、聞いていたか! 作戦決行だ! 我々の座標まで飛んできてくれ!
【野﨑】 上空にワープアウトしてきました!
【香月】 よぉし! 『know』の一面広告を展開後、すぐに重力リフトだ!
重力リフトが展開され、インタ・ビウィの二頭の幼獣が母船ハヤカワに回収された。後日、二頭のトークを元に再編された小説『停電惑星』は見事ダブル・クラウンの栄誉に輝いた。だがその裏に、とある作家と書評家の犠牲があったことを知るものは少ない。
(二〇一三年七月一六日/メール・インタビュウ)