僕を振った教え子が、1週間ごとにデレてくるラブコメ 2
12月・2 もうすぐクリスマス ②
商店街ではカップルたちをうらやましそうに見ていた芽吹さんだけど、それはそれ。授業が始まれば、たちまち真剣な表情で勉強に向かい合う。
約一時間半の授業を終えると、窓の外はすっかり暗くなっていた。
「それでは、今日の授業はここまでだね。おつかれさま。さっき話したところを重点的に復習すると、もっと理解が深まるはずだ」
「ありがとうございました! 忘れないようにメモしておきますね」
芽吹さんは言われた復習内容を書き取り、ノートを閉じた。
こたつの上に並べられた参考書を片付けると、彼女は「ふ~っ」と深い息をつく。
「おつかれさま。夕ご飯まで一休みしなよ。勉強しっぱなしでも集中力が途切れてしまう」
「そうですね。頭を休めます。わたしだけじゃなくて、先生も脳をリラックスさせましょう。学校の勉強もあるのに家庭教師までしてくれて、頭が疲れてるはずですし」
「帰りは何も考えないで、ボーッと歩いていくことにしよう」
「ボーッとしすぎて迷子になっちゃダメですからね。家まで送ってあげましょうか?」
「だ、大丈夫だって。一人で帰れるから」
ふふふ、と芽吹さんはちょっとからかうような笑みを浮かべる。
「それと先生、来週の授業ですけど、帰りに荷物が持てるようにしておいてくださいね」
「荷物? 何か持って帰るってこと? どうして?」
「それは来週のお楽しみです」
なんだろう。気になる。僕は頭の中でカレンダーを思い浮かべた。
次の授業は、もう十二月の下旬に差しかかる。ということは……。
「もしかして、クリスマスプレゼント?」
「ああ、もう、言っちゃダメですよ~」
「ご、ごめん」
「いつもお世話になってるお礼に、贈りものをしようと思って。大したものじゃないですけど、もらっていただけますか?」
「もちろんだよ! 芽吹さんからのプレゼントだなんて、すごく嬉しい!」
「お礼は、受け取ってから言ってください。プレゼントが何かはナイショですからね」
いったいどんなプレゼントなんだろう。授業のお礼だから高価なものではないはず。文房具とかお菓子とか、そんな感じのプレゼントだと思う。
だけど彼女がプレゼントをくれるという事実だけでも、その中身を想像するだけでも、胸の鼓動が高鳴ってしまう。
「……それならさっき、カードを買っておけばよかったかな」
ふと思い出した。文房具店で見つけたクリスマスカードを買っていれば、お礼のメッセージが書けたかもしれない。
「カードが、どうかしたんですか?」
「なんでもないよ。僕も、プレゼントのお礼をしたほうがいいかなと思ってさ」
「気をつかわないでください! わたしがプレゼントしたいから、プレゼントするだけです」
「僕も芽吹さんにプレゼントしたいからプレゼントする。それでどう?」
芽吹さんは困ったように眉間にシワを寄せつつ、照れた様子でほっぺを赤く染めている。
「せ、先生がどうしてもっていうなら、もらってあげますね。先生のプレゼントなら、嬉しくないわけ、ないですし」
「来週の授業のあとはプレゼントの交換をしよう。芽吹さんは今、ほしいものあるかな?」
「それを聞いたらつまらないですよ。何をもらえるか想像するのも楽しみなんですから」
「なるほど……。といってもな、う~ん……」
僕はつい腕を組んで考え込んでしまった。
女の子へのプレゼントなんて、今までしたことがない。どんなものが喜ばれるんだろう。
難しい顔で悩み始めたせいか、芽吹さんが助け船を出してくれた。
「あまり考えすぎないでください。頭をリラックス、リラックスですよ」
「よけいなものを贈ったらどうしようって、悩んじゃって。どうせなら喜ばれるプレゼントにしたいし」
「それじゃあ……ヒントをあげます! わたしがほしいもののヒントですよ」
芽吹さんはこたつから出て立ち上がると、僕の正面に座って両足を前方に投げ出した。
そのまま右足を抱えるようにくいっと持ち上げ、僕のすぐ前に突き出す。
「ここに先生のプレゼントがほしいなあ~」
「……それがヒント?」
ごくりとつばを飲み込みながら芽吹さんの足を見つめた。
右足を持ち上げているせいでスカートが軽くめくれ、太ももが半分以上むき出されている。
ほっそりと美しい素足にソックスをはいていて、可愛らしい足の裏が見える。
「そういえばサンタクロースがプレゼントを入れるのは靴下の中だっけ……」
けど、芽吹さんの小さなソックスに入るプレゼントがあるんだろうか?
ますます頭を抱える僕を見て、芽吹さんはちょっといたずらっぽく笑う。
「触ってみると、何かわかるかもしれませんよ」
僕はおそるおそる手を伸ばし、そっとなでるように芽吹さんの足の甲に触れてみた。
「どうですか、先生? 何か気づきましたか?」
「芽吹さんの足、少しひんやりしてる」
「暖房の空気も、なかなか足元まで当たらなくて冷えちゃうんです。勉強中も、しょっちゅう両足をこすり合わせてるんですよ」
「ううむ……こすり合わせる……」
僕は考え込みながら、思わず親指で芽吹さんの足の裏を軽くこすった。
「ひゃあっ!? せ、先生っ、くすぐったいですよおっ!」
芽吹さんは小さな悲鳴を上げて、突き出していた足を引っ込めてしまった。
「ヒントはおしまいです! それでは先生、来週までに謎を解いてくださいね。考えれば頭もほぐれますよ」
「頭がほぐれるどころか、ますます混乱しそうだよ……」
いったい彼女が何をほしがってるのか、ちっともわからない。
彼女の家を出て帰りのバスに乗っている間も、僕は芽吹さんの足のことばかり頭に浮かんでしまった。