僕を振った教え子が、1週間ごとにデレてくるラブコメ 2
12月・2 もうすぐクリスマス ③
目の前に、真っ白なシーツで全身を包んだ
彼女はモジモジと恥ずかしそうな顔で僕を見つめた。
「先生……わたしのクリスマスプレゼント、受け取ってください」
「芽吹さんからの贈りものだなんて感激だ……。何をプレゼントしてくれるの?」
「先生へのプレゼントは――」
言いながら、彼女を包んでいたシーツがはらりと床に落ちる。
中から現れたのは、素肌の上に真っ赤なリボンを巻いた芽吹さんだ。細いリボンの布地が、彼女の胸や腰の大事なところだけをかろうじて隠してる。
「プレゼントは、わ、わたし……です……。先生、もらってくれますか……?」
僕は胸を激しくドキドキさせながら、一糸まとわぬ……いや、裸の上に一糸しかまとっていない芽吹さんを見つめた。
「もも、もちろんだよ! 本当に芽吹さんをもらっていいの!? 芽吹さんが僕のものだなんて、夢のようだ……」
「わたし、先生にもらわれて嬉しい……。早くリボンをほどいて、中を見てください」
「ででで、でも、リボンをほどいたら全部見えちゃうよ」
「見て、ほしいんです……。わたし、先生のものですから、全部を見て、先生の好きなようにしちゃってください……」
「わ、わかったよ。芽吹さん……いや、芽吹ひなた。今から君の全部が僕のものだ。思う存分、あんなことやこんなことまで好きなだけしちゃうからな」
「はい、先生……。恥ずかしいですけど、ひなた、がんばります……!」
感涙したように目をうるませる彼女の正面に立ち、胸元のリボンに両手を伸ばした。
ふっくらとした胸が緊張と興奮で大きく上下して、蝶結びのリボンが揺れている。
僕は両手でリボンの端をつまみ、そっと左右に引っ張った。
目の前で、柔らかなリボンが音もなくほどけていく。
「んっ……」
芽吹さんが緊張に張り詰めた声を出す。
結び目を失ったリボンがほどけ落ちると同時に、その下から、芽吹さんの若々しい胸が丸裸になって――。
「うわあああああっ!?」
突然目が覚めて、僕は思わず叫び声を上げた。
気がつくと、ここは僕の部屋だ。座っている机には参考書やノートが広げられている。
いつの間にか机に突っ伏して眠っていたらしい。ぼんやりする頭で、眠りに落ちる前のことを思い出した。
学校の宿題をしながら、芽吹さんへのプレゼントのことを考えていたんだ。彼女が何をほしがってるのか、今もわからない。
そうして、考えているうちにウトウトして眠ってしまったらしい。
(それにしても、芽吹さんを相手にあんな夢を見るなんて……)
夢の内容を思い返して、ズーンと落ち込んだ。
教え子のいやらしい姿を想像するなんて、家庭教師にあるまじき行為。
しかも裸にリボンを巻いただけという変態っぽい夢を見たなんて知られたら、芽吹さんから一生白い目で見られるに違いない。
「はあ……」
僕はため息をつきながら、ぼんやりと宿題のノートを眺めた。
勉強の答えなら考えれば出てくるのに、プレゼントの答えは考えても全然わからない。
――
ちょうど区切りがついたところで鉛筆を置き、椅子に座ったまま軽く背伸びをする。
「先生に言われた復習、これで十分できたかな……」
ひなたは宙を見上げながら考え込んだ。
「先生へのクリスマスプレゼント、どんなのがいいのかな。可愛いプレゼントにしたいけど、子どもっぽいって思われちゃうかなあ……」
プレゼントの候補はいくつか考えてあるけど、まだ一つに絞りきれていない。
瑛登はプレゼントの内容に悩んでいたけど、ひなたも同年代の男性へのプレゼントなんてしたことがない。どんなものが喜ばれるのか、いまいち自信がない。
考えているとスマホに着信があり、見ると相手は姉のあかりだった。
「もしもし、お姉ちゃん? ううん、大丈夫。ちょっと休憩してたとこ」
あかりの用件は、クリスマスのプレゼントについてだった。
「今年もひなちゃんにプレゼントを贈るね。宅配で届くから、楽しみに待ってて」
「何が届くのかな~。わたしもお姉ちゃんに何かプレゼントするね」
「無理しないで。ひなちゃんは他にプレゼントをあげたい人、いるでしょ?」
言われてひなたは、思わずドキリとした。
「べ、別にあげたいわけじゃないけど、お世話になってるからお礼にって思っただけ!」
「やっぱり瑛登くんにプレゼントするんだ~」
完全にバレてしまい、ひなたは一人、恥ずかしさに顔を赤くした。
「あくまでお礼だからね! いつも勉強を教えてもらってるお礼です!」
「わかってるってば。ただのお礼なんだから、そんなにあわてなくていいのにな~」
「あ、あわててないもん!」
ますます顔が真っ赤になるのを感じてしまう。
それからふと思いついて、ひなたは聞いてみた。
「あのね、お姉ちゃん。男の人って、どんなプレゼントを喜ぶのかな。可愛いキャラクターのグッズなんて、もらっても困るよね」
「相手によるだろうけど、別に困らないんじゃないかな。わたし、旦那にしょっちゅう可愛いお菓子を買ってきてあげるけど、喜んで食べてるし」
「お菓子なら食べれば無くなるけど、残るものだと……」
「自分のことを考えてくれたプレゼントだと感じられれば、どんなものでも嬉しいと思うよ」
「そうかな。そうだよね……」
「瑛登くんが、ひなちゃんからのプレゼントを喜んでくれるように応援するから。クリスマス、がんばって!」
「う、うん。がんばる。――って、ただお世話になってるお礼だからね!」
いつの間にか姉のペースに乗せられていて、あわてて言い返すひなただ。
それから姉のプレゼントが届く日時を聞いて、ひなたは電話を切った。
そう、これはただ、家庭教師へのお礼のプレゼント。
なのにどうして、彼がプレゼントを喜んでくれるか、こんなに気になるんだろう。
ふとひなたは、また足先が冷えているのに気づいて両足をこすり合わせた。
「先生は何をプレゼントしてくれるのかなあ……」
贈るプレゼントを考えるのは悩んでしまうけど、彼から贈られるプレゼントを考えることは、いろいろ想像するだけでも楽しかった。