短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 一皿め たこ焼き屋さんの唐揚げってめっちゃおいしくない? ①
◇◇◇
だから、その情熱の瞳をアタシだけに見せて?
独占させて?
そしたら、アタシはきみのアクセをいくらでも売ってあげる。
――そういう運命共同体になろ?
あの中学校の文化祭で、アタシは悠宇と親友になった。
それから一年ちょっとの時間を共に過ごして……。
同じ高校に進んで、同じクラスになって――。
今、アタシたちは無事に高校一年生の春を迎えた。
その春の昼下がり、アタシは科学室で黄昏ていた。
アンニュイな感じで窓の外を眺めながら、小さなため息をつく。
(どうしよう……)
悠宇のお花アクセの売り上げが伸びない。
アタシが悠宇のアドバイザーになってから、もう一年と半分。
近隣のバザーに足繫く通ったり、お兄ちゃんの口利きで民芸市場に出品したりしてみた。
最初のほうこそ珍しがられて、けっこうな売り上げになった。
でも、慣れられたらお終いだった。
売り上げのグラフは平行線になり、緩やかに下降線を辿り……今月は過去最低の数字になった。
「……こんなはずじゃなかった」
アタシは頭を抱えた。
あんな大口を叩いておきながら、このザマだ。
悠宇はずっとアタシとの約束を守って、すごくいいアクセを作り続けているのに。
……まさか、アタシのほうがこんなピンチに陥ってるなんて。
(悠宇の技術とか実労働時間を考えると当然とはいえ、やっぱ値段の高さがネックだよなー。いっそアクセの価格を下げる? でも、そうすれば将来的に足を引っ張るのは目に見えてる。店を持てても、商品が安すぎて利益取れなきゃすぐ潰れちゃうし……)
アタシは一人、う~んう~んと唸っていた。
すると向こうでアクセを作っていたはずの悠宇が、ふとアタシに言った。
「……日葵ってさ。他に仲いい友だちいないの?」
いつの間にか、悠宇はアクセ作りを中断していた。
なんか集中できていないっぽいな。悠宇にしては珍しい。
「悠宇。いきなりどしたん?」
「……いや、なんとなく思ってさ」
アタシはコホンと咳をして、気持ちを切り替える。
さっきまでのアクセ売れない憂鬱はそっと隠して、にこーっと微笑んだ。
いつもみたいに悠宇の後ろから抱き着くと、その首に手を回して髪の毛をちょんちょん引っ張って遊ぶ。
「え? 悠宇、嫉妬? もしかして嫉妬? うわー新たな一面かも。悠宇ってけっこう独占欲強い系かなー?」
「そういう意味じゃない。ただ、こう、なんというか……好奇心っていうか……」
本気で嫌そうに手を払われてしまった。ちぇー。
アタシは悠宇の耳たぶを引っ張って遊びながら答えた。
「そだねー。アタシってこんなだからさー。友だちは多くても、ほんとに仲いい相手は少ないからなー」
「おまえ、自覚はあるんだな……」
つい笑っちゃった。
悠宇って陰キャぶってるのに、けっこうズバズバ言うよなー。
そういうところが好きなんだけど、将来、お店を持ったとき苦労しそうだなー。
でも、ほんと珍しい。
悠宇ってアタシの人間関係とか、いつも興味なさそうなのに。
「なんかあったん?」
「また知らん人から、おまえのライン教えてって言われて……いや、脅迫されて。おまえラインしてないって言って逃げたんだけど……」
ああ、そういう……。
高校生になって、一気に増えたよなー。
まあ、入学して一ヵ月も経ってないし、しょうがないか。
クラスに馴染んでおくために、そっちとも遊んでおくかー。
神に愛された可愛いアタシの責務とはいえ、すっごく面倒くさいけどさー。
しかし、悠宇の他に仲いい友だちかあ……。
「仲いい友だちって呼べるのは……悠宇で二人目かなー?」
「……っ」
悠宇がびくっとした。
手元でいじっていたアクセのパーツで、ぷすっと指の腹を刺しちゃってた。うわ痛そー。
「ゆっう~。どしたん?」
「いや、別に……」
「動揺した?」
「し、してねえし……」
アタシはにこーっと笑った。
身体を乗り出して、悠宇の顔を覗き込んだ。
「やっぱ嫉妬してんじゃーん。そんな悠宇も、か・わ・い・い・ぞ♡」
「やめいっ!」
耳元でささやくと、悠宇が乱暴に振り払ってくる。
きゃー悠宇くん男らしー。かっこいーっ!
「嫉妬じゃないし。そっちとも遊んだほうがいいかなって思っただけ……」
「心配しなくても、小学生の頃の女の子だから大丈夫だよー。もう、独占欲強い悠宇もほんと可愛いなー♡」
「違うって言ってんじゃん!? ほっぺたをつまむのやめて!」
悠宇の新たな一面を堪能したアタシは、そのお礼として精一杯いじってあげたのでしたー。