短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 一皿め たこ焼き屋さんの唐揚げってめっちゃおいしくない? ②
◇◇◇
……みたいなことが、昨日あったわけですよ。
翌日の朝。
アタシの登校してからの日課。
つまり今日のヨーグルッペを補充するために、自販機コーナーに向かっていた。
んふふー。
この学校を選んだ理由は偶然だったけど、まさか自販機にヨーグルッペが大量に並んでいるとは思わなかったなー。
さすがアタシ、こういうラッキーですら漏らさず手に入れるあたり、存在自体が今世紀最大の奇跡って感じだよね!
(しかし、仲いい友だちかー……)
まさか、今さら『あの子』のことを考えるとは思わなかった。
それだけ悠宇との日常が充実してるってことなんだろうけど、確かにアタシも薄情だよなー。
小学生の頃は、あんなに好きだったのに。
あの子がうちに遊びにくるのを、毎日のように待ってたのに。
(……あの子、なんでうちにこなくなったのかなー?)
まあ、学校は違ったし、他に友だちができたんだろうけど。
そんなことを思いながら、アタシは自販機コーナーにたどり着いた。
おっと、先客がいた。
黒髪ロングの女の子が、なにを買おうか迷っている感じ。
気を遣わせちゃ悪いし、アタシはちょっと距離を取って待っていた。
しかし、後ろ姿、美人さんだなー……。
すらっと背が高くて、漫画のヒロインみたいなプロポーションしてる。
腰とかきゅっとくびれてるし、お尻の曲線もエロい。
後ろからは見えないけど、きっとおっぱいも大きい気がする。
めっちゃアタシ好み……。
この学校、可愛い子多いけど、あんなやばそうな子がいるとは知らなかった。
うーん。何年生だろ。うまいことお知り合いになれないだろうか。
まあ、アタシにかかれば余裕のよっちゃんだけど……。
(……んん?)
アタシが下心全開でその子を見つめていると、ふと頭がチクッと痛んだ。
あの髪の色……なんか見覚えがあるような。
深い赤みのある、独特な色合い。
まるで渋みの増した紅葉、あるいは赤いチューリップのような……。
――ガコンッ、と自販機から飲み物が落ちた。
その女の子が、ようやく選んだらしい。
取り出し口からカフェオレを取り出すと、くるりとこっちに振り返る。
(あ……っ!)
その顔を見た瞬間、『あの子』の顔がガツンと記憶を揺さぶった。
相手の子も同じようで、アタシを見た瞬間にピタッと立ち止まる。
その切れ長の瞳をまん丸く見開いて、呆然とアタシを見つめていた。
そしてアタシたちは、まったく同時に相手の名前を呼んだ。
「えのっち!」
「……ひーちゃん?」
アタシは高校で――思い出の女の子と再会した。
◇◇◇
榎本凛音。
アタシのお母さんが懇意にしているケーキ屋さんの娘さん。
アタシと同い年で、小学校の頃うちに配達にきたときに遊んでいた女の子。
で、アタシの最初の親友!
まさかこんなタイムリーに再会するとは思わなくて、アタシはつい大きな声をだしていた。
「わあーっ! えのっち、久しぶりーっ!」
「…………」
アタシは走り寄ると、その手を握ってブンブン振った。
めっちゃ肌すべすべ! てか、近くで見るとほんと美人すぎるんだけど!
いやー、あの頃はお人形さんみたいな内気な子だったけど、こんなグラマラス美人になってるとは……アタシ、2つの意味でテンション上がっちゃうなーっ!
……が、えのっちはぷいっとそっぽを向いた。
「いえ。人違いです」
「ちょーっ! ちょーっ! ちょ~~~~っ!!」
すれ違っていこうとするので、手を掴んで引き留める。
えのっちは面倒くさそうに……なんというか「うーわ厄介なのに絡まれたなあ」みたいな気持ちを隠そうともしなかった。
え、何そのリアクション?
ちょっとショックなんだけど……。
「えのっち! 今、アタシのこと『ひーちゃん』って言ったよね!?」
「言ってないよ。ひーちゃんの聞き間違いだと思う」
「今も言った!! 絶対に言った!?」
えのっちは「ツーン」って感じでそっぽを向いていた。
そのとき、ふとアタシの握った手に視線を落とす。
えのっちが「やばっ」って感じでアタシの手を振りほどいた。
そして背中越しに、何かをゴソゴソと外して鞄にしまう。
「えのっち。どしたの?」
「……なんでもない」
今、左手に巻いてた何かを隠したような……まあ、別にいっか。
それよりも、今はこの再会を喜ばなきゃね!
え? アタシ嫌われてるっぽい?
ぷはーっ。そんなことで怯む日葵ちゃんではないですよ。
アタシいつも悠宇からウザがられてるから、そういうの全然平気だしさ!
「いやー。えのっち、美人さんになったよなー。このアタシの女神レーダーに引っかからないとは恐れ入ったなー。あ、クラスどこ? アタシはAなんだけど」
「……F」
「あ、進学科かー。てっきり、えのっちも商業コース取れる普通科のほうだと思ったよー。ほら、えのっちってお家のケーキ屋さん継ぐんでしょ?」
「……っ!」
あれ?
急にえのっちの顔が険しくなった。
急にアタシの手をビシイッと叩き落とした!
「痛った! えのっち、めっちゃ本気で殴った!?」
「……誰のせいでそうなったと思ってるの?」
「え? ど、どゆこと……?」
「…………」
えのっちは顔を上げると、その綺麗な顔でキッと睨んできた。
「……ひーちゃん。もう話しかけないで」
冷たい言葉を残して、えのっちは去っていった。
アタシはその後ろ姿を呆然と見送った。
……アタシ、なんか地雷踏んじゃった?