短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 一皿め たこ焼き屋さんの唐揚げってめっちゃおいしくない? ③
◇◇◇
昼休み。
アタシはいつも通り、悠宇とお昼をするつもりだった。
「ゆっう~。科学室行こーっ!」
「あ、ごめん。今日、別行動で頼む」
「ありゃ。どうしたの?」
珍しい。
昼休みはずっとお花アクセ作ってるのに。
そう思ってると、悠宇が気まずそうに答える。
「ちょっと真木島から呼ばれててさ」
「あー。あいつか……」
高校に進学して、悠宇と友だちになった男子。
最近、悠宇をテニス部に誘いまくってるんだよなー。
悠宇って背が高くて、実は運動神経もいいし、わかるんだけど。
でもアクセ作りに支障があるといけないし、早いうちに諦めてもらわなきゃ。
てか、アタシが個人的に超嫌いだしね!
「じゃあ、また放課後な」
「はーい。いってらっしゃーい」
はてさて。
いきなり昼休みが暇になったぞ。
せっかく悠宇にえのっちの話を聞いてもらおうと思ったのに。
(うーん。一人で科学室にいても退屈だしなー……)
とか思っていると、クラスの女の子が話しかけてくる。
「日葵さん。今日一人なら一緒に食べない?」
「あ、じゃあ……」
ちょうどいい。
ついでに悠宇のメンタル保護のためにクラスでの好感度上げておくかー。
「じゃあ、一緒しちゃおっかなー……んん?」
お昼か。
悠宇もいないし、ちょうどいいかも?
「ごめん! アタシ、ちょっと用事あった!」
「あ、日葵さん!?」
アタシはお弁当を掴むと、急いで教室を出た。
◇◇◇
廊下を走って到着したのは、アタシのクラスの真逆にあるFクラス。
アタシは犬塚日葵。
神に愛されし女。
ためらうことなど何もない!
「えのっち、一緒にお昼しよ――――っ!」
教室のドアを開けて、中を見回した。
クラスの子たちが、びっくりした感じで見てくる。
でも気にしない。
だってアタシは神に愛され……あっ!
「えのっち発見!」
「……っ!?」
えのっちが慌ててお弁当を抱えて席を立とうとする。
それをアタシは、両腕を広げて通せんぼした!
「もう、えのっちは照れ屋さんだなー☆」
「ひ、ひーちゃん。そこ通して!」
「んふふー。そうは問屋が卸さないかなー? えのっちは、アタシと一緒にお昼を……おおう?」
一瞬、アタシの視界が黒い影で覆われる。
それがえのっちの手のひらだと気づいたときには、アタシの顔面はガシイッと鷲掴みに知れていた。
「ひーちゃんっ! 迷惑だからやめてって言ってんじゃんっ‼」
「あがががががががががっ!? えのっち、ちょ、めっちゃ力強っ! ギブギブ!」
アタシの顔面を締め上げる腕を、必死にペシペシ叩いた。
なんなの、この握力!?
あのお人形みたいな大人しかったえのっちが、こんな強烈なアイアンクローを!?
「ぎ、ぎぎ……ギブゥ……」
アタシが脱力すると、えのっちが手を離した。
床にへたり込むと、えのっとを見上げる。
……アタシを見下ろす瞳は、鋭いナイフみたいに冷たかった。
「ひーちゃん。もうアタシに近づかないで。アタシ、ひーちゃんのこと友だちなんて思ってないから」
「えのっち……」
アタシは、えのっちの顔を見つめ……。
見つめ……。
……『障害物』のせいで、見つめられないなー。
「えのっち。下から見上げると、巨乳が強調されてやばいね?」
「…………」
その額に「ムカッ」と青筋が浮かんだ。
えのっちの腕が振り上げられると、アタシの脳天に綺麗なチョップが見舞われた!
「んがはっ!?」
「ひーちゃんの、そういうとこが大嫌い!!」
えのっちは両腕で胸を隠すようにしながら、ダダダーッと教室から飛び出していった。
アタシは頭をなでながら、身体を起こして開け放たれたドアを見つめる。
(……むう。手強い)
その後、アタシはFクラスの女の子たちと一緒にお昼したのでしたー。
◇◇◇
そして放課後。
アタシは科学室で悠宇と遊んだ後、珍しく別々に帰ることにした。
狙いはもちろん一つ。
アタシは吹奏楽部が終わると、えのっちが出てくるタイミングを狙って顔を出した。
「えのっち。一緒に帰ろー♡」
「…………」
うっわー。嫌そうな顔!
やばい。
こんなに露骨な態度取られると、アタシ逆に燃えちゃうね!
んふふー。絶対にえのっちをアタシのラインに登録してやるからさ!
「って、ちょーっ!? えのっち、ナチュラルに無視してかないでよーっ!」
「……ハァ。ひーちゃん。近づかないでって言ったじゃん」
おや?
えのっちがため息をついて振り返るのを見て、アタシはピンときた。
「……ははーん?」
「な、何?」
えのっちがたじろいだ。
「えのっち。実はアタシのこと好きでしょ?」
「はあ!?」
えのっちが顔を真っ赤にしたので確信した。
アタシは調子に乗って追撃する。
「だってさー。ほんとに近づくなって言うなら、普通は無視するじゃん? でも、えのっちって毎回ちゃんと話してくれるし? 実はアタシの気を引きたくて、そうやって素っ気ない態度を……」
「~~~~~~~~~~っ!!」
痛いっ!?
えのっち、図星突かれたからってチョップすることないじゃん!
「ひーちゃん! そういう自分が一番って考え方、直したほうがいいと思う!」
「それはできないなー。だって実際、アタシのこと嫌いになる人なんていないからねー? 謙遜するのは逆に嫌味じゃん?」
「その自信、もっと他に使えないのかな……」
呆れられちゃった。
でもま、ほんとのことだからしょうがないよな!
「ということで、一緒に帰ろー♡」
「……わたし、うちのお手伝いしなきゃいけないから無理」
ふーん?
やだ、じゃなくて無理か……。
「じゃあ、10分だけ!」
「じゅ、10分?」
「そーそー。帰る途中で、ちょっと買い食いしてこ♡」
「……それなら、いいけど」
よっしゃ!
えのっちを口説き落としたアタシは、一緒に下校するのだった。