短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 一皿め たこ焼き屋さんの唐揚げってめっちゃおいしくない?⑤
◇◇◇
ということで、さらにその翌日。
アタシは昼休み、悠宇とご飯を食べながら例の作戦を話し合おうと思ってたんだけど……。
「……またやってる」
視線の先では、悠宇が真木島くんに追い回されていた。
「ナツ! 今日こそテニス部の体験入部に付き合いたまえ!」
「嫌だって言ってるだろ! 俺は園芸部に入ってるの!」
「そんな如何わしい部活など辞めてしまえ。テニスは個人でもイケるし、人付き合いが苦手でも問題ない。何よりうちの学校では、女子と合同で練習する唯一の部活! その気があるなら、いい感じの女子を紹介してやろう!」
「そういうの興味ないって言ってば!」
頑なに拒否する悠宇に、真木島くんがにやっと笑った。
……あいつ、なんか仕掛ける気だな?
「ナハハ! あんな小汚い花壇で、イジイジ土いじりするより数倍は有意義な時間の使い方であろう! テニスの華麗さに比べれば、花なんぞ踏みつけられたところで気づかれまい!」
「……っ!?」
悠宇が「カッチーンッ」って感じでキレた。
お花を侮辱された悠宇が、額に青筋立てて怒鳴る。
「真木島。おまえみたいなやつに、花のよさがわかるか!」
「ナハハ! ならば勝負したまえ。オレが負けたら、謝罪の上で花の世話を手伝ってやろう」
悠宇が「わかった!」と承諾して、真木島くんと教室を出ていった。
残されたアタシは、ちゅーっとヨーグルッペを飲んだ。
(……悠宇のやつ、また真木島くんに転がされてるなー)
悠宇って自覚ないけど、かなり運動神経いいからなー。
大方、勝負にかこつけてテニス部の先輩たちに悠宇を見てもらおうって算段か。
あんな挑発、適当に流しとけばいいのに。
(……ま、お花に一生懸命なのが悠宇のいいところだけどねー)
それはそうと、アタシが手持ち無沙汰になっちゃったなー。
悠宇と真木島くんの勝負を見に行ってもいいけど、アタシまで勧誘されたら面倒くさいし。
クラスの女の子たちと親交を深めてもいいけど……。
でもま、ここはね?
やっぱり『攻略対象』のほうがいいよねー。
ということで、アタシはお弁当を持って教室を出た。
◇◇◇
Fクラスの教室。
アタシはお弁当の煮っころがしを箸で刺すと、それを差し出した。
「はい、えのっち! あ~ん♡」
「…………」
うわあ、嫌そうな顔。
アタシぞくぞくしちゃうなーっ!
「ひーちゃん。なんでうちで食べてるの?」
「いやー。真木島くんがアタシの親友を連れてっちゃってさー。一人は寂しいから、えのっちと一緒に食べよーって思って♪」
アタシは「ねー?」って、えのっちの友だちと顔を見合わせる。
そっちの子たちが、うんうんってうなずいた。
えのっちが「逃げ場がない……」って諦めたように、アタシのお弁当から卵焼きを奪っていった。
「それに、えのっちのおかげで『インスタ作戦』も思いついたし? そのお礼もしなきゃなーって」
「何、それ?」
「んふふー。まだ秘密♪」
「……ハァ。よくわかんないけど、お礼なら放っておいてほしい」
うわ、すっごい面倒くさそうにため息つかれちゃった。
「えのっち、アタシのこと嫌い?」
アタシが煮っころがしを食べながら聞くと、えのっちは即答した。
「うん。嫌い」
「えーっ! なんで!? 昨日、一緒に唐揚げ食べたじゃーん!」
「唐揚げ食べたので、これまでの悪行がチャラになると思うほうがどうかしてる……」
「うっわー、はっきり言われちゃった~っ!」
「ひーちゃん。なんで嬉しそうなの……?」
いやー、アタシって基本的に人から好かれちゃうからなー。
悠宇とかえのっちみたいに、アタシの嫌いなところズバズバ言えちゃう人って逆に好感度高かったりするんだよ。
……悠宇とえのっち、実は気が合ったりしないかな?
いやー、ないなー。
だって二人とも意外と人見知りさんだし。
二人でいても、ずーっと黙ってる未来しか見えないよねー。
「アタシ、そんなに嫌われることしたっけ?」
「わたしが嫌がってるのに勝手にお化粧させようとした。わたしが嫌がってるのに辛いの食べさせようとした。わたしが嫌がってるのにお人形を取っていった。わたしが嫌がってるのにお風呂に突撃してきた。わたしが嫌がってるのに髪を結んだり、わたしが嫌がってるのにお昼寝から叩き起こしたり……」
ひえっ。
思ったよりわんさか出てきた!
何がやばいって、全部身に覚えがあることなんだよなー……。
「だから、ひーちゃん嫌い。もう来ないで」
「え、ヤダ」
えのっちのアイアンクローが炸裂する!
アタシの「もぎゃああっ」って悲鳴が、平和な昼食時間に木霊した!
「ひぃぃちゃああああん……っ!」
「ギブギブ! えのっち、ギブ! 頭が砕ける!!」
アタシを開放すると、えのっちは大きくため息をついた。
「なんで? ひーちゃん友だち多いし、わたしに構わなくていいじゃん……」
それに対して、アタシはにこっと微笑んだ。
「だって、えのっちのこと好きだもん♡」
「……っ!?」
えのっちの顔が、ボッと赤くなった。
ありゃ?
昨日も思ったけど、えのっち案外攻められると弱い?
ぷいっと超絶可愛い顔を逸らすのを見て、アタシは「うずッ」としてしまう。
いつもの悪い癖が出てしまった。
にまーっとすると、両手で口元を隠しながら「ぷぷぷっ」と笑う。
「え? え? えのっち、照れてる? もしかして照れちゃってるのかなー? 嫌いなアタシの『好き♡』って言葉に照れまくりですかー? え~? えのっち、そんなクールな感じなのに、実は初心っぽいところポイント激高ですなー? ね、みんなもそう思うよね? ね? ……おりょ?」
つい楽しくなって調子に乗っていると、ふいに後頭部がガシッとホールドされた。
アタシの頭を掴む五本の指。
その力が、少しずつ強くなっていく。
背後から、とんでもない怒声が炸裂した!
「ひーちゃん! そういうとこ、ほんっっとに大嫌い!!」
「いだだだだだだ……っ! えのっち! ごめん、ごめんって! さっきよりやばい! 頭蓋骨がギシギシいってるからさーっ!」
ということで、アタシは昔馴染みの子と再び友だちになるのに失敗したのでしたー。
いやー、年頃の女の子って難しいな。