短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 二皿め うどん屋さんのおでんが普段より美味しく見えるのって何だろね①
◇◇◇
こんにちは!
アタシ、犬塚日葵。高校一年生!
春は麗らか、美少女日和!
……嘘、ゴメン。
絶賛、梅雨空の模様。
五月の末って、こんなもんだよね。
えのっちと一緒にバリバリ唐揚げを食してから、一ヵ月ほど経っていた。
そんなある日の昼休み。
「んっふっふ~♪」
雨にも負けず、アタシは超ご機嫌。
どのくらいご機嫌かっていうと、理由もなく学校の廊下でスキップしちゃうくらいご機嫌だよ。
やばくない?
高校生にもなって学校でスキップとかやばくない??
でも許されちゃうんだなー。
だってアタシ、可愛いからさ!(どやっ)
ご機嫌ついでに、鼻歌もオマケだ持ってけドロボーッ!
「……日葵。おまえ、何してんの?」
おっと。
いきなり背後から、空気の読めない陰キャボーイが話しかけてきたぞ☆
「陰キャボーイやめて。否定しないけど……」
アタシの大親友、悠宇がうんざりした感じで言う。
「あれ? 悠宇。アタシの心、読んだ?」
「おまえ、さっきから一人で喋ってる……」
「マジか」
それには美少女たるアタシでもびっくり仰天の助だよ。
さすがに恥ずかしすぎ…………ま、いっか。だってアタシ可愛いし!
たまには年相応の高校生らしさもアピールしとかなきゃさ。
あんまり天上人っぽい雰囲気が出てるのは、アタシとしても本望ではないよね。
「おまえ、今日は一段と調子乗ってんなあ。今朝はそんなでもなかったじゃん」
「んふふー♪ 聞いちゃう? 悠宇くん、それ聞いちゃうかなー?」
「うん。まあ、おまえが聞いてくれって言いたいのはわかった」
「ぷっはーっ! そっかそっかー♪ 悠宇くん、どうしても聞きたいかーっ!」
「聞いちゃいねえ……」
悠宇の肩をペチペチ叩きながら、アタシはスマホを見せる。
その画面に映ったTwitterのアカウントに、悠宇が目を丸くした。
「フォロワーが100人になってる……」
「そういうことですよ~~~~~~~~~~~~っ!!」
アタシはビシッとスマホを指さした。
えのっちがTwitterしてるのを見て、さっそく“you”のアカウントを立ち上げてみたわけ。
悠宇の作ったアクセの写真をのっけて、アタシがコメントとか管理する。
今朝、98人になってたからソワソワしてたんだけど、さっき見たらとうとう3桁!
アタシTwitterやったことないからよくわかんないけど、一ヵ月で100人ってすごくない? すごいよね!?
いつもクールな日葵ちゃんだけど、これにはさすがに喜びを隠せませんよ。
……とか思ってると、悠宇がクールに言った。
「へえ。やったじゃん」
うわ、リアクションつまんなっ!
アタシは悠宇の肩に掴まると、そのままずるする引っ張られていく。
「他人事かよ~。もっと喜べよ~」
「日葵。人の肩に掴まるのやめろし……」
「悠宇が嬉しそうにしないからでしょ~。アタシも頑張ったんだぞ~」
「いや、基準とかわからんし。実感ないっていうか……」
「でもアクセの注文も入ったよ?」
「え、マジで!?」
途端に嬉しそうになる悠宇。
うーん。このわかりやすすぎる性格、ちょっと将来が心配だなー。
アクセさえ褒めてもらえたら、悪い女にころっと騙されちゃいそう。
「まあ、まだ一個だけどねー」
「いやいや! それでも大きな前進だろ!?」
「うわー。今度は悠宇のほうがテンション高くてキモチワル……」
「ヒドくね? せっかくテンション揃ったところで蹴り落とすのやめて……」
なんてメンドクサイ男なんだ。
いつかカノジョできたとき、すっごい苦労させそうだなー……。
「とにかく昼飯にするか。日葵、科学室でいい?」
「あ、今日は別でー」
「あれ? 今日、委員会あったっけ?」
「んーん。違うよー。今日はデートするのー?」
悠宇が首を傾げた。
「おまえ、この前、先輩と別れてなかったっけ? また付き合い始めたの?」
「違う違う。今日は、可愛い女の子を引っかけてくるだけ」
「あ、そう。まあ、犯罪にならない程度にな……」
すっごく不安そうに見られた。
失敬な。アタシをなんだと思ってるんだ。
悠宇はいつものコンビニパンの袋をぶらつかせながら、緩く手を振った。
「じゃあ、俺は花の世話してるわ。アクセ注文の詳細、スマホに送っといて」
「はいはーい。よろしくねー」
悠宇に手を振って別れ、アタシは一人になった。
目をキランッと輝かせて、くるりと踵を返す。
目指すはうちのクラスから一番遠い教室。
えのっちの待つFクラスなのだ。