短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 二皿め うどん屋さんのおでんが普段より美味しく見えるのって何だろね②
◇◇◇
到着!
歩いて5分にも満たない冒険だったね。
開けっ放しのドアから、教室の中を見回した。
さーて。アタシの可愛いえのっちはーっと。
……いねえ。
なんだなんだ。この可愛いアタシが遊びにきたってのに、留守とはいい度胸じゃねーか。
よーし。見つけたら、罰としてあのパーフェクトおっぱいを堪能してやるぜへへへへ。
「……てか、ほんとどこ行ったんだろ?」
もしかして、お休みかな?
あ、でも机に鞄とかあるよね。
「おっじゃまっしまーす」
教室の隅っこ。
いつもえのっちと一緒にご飯食べてる、吹奏楽部の子たちに寄っていった。
「へいへーい。えのっちはー? もしかして休みー?」
「あ、日葵ちゃん。凛音ちゃんは飲み物買いに行ったよー」
なるほど。
それは盲点だったなー。
このまま待っててもいいけど、アタシも午後のヨーグルッペなくなってるし補充してくるかー。
教室を出て、自販機コーナーに向かう。
階段を下りて、下足場を横切って、廊下を歩いていく。
自販機コーナーに到着。
お金を投入して、ボタンを押す。
受け取り口からガラガラポンと紙パックが出てきた。
(うーん。結局、えのっちに会わなかったなー)
もしかして、行き違いになっちゃった?
とりあえず午後分のヨーグルッペを購入して、全部ポケットにしまい込んだ。
仕方ない。
ここは一旦、クラスのほうに戻るか。
うーん。でも、ここまでくると、科学室のほうが近いしなー。
悠宇のほうに合流して、一緒にお花のお世話してたほうがいいかなー。
アタシがうんうん迷っていると、ふと階段の上から男子生徒の声がした。
「さっきから無視とかカンジ悪くない?」
「せめて話だけでもさ」
見上げると、階段の踊り場で男子二人が女子一人を壁に追いやっている。
うーわー。
学校でナンパとかマジですか。
梅雨で太陽の光浴びれないと、思考がジメジメしちゃうのかなー。
とか思ってると、その男子の片割れに見覚えがある。
……アレだ。
アタシが先週まで付き合ってた(ふりしてた)先輩じゃん。
いきなり変なことしようとしてきたから、引っ叩いて終わっちゃったんだよね。
あーあ。アタシとうまいことやれなかったからって、すぐ次ですか。
そういういかにもな態度が見え見えで、ずーっとウンザリしてたんだよなー。
(触らぬ神に祟りなしってね。変に突っついてトラブルになったら面倒だし)
ゴメンね見ず知らずの女の子!
うまく逃げてね!
アタシは心の中で祈って、その場を後にしようとした。
(ヤな顔見たし、やっぱり悠宇のほう行って悠宇成分を補充しよーっと……んん!?)
ふと、二人に言い寄られている女の子に目がいった。
赤みのあるサラサラ黒髪ロング。
モデルみたいなスーパーえっちボディ。
なーんか見覚えあるなって思ったら、えのっちだった。
可愛いから仕方ないとはいえ、また面倒なのに目を付けられちゃって……。
(助けたいけど、えのっちが満更でもないっていうなら余計なお世話になるし)
こそーっと様子を伺ってみる。
あ、大丈夫だわ。
えのっち、ツーンって顔を背けている。
先輩たちが話しかけまくってもガン無視だ。
よーし。
ここはいっちょ、この『魔性』の日葵ちゃんが助けてやりますかね。
そうして、えのっちの好感度がバキュンと爆上がりって寸法よ!
株価大暴騰、ヒマ×リン株売り得待ったなし?
こ~っそり近づいて、先輩方の後ろから肩をポンと叩いた。
振り返った先輩たちに、にこーっと天使のスマイルで微笑みかける。
「先輩たち。何やってるのー?」
「ゲッ。犬塚……」
ゲッて。
気持ちはわからんでもないけど、もうちょい嬉しそうにしろや。
こんな状況でもなきゃ、この超絶可愛いアタシがおまえみたいなチャラ男に話しかけること二度とないんだぞ。
アタシにフラれたほうの先輩が、すっごく嫌そうに手を振った。
「おまえには関係ねえだろ」
「でも、その子、嫌がってない?」
「ちょっと緊張してるだけだって。……そうだよな?」
先輩が、えのっちに話しかける。
しかして、えのっちのリアクションは!?
「…………。(ツ~~~~ン)」
うわあ……。
スマホに目を落として、すごい勢いで何かをタタタタッとタップしている。
おまえの顔なんか絶対に見てやるもんかって意思表示がすごい。
誰にでも愛想よくしろとは言わないけど、ここまで露骨に顔背けられるのもすごいねー。
まさに絶対防御って感じ。
(えのっち、こんなにハート強い子だったっけ?)
でも、これよくないんだよなー。
誰にも懐かない孤高の猫さんって感じがして、逆に燃えさせちゃうっていうか。
「ねえ、先輩。やめときなよ」
「うるせえ。おまえ、あっちいけ」
先輩の友だちが、「おっ?」みたいなリアクションをした。
なんか勘違いした感じで、ニヤニヤしながら先輩に耳打ちする。
で、先輩も何を勘違いしたのかニヤニヤしながら言った。
「わかった、わかった。おまえ、おれとやり直したいんだろ?」
「…………」
う~わ~……。
そうきたかー。そもそも好きでも何でもないのに、何を調子に乗ってんだろ。
こいつ、アタシが先生に先週のことバラしたら停学になるのわかってんのかなー。
急に変な方向にイキり始めた先輩にドン引きしながら、アタシは「やっぱ早めに別れといてよかったなー」と一人でうなずいていた。
さて、どうしようか。
綺麗に別れたわけじゃないから突っ放してもいいけど、えのっちに逆恨みがいっても困るしなー。
「……ひ、ひどい」
アタシはうつむいて、先輩の制服の袖をちんまりつまんだ。
口元を押さえてはらはらと泣きながら、いかにも「そうですよ」って感じを演出する。
そしてアタシは声を震わせながら、涙ながらに訴えるのだ。
「せ、先輩がそんな人だなんて、思わなかった……」
「……っ!?」
先輩たちが動揺し始めた。
ふははははは。
押してダメなら泣いてみろ作戦。
アタシは高度な訓練(お兄ちゃんのスパルタ教育の副産物)により、いつでも好きな時に泣けちゃうのだ!
いかにも未練ありありな女の子を装って、先輩の精神を追い詰めていく。
「この前は、酷いことしちゃったかなって思って。アタシ謝りたかったのに、先輩はもうアタシのことなんかどうでもいいんだよね……」
「ううっ……」
ほれほれ。
完全に脈ナシだって教えるよりも、「実はワンチャンあったのに……」って後悔させたほうがダメージでかいよなー?
動揺する二人の隙をついて、ぽかんとしているえのっちの右手を取った。
「えのっち。行こ?」
「え? あ、う、うん……?」
えのっちが、やけに左手を隠しながらついてくる。
ちょっと気になったけど……まあいっか。今は逃げるのが先決だし。
先輩が、慌てて後ろから叫んできた。
「ら、ラインするから?」
返さねえよバーカ。
見えないように「べえーっ」と舌を出して、アタシはえのっちと窮地を脱するのだった。