短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 二皿め うどん屋さんのおでんが普段より美味しく見えるのって何だろね③
◇◇◇
えのっちのクラスに戻って、はあっと息をついた。
「あー、疲れたー……」
事情を説明すると、えのっちフレンズも「うわー」「災難だったねー」と言ってくれた。
で、そのえのっちはツーンとしていた。
あのナンパ先輩たちにしてたみたいに、アタシのほうを見ようとしない。
意地でもこっち向かない感じが、逆に意識してますオーラびんびんでてるなー。
「えのっち。なんで機嫌悪いん?」
「ひーちゃんには関係ないし」
えー……。
まさか、あの男がよかったの?
他人の趣味にアレコレ言うつもりはないけど、ちょっとナイと思うけどなー。
……とか思っていると、フレンズの一人がこそっと耳打ちした。
「凛音ちゃん。ここ最近、日葵ちゃんが遊びにこなくて拗ねてたんだよ」
「え、そうなの!?」
えのっちがビクッと反応した。
「そんなことないし!」
「いやー。ツンデレだと思ってたけど、そこまでアタシのこと好きだったんだなー」
「だからひーちゃん、違うってば!」
「んふふー。そんなに照れなくてもいいじゃーん。アタシもえのっちのこと大好きなんだし、相思相愛じゃ……」
調子に乗ってほっぺたすりすりしたら、むんずと頭を掴まれる。
あ、やべって思った瞬間、黄金のアイアンクローが炸裂した!
「違ぁ――――――――うっ!!」
「ぎゃああっ!? わかったわかった、わかったからアイアンクローやめてーっ!?」
えのっちはぷりぷり怒りながらお弁当のプチトマトを食べた。
「ひーちゃん。前にTwitterのアカウントの作り方聞いてったじゃん。それがどうなったのか気になってただけ」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
じと~~……っと睨まれる。
あうっとアタシの胸が高鳴った。
うーむ。えのっちのジト目、ちょっと癖になっちゃいそうだなー。
「ゴメンゴメン。ちょっとアカウント運営するので忙しくてなー」
運営、のところを強調する。
んふふー。間違ってないよねー?
だってこのアカウントは“you”のための商業アカウントだし。
それになんたって、フォロワー3桁だしな!
さすがに3桁ともなると、う・ん・え・い、が大変だからさー。
えのっちへの経過報告が遅れたのもやむなしだよね!
「ハァ。ひーちゃん、変なことしてなきゃいいけど……」
「失礼な。そんなに見たいなら、そう言えばいいのにさー」
「別に内容は興味ないし……」
「またまたー。もっと素直になっても、い・い・ん・だ・ゾ♪」
ほっぺたをツンツンすると、面倒くさそうに払われた。
「ひーちゃんじゃないし。他人のやること気にする人ばかりじゃないの」
「うっ……」
耳の痛いお小言を頂戴する。
んふふー。でも効かないもんねー。
なんたってアタシ、3桁の女ですし?
そんじょそこらのウザかわ女子とは格が違いますよ、格ってやつがね!
「んふふー。まあ、えのっちが素直じゃないのはわかったよ。でも、これを見ても同じことが言えるかなー?」
アタシはスマホを取り出すと、その画面をえのっちに見せつけた。
見よ、これがフォロワー3桁の力だ!!
し~~~~ん……。
あれ?
しらーっとした目で見られてる。
言葉にするなら「はいはいすごいすごい」って感じ。
子どもの頃、お母さんにこんな感じであしらわれてたの思い出すなー。
対してえのっちフレンズは「すごいねー」「まだ始めて一ヵ月?」と興味津々に覗き込んでくる。
「へえ。この花のアクセ、すごく可愛いねえ」
「興味あるなら、今度、持ってこよっか?」
「え、いいの?」
「いいよー。もし気に入ってくれたら、ちょっと割引できるか聞いてみるよー」
きゃいきゃい盛り上がってると、えのっちが小さくため息をついた。
どれどれって感じで覗き込んでくるのを、アタシはさっとスマホを引き上げる。
「んふふー。あれー? えのっち、他人のやってることには興味ないんじゃなかったのかなー?」
「…………」
えのっちの右手がワキワキ動く。
アタシは簡単に屈すると、再びスマホを差し出した。
「申し訳ございません。ご覧ください」
「わかればよし」
ちくしょー。
あっさりと上下関係をわからされてしまった……。
いつか下剋上を果たして、そのチチを好き勝手してやるかんね!
アタシが邪悪な決意を固めていると、えのっちが“you”のアカウントを見て目を見開いた。
「このアクセって……」
んん?
すごく意味深な感じ。
なんか変な写真あったかな?
アタシが見ているのに気づくと、えのっちが慌てて顔を引いた。