短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 二皿め うどん屋さんのおでんが普段より美味しく見えるのって何だろね④
◇◇◇
というわけで、放課後!
アタシはえのっちと一緒に、町に繰り出したのだった。
「よーし。それじゃ、えのっちがバズってるところ研究しちゃうぞー☆」
「ば、バズってないから……」
んふふー。またまたご謙遜をー。
午後の授業中に、えのっちのアカウント見たんだよなー。
すごく何気ない感じのお菓子の写真をアップしても、ファボが100個くらいついてる。
アタシたちのアカウントはよくて10個くらいだし、えのっちのアカウントの解析こそが勝利への鍵だよね。
「えのっち、どこ行く? 今日はアタシのおごりだから好きなところ言っていいよー」
「そんなことしなくていいよ」
「でも、せっかく部活まで休んでもらったんだし?」
「ひーちゃんに借り作りたくない……」
あ、そういう。
んふふー。えのっちって、すごくツンケンしてるのが逆に構ってほしそうに見えちゃってるのに気づかないのかなー?
「とりあえず、お洒落なスイーツのお店に行くぞー」
「ハァ。面倒くさい……」
スイーツ、スイーツ。
どうしよっかなー。
とりあえず、イオンに向けて歩いてくかー。
えのっちの自転車を押しながら、国道沿いに歩いていく。
天気は微妙だけど、雨は降ってないから助かっちゃったなー。
「ねえ、ひーちゃん」
「んー?」
えのっちが、なんか意味深な感じでこっちを見てた。
アタシと目が合うと、なぜか気まずそうに視線を逸らす。
「ひーちゃんたちが作ってるアクセだけど……」
「あ、もしかして興味ある?」
「えっと、そういうわけじゃなくて。あ、そういう意味でもあるんだけど……」
「????」
どうしたんだろう。
えのっち愛想は悪いけどはっきり言うタイプだし、こんな感じなの珍しいなー。
そして深呼吸すると、すごく緊張しながら聞いてきた。
「……あのアクセ作ってるのって、女の人?」
「う、うん。そだよー」
おっと、つい男の子って口を滑らせちゃいそうになっちゃった。
ほんとのこと言ってもいいんだけど、さっき言い繕っちゃった手前、ちょっと気まずいよなー。
それに悠宇も恥ずかしがりだし、今度、こういう場合の対処とか話し合っとくかー。
「えのっち。これ作ってる人のこと気になるん?」
「あ、ううん。なんでもない。ちょっと聞いてみたかっただけ……」
なんか何でもない感じに見えないんだけど。
そしてえのっちは「……そっか。そうだよね」とアンニュイな感じでうつむいてしまった。
「…………」
うわ、可愛い。
なんだ今の? 一瞬、えのっちが普段の三倍可愛く見えたんだけど。
なんか物思いに耽ってて、恋する乙女って感じ?
いつもは「ふーん」って聞き流すんだけど、そのときはやけに気になってしまった。
アタシはそれがどうしても知りたくて、えのっちに聞いてみる。
「ねえ、えのっち。それ……」
ぐぎゅるるるる……。
「…………」
「…………」
漫画みたいな腹の音だった。
国道を走る自動車の走行音にも負けずに響いたそれは……えのっちのお腹だった。
さっきまでアンニュイに頬を染めていた美少女は、別の意味で顔を真っ赤にしている。
そして諦めたようにフッと微笑むと、押してた自転車をガシッと掴んだ。
両腕で持ち上げると、があっと襲いかかってきた!
「ひーちゃんを殺してわたしも死ぬ!」
「待った待った? えのっち、お腹が空くのは健康な証拠じゃーん!」
謎フォローをしながら、アタシはえのっちの袖を引っ張って引き留めた。
危ない、危ない。
この細腕のどこにそんな力があるのか知らないけど、この子って怒ると何しでかすかわかんないからなー。
えのっちは涙目で「う~~……」と唸った。
「どうせひーちゃんのことだから、明日学校でネタにされる……っ!」
「うーん。自分の日頃の行いのせいで否定しきれないなー……」
いやいや、さすがにね?
乙女の秘密くらいはちゃんと守りますよ?
えーっと。それよりも、この微妙な空気をなんとかしなきゃ……。
「あっ!」
目の前に、うどん屋さんがあった。
そこから、美味しそうなお出汁の香りが漂っていたのだ。
お腹の音の原因はコレかー。
「えのっち。せっかくだし、ご飯食べてこ?」
「……やだ。わたしもう帰る」
ツンとそっぽを向いて、自転車に乗った。
あちゃー。完全にご機嫌ナナメ。
どうしよっか。
こういうときのえのっちは、変にご機嫌取るよりもっと煽ったほうが効果的だったりする。
その背中に、ぼそっと呟いた。
「逃げたな?」
「っ!?」
遠ざかろうとした自転車が停まる。
えのっちがムッとした顔で振り返った。
かかった。
アタシはやれやれと肩をすくめてみせた。
「ハァ。ま、わかるけどさー? 今はフォロワーの差があるけど、すぐにアタシが追い抜くしなー? そうなっちゃうと、えのっち立つ瀬ないもんなー? そりゃ教えたくないよなー?」
「…………」
いそいそと自転車を反転させ、うどん屋さんの敷地に入る。
えのっちは自転車を駐輪場に停めると、こっちにブンブン手を振った。
「ひーちゃん。早く!」
「うーん。ここまでわかりやすいと、逆に心配になっちゃうなー……」
お店に入るアタシの後ろで、えのっちが固く拳を握っていた。
「ひーちゃんには負けない……っ!」
えのっち、ほんと負けず嫌い。