短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 二皿め うどん屋さんのおでんが普段より美味しく見えるのって何だろね⑥
◇◇◇
満腹になったアタシたちは、一緒に「ご馳走様」と手を合わせる。
さてさて。
それでは本来の目的に移りましょう。
同じようにTwitterに写真を上げたアタシとえのっち。
その動きは……うーむ。
ある意味、予想通りというか。
アタシたち“you”のアカウントは、5個くらいファボがついて動きを止めた。
そして、えのっちのほうは……。
「うわ、もう200個になってる……」
圧倒的だ。
同じような写真なのに、何がこんなに明暗を分けるんだろう。
「えのっち~。コツあるんなら教えてよ~……」
「そう言われても、わかんないよ。わたし、特別なんかしてるってわけじゃないし……」
袖を引っ張って懇願するのを、ぺいっと払われた。
でもえのっちの様子を見るに、ほんとにわかんないみたいなんだよなー。
確かに、えのっちのアカウントは可愛い。
いつもお店のスイーツの写真を上げてるし、現役の女子高生ってのもポイントは高い。
でも、これだけでフォロワー1万っていうのは正直、説得力ないよなー。
何かしらの奇跡的要因……ラッキーヒットを待つしかないのか。
SNSのラッキーヒット。
つまり、有名人が気に入ってくれるとか、お花アクセ自体が若者の間で流行してバズるとか……。
有名人、有名人……。
「……んん?」
えのっちのアカウントを遡っていて、ふと気づいた。
ん?
んん?
んんん~~?
「……あっ!?」
アタシが声を上げると、えのっちが不思議そうに覗き込んできた。
「ひーちゃん。どうしたの?」
「こ、これ……」
アタシは、えのっちの『バズりの正体』を指さした。
「えのっちの写真、いつも紅葉さんがRTしてる!」
「え?」
えのっちが目を丸くした。
そして、慌ててアカウントを遡り始めた。
「……あーっ!」
紅葉さん。
えのっちのお姉さんで、東京で人気モデルをやってるスーパービューティ。
紅葉さんが『うわ~。このうどん屋さん、子供の頃よく行ったな~♪』とか可愛くコメントしていた。
そのせいで、ぽんぽんぽんぽんとファボが増えていた。
……なお、えのっちは紅葉さんのことが、実はあんまり好きじゃなかったりする。
「…………」
「…………」
その重い沈黙に耐えられずに、アタシは「アハハー」と笑った。
「よ、よかったじゃーん。えのっち、苦労せずにバズリシャス!」
ついでにビシッとえのっちを指さしてみた。
ちょっと自分でも何言ってるかわかんなかったけど、とにかくえのっちが機嫌直してくんないかなーって……あ、ダメっすか。そうっすよね。
顔を上げるえのっちの瞳は凄まじい怒りに燃えていた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
えのっちの可愛くない雄叫びみたいなのが、うどん屋さんに響き渡ったのであった。
◇◇◇
その翌日……。
昼休み、アタシはまたえのっちのクラスでランチしていた。
アタシはスマホを眺めながら、もったいねーって呟く。
「えのっち。ほんとにアカウント消しちゃったんだ……」
このアカウントは存在しませんっていう文面になっていた。
なんか兵どもが夢の跡って感じ。
そのえのっちは、ずーっとぷりぷりしながらお弁当を食べていた。
「お姉ちゃんの手垢がついたのはやだ」
「手垢て」
まあ、言いたいことはわかるけどさー。
えのっちフレンズも、やれやれって感じだった。
どうやら、今日はずっとコレのせいで機嫌が悪かったらしい。
「今度は、お姉ちゃんが見つけられないようにアカウント作るから」
「せっかく、えのっちの手作りスイーツを広めてくれてたのになー?」
「そんなことないよ。あの人、わたしが嫌がるってわかっててやってるんだもん」
「うーん。闇が深い……」
このツンデレ姉妹は大変だなー……。
ちなみにアタシたち“you”のアカウントは、まったくの平常運転。
おうどんの写真では、フォロワーを増やすに至らなかった。
「あのアカウントいらないなら、アタシたちにくれればよかったのになー」
「それ、規約違反じゃなかったっけ……?」
アハハー、バレたか!
アタシが誤魔化しで笑っていると、えのっちが小さくため息をついた。
「それに、そんなズルしてうまくいって嬉しいの? ひーちゃん、あのアカウントのこと一生懸命やってるじゃん」
「…………」
その言葉に、アタシはふと口ごもった。
えのっちの何気ない言葉が「アタシのことをちゃんと見てるんだなー」って思わされて……なんかちょっと嬉しかった。
アタシはうへへっと笑った。
「そだね」
その通りだ。
アタシは、アタシの力で悠宇のアクセを売るって決めたんだから。
奇跡なんて期待しない。
アタシは上を目指して、アタシがやれることを探すしかない。
「でも、どうしよっかなー。他に参考になる人がいればいいんだけど。やっぱり、同じように自作アクセを売ってる人を見て……」
一人でうんうん唸っていると、ふとえのっちが言った。
「ひーちゃん。そもそもアクセの販売につなげたいなら、Twitterはメインよりもサブのほうがいいんじゃない?」
「……どゆこと?」
えのっちはスマホでインスタを立ち上げると、それを見せてきた。
「Twitterはトークがメインだから、どうしても普段のトークの面白さに比重がいきやすいよね。ひーちゃんたちはアクセサリーの写真を一番見てもらいたいんだから、インスタのほうをメインにするのがいいと思う。あとは動画アプリとかも活用して……」
「わあーっ!。何々? えのっち、わざわざ調べてくれたの?」
ふと、えのっちの動きが止まった。
そして気まずそうに頬を染めると、「そういうわけじゃないけど……」ともにょもにょ声が小さくなっていく。
……その超絶可愛い仕草に、アタシの悪い虫が顔を出した。
「んふふー。えのっち、なんだかんだ言って、アタシのこと大好きだよなー? そうでしょ? ね、ね? みんなもそう思うよねー? このこのー。素直に言えばいいのにー。でも、そんなツンデレなえのっちが、か・わ・い・い・ぞ?」
「…………」
ぐわしっと、アタシの頭が右手にホールドされた。
あっ。あかん。
そう思った瞬間には、えのっちの右手に、牛めしによって補充された大いなる力が注ぎ込まれた!
「ひぃぃちゃああああん……っ!」
「もぎゃああああああああああああああああああっ!」
ということで、今回も見事に成敗されちゃったのでした☆
いやー、情報を広めるのって大変だなー。