短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 三皿め 友だちで焼肉いくと絶対にプリン焼こうとするやついたよね①
◇◇◇
アタシ、犬塚日葵!
老若男女に愛される、最強のおねだり美少女だよ!
普段は最強に可愛い女子高生をやりながら、大親友である悠宇くんのアクセ販売を手伝っているのだ。
これは高校一年、夏先のこと。
アタシは小学生の頃の友だち、えのっちに再会。
バズり神(アタシ基準)ことえのっちのアドバイスによって、新しくSNSを活用したアクセ販売を開始した。
アタシは順調に、えのっちと再び仲良くなっていた。
お昼は無理やり押しかけ……一緒に食べるようになったし、放課後も無理やり引っ付いて……一緒に寄り道して帰ったり。
でも、幸福な時間は長くは続かなかった。
美少女コンビのイチャイチャライフが砕け散ったのは、ある朝のこと――。
あれは学校に登校したばかりの時間。
まだ生徒たちもまばらな、駐輪場の前だった。
登校中のえのっちの後ろ姿を見つけて、アタシは駆け寄った。
衣替えがあったばかりで、真新しい夏服が瑞々しい。
そんなアタシたち美少女コンビがイチャイチャするのは、天に定められた節理のようにも思えた。
あの悲しい『事故』が起こったのは、その瞬間だった――。
アタシは傲慢だったんだと思う。
えのっちにそれをする権利があるは、アタシだけだと思っていた。
アタシのためだけに用意された、アタシのための『至福の秘宝』。
他に替えなんて利かないし、それはえのっちにとっても同じだと疑わない。
えのっちに引っ叩かれた頬が、ジンジンと鈍い痛みを訴えている。
その刺すような熱が、アタシの失敗を否が応でも伝えてくる。
えのっちの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。
「……ひーちゃん。嫌い!」
えのっちの嫌悪の声音が、いつまでも耳にこびりついていた。
◇◇◇
その昼休み――。
アタシはいつもの科学室で、ボーっとスマホをぽちぽちいじっていた。
その画面にあるのは、フラワーアクセの通販サイト。
三ヶ月前にプレオープンした、アタシたちがお店を出したときのノウハウを学ぶための仮住まいだ。
アクセの写真をインスタに投稿して、アタシの作った販売サイトで通販する。
これまで地元のつながりを得るために、手売りしかしなかったアタシたちにとっては初めての挑戦だった。
それは早くも効果を表して、すぐに17件の注文が入った。
販売のプラットフォームを持たなかったアタシたちにとって、それは大きな前進だった。
そう、最初はそう思ってたんだよ……。
「…………」
さっきからアタシは、受注用のメールアドレスを開いたり閉じたりを繰り返していた。
……0件。
メールボックスを、スワイプで更新する。
……0件。
この一瞬で、メールが増えるわけない。
頭ではわかってるけど、スワイプを繰り返す。
……0件。
…………0件。
………………0件。
「…………」
最後に受注のメールが入ったのは……2週間前。
その前は……1週間前。
その前も……1週間前。
つまり今月の注文は……3件。
「…………」
次は“you”の商品一覧に移った。
カラフルにデザインした『在庫有』の文字が寒々しい。
この『在庫有』の文字……一か月前から変動なし。
「…………」
インスタのほうに移る。
三日と置かずに、更新する新作アクセの写真。
最初の頃は最高で100個にもなったファボも……今じゃ5個くらい。
アタシが張り切って考えたキラキラ長文アピールに対するコメントも……特になし。
「…………」
アタシは天井を仰いだ。
謎の防音仕様のためか、小さな穴がたくさん開いている。
それを隅っこから、一つずつ数えてみた。
1、2、3、4、5、6、7、8、9……あれ、今のズレちゃった?
最初から、1、2、3、4、5、6、7…………。
「…………」
アタシはぷるぷると手を震わせる。
ぷっつーんと、頭の中の何かが弾けた。
「ちっがあ――――うっ? 天井の穴なんか数えてる場合じゃなあーいっ!」
アタシは椅子から立ち上がって吠えた。
しーんと、静かな空気が返事をする。
科学室の外から、女の子たちの明るい声が聞こえた。
でも、アタシの声に返事する人はいない。
視線を横に向けると、アタシのパートナーである悠宇が黙々とアクセのデザインを描いていた。
今、花壇で育てている夏の花。
調子に乗っていつもよりたくさん植えたそれらを綺麗なアクセにするために、悠宇は真剣な顔で仕事に取り組んでいる。
いつもは「わー悠宇のお目めキラキラ~☆」って感じでテンション上がるところなんだけど……。
アタシは一人で、テーブルに突っ伏した。
「……はあああ」
空しい。
こういうときは、悠宇の異常な集中力が恨めしい。
女の子は共感してほしい生き物。
共感してほしいときに共感してくれないとメンタルがアイスみたいに溶けちゃうのだ。
「……くそう。なんでだー。なんでうまくいかないんだー」
バタバタと脚を振り回す。
向かい側の椅子で脛を打って、アタシは「いった……っ?」と一人で呻いていた。
つまり、何が言いたいのかというと……。
ルンルン気分で始めた、このインスタ&通販の戦術。
――さっそく、フォロワーが伸び悩んでいたのだ?