短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 三皿め 友だちで焼肉いくと絶対にプリン焼こうとするやついたよね②
インスタのフォロワーなんて、もう何週間も増えてないし。
最初は物珍しさでファボってった人も、まったく音沙汰なし。
お客さんが定着しない。
アタシたちは所詮、行きずりの女ってか。
カノジョにはするけど、結婚はしたくないってか。
「……うまくいくと思ったのになー」
一人でぶーたれていると、ふと照明の灯りが遮られた。
上のほうから、悠宇が訝しげに覗き込んでいる。
「日葵。どうしたん?」
「あ、悠宇。アクセのデザイン終わった?」
悠宇は一仕事終えたみたいな清々しい笑顔で、アタシから受け取ったヨーグルッペをちゅーっと飲み干した。
「悠宇。真面目なお話があります」
「な、何だよ改まって……」
悠宇が姿勢を正した。
アタシは小さなため息と一緒に、その事実を告げる。
「このままだとアタシたち……上半期は普通に大赤字です」
「え、マジで?」
悠宇のヨーグルッペの紙パックが、ぺこんと音を鳴らした。
アタシと悠宇が手を組んで、最初の年以来の……赤字。
一つ目の理由は、Twitterやったりインスタやったり新しいことに時間を費やして、これまでバザーとかで売ってた分の実売が落ちたこと。
二つ目の理由は、最初に「ネット通販うまくいきそう!」って意気込んで植えた夏のお花たちやアクセパーツの仕入れの費用。
つまり収支のバランスが、完全に崩れたのだ。
どんなことでも、新しいことに取り組めば多少は落ちるのはしょうがない。
でも、ここまでダメになったら、新しい取り組みが芽吹かずに立ち枯れることだってあり得る。
「そっか……」
悠宇は少しだけ、残念そうにうつむいた。
その表情に胸が痛む。
アタシのこと信用してくれてたのに。
それなのに、こんな無様な結果になるなんて……。
アタシが悔しさに歯噛みしていると、悠宇は顔を上げてへらっと笑う。
「まあ、次は何とかなるんじゃねえか?」
「のんき! めっちゃのんきなんだけど?」
前言撤回。
うちのパートナー、これ何も考えてない!
「いや、だって一回ダメだったくらいでそんな騒ぐことねえだろ?」
「大赤字だって言ってんじゃん! 夏のアクセで収支をうまいこと取り戻さないと、冬のアクセの制作費用を大幅カットしなきゃいけなくなるんだよ?」
「ええ……、そんなにやばいの?」
「やばいの! 悠宇は帳簿見ないからわかんないだろうけど、そんな余裕ある経営じゃないからね!」
悠宇はやっと事態の深刻さに気付いた。
それから二人で、うんうんと反省会を執り行う。
でも、こんなスタンスで出される意見なんてロクなもんじゃない。
すぐにダメなところをバシバシ叩き合うだけの収穫のない会話になっていった。
「この“you”って名前が安直すぎるんでしょ! ググっても全然ヒットしないじゃん!」
「はあ? おまえだって『やっぱシンプルでカッコイイのが一番だよなーっ!』ってノリノリだったろ? ダメだったら責任転嫁するのよくないと思うわ!」
どんどん根本的な問題から遠ざかるのに気づくと、アタシたちは一時休戦する。
「悠宇、よくない。この流れはよくない……」
「そ、そうだな。俺も任せっきりなのは悪かった……」
二人でヨーグルッペクールダウンすると、ハアッとため息をつく。
悠宇が改めて帳簿をチェックしながら、「あっ」と思いついた。
「日葵。この前の、おまえの友だちに相談できないの? ほら、インスタとか使えって教えてくれた子」
「…………」
えのっちのことを出されて、アタシは「うっ」と口ごもった。
気まずさに視線を逸らしながら、いじいじと指を絡めながら答える。
「それは、今は無理かなーって……」
「え、どうしたん? 最近、たまに一緒に遊んでるじゃん」
「いやー。ちょっと今朝、怒らせちゃってさー。それからラインの返事とかないんだよなー」
「……そういえば、クラスの人たちが言ってたな。もしかしておまえが登校中に引っ叩かれたのって、その子なの?」
アタシは両手を頬にあてて「てへ☆」と可愛い子ぶってみた。
でも悠宇は誤魔化されずに、ものすごく不審な視線を向けてくる。
「おまえ、何したわけ?」
「…………」
アタシは今朝のことを、静かに思い返した。
――そう、アレは今朝の登校のとき。
生徒もまばらな駐輪場前。
えのっちの後ろ姿を見つけたアタシは、手を振りながら駆け寄った。
そして彼女が振り返った瞬間、目にしてしまったのだ。
夏服。
ブラウス一枚を隔てた、隠しきれぬ存在感。
魅惑的に跳ねる、その『至福の秘宝』を。
気が付けば、吸い寄せられて――。
「おはようついでに、おっぱいをタッチ……」
「引っ叩かれて当然だわ。今すぐ土下座して謝ってこい」
冷たい!
うちのパートナー、冷たいよ?
「だって、あんなに大きなもんアピールしてきてんだよ? 下からソフトタッチで打ち上げるのが礼儀ってもんでしょ!」
「やかましいわ。おまえに触らせるために育ったもんじゃねえだろ」
アタシはぷいーっとそっぽを向いた。
「予言するね。アレを前にしたら、陰キャの悠宇だって絶対にガン見するってさあ!」
「いらんこと予言するな。そんなくだらないこと真顔で言われたら、なんか当たりそうで怖いわ」
まあ、ということでね。
覆水盆に返らずと言いますか。
……奇跡的な再会を果たしたアタシとえのっちの友情は、脆くも崩れ去ったのでした。
「きっとアタシは傲慢だったんだと思う。あのおっぱいは、アタシのためだけに用意された『至福の秘宝』だって……」
「なんか語ってないで、はやく謝ってこいよ」
「やだね! ここで謝っちゃったら、次の悪戯できなくなっちゃうじゃん!」
「ダメだこいつ。何も反省してない……」
てか、悠宇ってばアタシより名前も知らないえのっちの味方するわけ?
それは日葵ちゃんと言えどもさすがにぷっつん案件ですけど?
ぷはははっ。
まあ見てなって。
えのっちに頼らなくとも、アタシがバッチリ赤字の打開策を準備しちゃうからさあ!