短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 三皿め 友だちで焼肉いくと絶対にプリン焼こうとするやついたよね③
◇◇◇
無理でした。
あれから三日経って、まったく何も思い浮かばなかった。
そもそもアタシ、自分で何かプラン立てするの苦手だからなー。
(てか、えのっちの顔がちらついて集中できん……)
おかしいなー。
アタシの人間関係に対するモットーは薄く広く。
悠宇以外の人と深くかかわるのは避けてるはずなんだけど。
(ま、いっか。ちょっと気になるし、えのっちの様子でも見てやろっかなー)
あれから三日。
向こうだって、そろそろアタシが恋しくなってるに違いない。
昼休み、悠宇が一人で科学室に行くのを見送った。
えのっちのクラスにやってくると、そっと中の様子を窺う。
(……あれ? えのっち、いないなー)
吹奏楽部のフレンズ二人は、きゃいきゃい仲よくお昼を食べている。
えのっちはお弁当組だし、もしかして飲み物でも買いに行ってるのかな。
……てか、えのっちとあの二人、いつも別行動してるよなー。
えのっちがソロを好むのか、あの二人が仲よすぎるのか。
前者だよね?
これ後者だったら、えのっちソフトにハブられてるってことだし?
アタシがさてどうしようと考えていると、ふと背後から声がした。
「ひーちゃん。何してるの?」
「ぴえっ」
慌てて振り返ると、えのっちがじとーっとした目で見ていた。
案の定、ペットボトルの午後ティーを持っていた。
たぶん自販機で買ってきたんだろう。
「あー。えっと、ちょっと教室の前を通りかかってさー」
「ひーちゃん。いつも自分のクラスの隣の階段使ってるじゃん」
「え、えーっと……」
そろそろと後ずさる。
マズい。
なんかうまいこと言葉が出てこん。
そのえのっちは、いつもの微妙に不機嫌そうなクールな表情。
三日前から変化はな……んん?
「えのっち。なんでカーディガン着てるの?」
「うっ……」
ベストタイプの薄手のカーディガン。
この暑いのに、それを制服の上から着用していた。
一応、アタシも持ってるけど、これまで出したこともなかったなー。
「教室エアコンついてるけど、さすがに暑くない?」
「…………」
あれ?
えのっちの背後から、ぶわあっと怒りのオーラが噴き出した。
右手でアタシのネクタイを掴むと、ずるずると廊下の隅に引っ張っていかれる。
「誰のせいで、こんな暑い思いしなくちゃいけないと思ってるの?」
「え、アタシ? アタシのせい? なんで?」
アタシは頭の上に『?』を浮かべる。
その態度に、えのっちがふるふると肩を震わせていた。
「ひーちゃんがあんなことしたから、男子が余計に変な目で見るようになったんじゃん!」
「え? あ、あー……そういうこと?」
大きいってのも大変だなー。
アタシが一人で納得していると、えのっちがささっと胸を両手で隠すようにした。
「……ひーちゃん。ちょっとは変わったと思ったのに」
「え?」
えのっちが小さなため息をついた。
そしてアタシを無視して、教室に戻っていく。
慌てて後ろから引き留めようと……って、めっちゃ力強っ? この細い身体のどこにアタシを引きずってくパワーがあんの?
「ま、まあまあ。えのっち、お詫びに可愛いアタシが一緒にご飯食べてあげるからさー」
「いらない。二度と顔を見せないで」
あれれれれ?
ちょーっと想像してたのと違うな?
……もしかして、えのっち本気で怒ってる?
「え、えのっち。あのさ……」
「…………」
あ、ガン無視!
えのっち、大人げないな!
そうくるなら、アタシにも考えがあるもんね!
えのっちフレンズが「今日もやってんのー?」「仲いいねー?」とイチャイチャしながら言ってくる。
仲よく手を握って、今日も非常に百合百合しい。
「日葵ちゃん。今日はどしたのー?」
「いやー、えのっちと遊ぼっかなって思ったんだけど、まだ怒ってるみたいでさー」
「ひーちゃん。なんで普通にお弁当広げてるの……?」
えのっちのどっか行けアピールに、アタシは「てへ☆」と笑う。
「だって、アタシはこの二人と一緒にご飯食べてるだけですし? そこにたまたまえのっちがきただけじゃん?」
「ひーちゃん。屁理屈ばっかり……」
ぷっはっは。
腕力はともかく、口では負けませんよ。
ま、本番はここからですって。
アタシの鋭い嗅覚で言えば、このフレンズ二人はアタシ側だ。
「でもさ、えのっちのおっぱいなら普通はタッチするよなー?」
すると思った通り。
フレンズの二人が、ニヒルな感じに顔を見合わせる。
「わかる」
「たまに理性が本能に負けそうになる」
「二人とも?」
えのっちがドン引きだった。
それをガン無視しながら、フレンズ二人が秘めていた欲望を洗いざらい白状していく。
「正直、これはやばいよ」
「ぶっちゃけ、お母さんよりでかいしね」
「ちょっ? 肉親出すなって!」
「でも、そう思わん?」
「わかるけどね。うちの先輩とか先生でも勝てる人いないんじゃない?」
えのっちの顔がどんどん赤くなっていく。
ベリベリ可愛い。
もっと可愛い顔が見たいので、アタシも燃料を投下する。
「アタシとしては、タッチじゃなくて挟まれたいかもなー」