短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 三皿め 友だちで焼肉いくと絶対にプリン焼こうとするやついたよね⑦
さりげなくヒドいこと言いながら、えのっちが付け合わせのキャベツをカジカジ齧っている。
リスみたいですごく可愛い。
「ま、いいや。アタシのアカウントにのっけよーっと」
「ええ……。ひーちゃん、わたしも映ってるんだけど……」
あ、確かに。
気を取り直して、一人でピロンッと。
んふふー。
美少女が焼肉食べてる写真なんて、眼福すぎて卒倒しちゃう人が出ちゃうだろうなー。
可愛すぎるってのも罪だよなー。
……とか、アタシが一人で冗談めかしているとき。
「あっ」
「ひーちゃん、どうしたの?」
「いやー。それが、写真上げるアカウント間違えちゃったなーって」
アタシの個人アカウントじゃなくて、お花アクセの写真を載せる〝you〟のほうに載せてしまったのだ。
「えーっと。どうやって削除……うおっ」
ファボられた。
いつものアクセの写真より早いじゃん。
いやー、みんなお肉好きなんだなー。
……んん?
そんなことのんきに思っていると、さらにファボが。
そしてフォロワーが……もりっと増えた。
とか思ってると、さらにファボが――。
「ぎゃあーっ! 通知が止まんっ!」
「わ、すご……」
この数分で、あっさり30くらいファボられた。
それをしげしげ見ながら、えのっちが聞いてくる。
「ひーちゃん。このアカウントで顔出したの初めて?」
「あ、うん。そうだけど……」
コメントもついた。
何々……「アクセより本人のほうが可愛い!」って、はああ?
「ムカつく! アクセをディスるやつはブロック案件ですよ。てか、この写真消せば……」
いまだにファボとフォロワーが増える写真を消そうとした。
でも、その指をえのっちが止める。
「え? えのっち、どしたん?」
「ひーちゃん。大事なこと言うね……」
「な、何……?」
そして真剣な顔で、アタシをビシッと指さした!
「綺麗なアクセ単品より、綺麗な女の子とご飯ペアのほうが――バズる?」
「っ????」
えのっちが口元の焼肉ソースをぺろっと舐める。
どや顔可愛すぎ……いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。
「そ、そんな馬鹿なことあるわけないじゃん?」
「実際、こっちのほうがリアクションいいよね?」
「そ、そうだけど……」
「興味のフックはシンプルに強いほうがいいの。ご飯は美味しそうって感覚が掴みやすいし、綺麗な女の子もわかりやすいよね」
「ううっ……」
なんか納得いかないけど、えのっちのほうが詳しいのは事実。
この前、紅葉さんのことで作り直したTwitterのアカウントも、この二ヶ月でまたフォロワー1000人くらいになってるし。
このバズり神が言うなら……なんかほんとな気がする!
「つまり、お花アクセを売るために、アタシが顔出しするべきってこと……?」
「ひーちゃんじゃなくてもいいんだけどね。作り手の顔が見えたほうが、宣伝効果がある場合もあるよってくらいの感覚かな」
そういえばスーパーの野菜コーナーで、農家さんの写真を貼ってることもあるよなー。
ほら、「わたしたちが作りました!」ってやつ。
優しい顔のおじさんたちの写真があれば、なんとなくいいものに思えてしまう。
「顔出しのリスクもあるけど、ひーちゃんはそういう部分はしっかりしてると思うし。それに実際にアクセを身に着けてるほうが、イメージつきやすいよね?」
まあ、それは一理あるけど。
それに顔を出すなら、悠宇よりアタシのほうが向いてるとも思う。
でも。
でも……っ!
アタシは頭を抱えて唸った。
「そんな自己顕示欲マシマシ女子みたいなことしたくない~……」
「え、ひーちゃん。本気で言ってる?」
うわ、すごくクールにツッコまれた。
アタシって普段そんな感じに見えてんの??
「ひーちゃんがお手伝いしてるアカウント、わたしも見たよ。確かにアクセは綺麗だけど、個性はないよね」
「こ、個性ないの? こんなにアクセ素敵なんだよ!」
「わたしもいいなって思うけど、ネットには他にも同じくらい素敵なアクセの写真たくさんあるし。玄人にしかわからない違いを、一般のフォロワーに理解しろってほうが無茶だよ。ただでさえ、サンプルが通販の写真しかないんだから。わたしが『個性がない』って言うのは『もうちょっとユーザーの視点に立ってみよう』ってこと」
正論でボッコボコに殴られる。
た、確かに、うちの土地を借りて自営業始める人とか、そういう部分で悩んでる人多いってお兄ちゃんも言ってた。
この点に関しては、お家のケーキ屋さんで鍛えてきたえのっちのほうが正しいと思う。
「で、でも、うう……っ」
「ひーちゃん、何が気に入らないの?」
「だって、それでアクセが売れても、純粋にアクセの魅力で売れたわけじゃないじゃん……」
「そんな甘っちょろいこと言ってて経営が成り立つわけないじゃん。何よりも、まず認知させることが大事なんだから。百均に並んでるお茶碗と、ひーちゃん家の蔵の奥にしまったままの家宝の掛け軸、どっちが売れると思う?」
ぐふうっ?
トドメの一撃を喰らって、アタシがよろける。
反撃できる隙は微塵もない。
……ああ、インスタのフォロワーだけがポコポコ増えていく。
「まあ、選ぶのはひーちゃんだし。わたしが言ったのが、必ずしも正しいってわけじゃないから」
「むー……」
えのっちは、最後のビビンバを平らげながら言って……いや待て。さすがに食べすぎでは?
アタシ、ほとんど食べてないよ?
この大量のお皿にのってたお肉、全部その細いお腹に入ってるの?
さてはこの前のうどん屋さん、本気出してなかったな?
「ひーちゃん。ご馳走様でした」
「は、はい……」
バズり神の締めの言葉をもってして、この日のご飯は幕を下ろした。
お会計を済ませて……うーん。この領収書、後でお兄ちゃんに必要経費ってことで何とかならないかな。
お店から出て、アタシたちはバイバイする交差点まできた。
すっかり暗くなった国道。
お腹いっぱいでご満悦のえのっちは「あ、そうだ」と振り返った。
そして花のように顔をほころばせながら、可愛らしく言う。
「じゃ、明日から絶交ね?」
……えのっち、ジョークで済ませてくれなかったんだなー。
新鮮な強かさを知り、この日は終わったのだった。