短編③ ~JK2人、田舎町食べ歩き日記~ 三皿め 友だちで焼肉いくと絶対にプリン焼こうとするやついたよね⑧
◇◇◇
その翌日の昼休み。
悠宇と向かい合い、アタシは宣言した。
「……ということで、これからのインスタの写真、アタシがモデルをやります」
「わかった」
「ご飯写真のふりをしながら、アタシがアクセを身に着けてアピールする。まずはそういう形を試す感じで」
「うん。日葵、よろしくな」
悠宇はびっくりするくらい素直に受け入れた。
あれ~?
てっきり「俺のアクセがわき役ってこと……?」みたいな感じで渋ると思ったのに。
一晩中、ずっと悩んでたアタシが馬鹿みたいじゃん。
「ねえ、悠宇? ほんとにいいの?」
アタシは「よっしゃやるぞー」と燃えてる悠宇に、恐る恐る聞いてみる。
悠宇はあっけらかんと答えた。
「別にいいけど、なんか変?」
「いや、もっとアクセに関しては頑固かなーって……」
「うーん。まあ、思うところがないわけじゃないけど……」
悠宇はちょっと考えた後……。
やっぱり、いつものアタシのこと信頼しきっているような笑顔で言った。
「日葵がずっと俺のアクセのことで悩んでくれてるのはわかってるし。俺のアクセ売るために試すって言ってんなら、俺だって全力で協力しなきゃな」
「…………」
アタシは無言で見つめる。
悠宇が訝しげにすると、くわっと叫んだ。
「おまえ、いいやつか?」
「むしろ日葵は俺のこと、何だと思ってたわけ……?」
悠宇のツッコみに、アタシは「アハハー」と誤魔化しの笑いを向ける。
ときどき悠宇がやらかすこのストレートな褒め殺し。
……ちょっと照れくさいとは言えないなー。
「そ、そういえばさー。悠宇に聞きたいことあったんだよなー」
「え? どしたん?」
なんか話のネタないかなーっと思っていると、ふと思い出したことがあった。
いつもみたいに悠宇の後ろに抱き着いてアクセ作りを見ながら、昨日えのっちフレンズが言ってたことを思いだした。
……昨日、えのっちが科学室にきてたんだっけ?
「悠宇さ。榎本って女の子、知ってる?」
「…………」
悠宇は無言で考えていた。
アタシがドキドキしながら……いや、なんでアタシ、緊張してんだろ。
そんなことを思っていると、悠宇は眉根を寄せて答える。
「さあ? 誰?」
「あ、そう……」
なんか妙に脱力した。
……というか、安心した?
そのよくわかんない気持ちの正体はわかんなかったけど、とにかくアタシは悠宇の頭をペシペシ叩いた。
「な、何だし……?」
「いやー、べっつにー?」
まあ、そうだよなー。
悠宇に春きちゃったかなーって思ったけど、そんなわけないか。
てか、あんな可愛いえのっちに釣り合わないし?
そんなことを思っていると、ふと悠宇が時計を見て言った。
「あ、日葵。次、体育だっけ?」
「そだよー。男女別れての合同体育」
「うわ、着替え持ってきてねえ!」
「ぷはは。悠宇は詰めが甘いなー。アタシはばっちりだもんね!」
科学室で悠宇と別れた。
アタシは体操服に着替えるために、体育館の女子更衣室に向かう。
「失礼しまーす」
まだけっこう時間あったし、人はいない……あっ。
一人だけいた。
向こうも、アタシを見てちょっと固まる。
そういえば今日は体育の先生の都合で、珍しくFクラスと合同体育なのだ。
「えのっち。早いねー?」
「…………」
ツーン、である。
あ、さては昨日の絶交、ほんとにやってんな?
「えのっち。お肉食べたじゃーん」
「…………」
顔を見ようと回り込んでも、ぷいっぷいっと顔を逸らされる。
ははーん。
さては昨日のアドバイス料で相殺とか思ってんな?
……まあ、新しいアイデアもらったのはほんとだし。
えのっちのご機嫌が直るまで、しばらく大人しくしてよーっと。
アタシもロッカーを開けて、脱いだ制服を収める。
ふと視線を感じて振り返ると、えのっちが慌てて背を向けた。
(……えのっち。ほんとに悪いことできないタイプだよなー)
アタシは心の中で「ぷぷぷっ」と笑いながら、着替えを続行……。
続行……。
ぞ……。
続行したいんだけど、視線が動かなかった。
えのっちが着替えている。
なぜかインナーだけじゃなくてブラまで外しているのだ。
(え、体育で汗かく前に? もしかして露出性癖? ここで? アタシいるんだけど?)
まさか、アタシになら見られてもいいってこと?
ほんとにアタシにそんな気持ちを?
え、やだ。いや、ヤダってわけじゃなくて、心の準備が……というか、シチュエーションが悪い。
アタシって別に他人に見られたい願望とかないし。
するなら普通に二人っきりのときが……じゃなくて!
アタシが失礼なこと考えていると、えのっちが別のブラを取り出した。
(あ、スポブラに代えてるのか……)
なるほど。だから他の人より先にきてこそこそ着替えてるってわけね。
いやー、胸が大きいのもほんとに大変だなー。
これからはアタシも心を入れ替えて、そういうデリケートな部分には触れないようにしたほうが……。
したほうが……。
したほ……。
心と裏腹に、アタシの視線は釘付けだった。
えのっちが微妙に身体を傾けたせいで、ソレがこっちに見えているのだ。
着替えの動きに合わせて、たゆんたゆんと弾む『至福の秘宝』が……。
(……他に誰もいないしな?)
気が付けば、アタシの心には闇の人格が生まれていた。
そして、その支配から逃れることなどできようか。いや、できまい!(反語)
両手をわきわき動かしながら、えのっちの背後に近づく。
アタシは目をキラーンッと輝かせて、最後の言い訳で自制の鎖を断ち切った!
(ま、昨日アタシがおごったお肉も栄養になってんだし、アタシも権利あるよな!)
アタシが背後から飛びついたのと。
更衣室が開いてクラスの女の子が入ってきたのは同時だった。
……それから女子の間では『ヒマ×リン』の噂がまことしやかに囁かれるようになり、えのっちは完全にアタシを無視するようになったのでした☆