短編④ 仁義なき男トモ女トモ戦争 部活勧誘編 ③
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そして入学して一週間後の、放課後。
オレは背中にラケットを担ぎ、イライラしながら廊下を部活棟へと歩いていた。
「あ、真木島くーん!」
隣のクラスの女子が声をかけてきた。
オレは苛立ちを悟られないように、極めて人好きのする笑顔で応じる。
「やあ。どうしたのだ?」
「これからカラオケ行くんだけどー」
「ああ、それはすまない。今日からテニス部の練習に参加する予定なのだよ」
「えぇーっ! 意外に真面目じゃーん」
「ナハハ。スポーツ好きな男のほうが格好よく見えるものであろう?」
「何それーっ!」
下品に笑う女子と別れて、オレはイライラ度2倍で歩いていく。
普段ならあのテンションも嫌いではないが、この状態では癇に障る。
今日からテニス部の仮入部期間だ。
当初の予定では、夏目と一緒に行くつもりだったのに……。
(このままでは、あの夏目を篭絡して完璧超人に目にもの見せる計画が……っ!)
ここまでうまくいかないとは。
完全に甘く見ていた。
咲良さんは高校の頃、嫌でもメンバーの中心にいるような人だった。
てっきり夏目もそうかと思っていたが、これが真逆の性質だったのか。
となると……夏目という人間を、もう一度精査する必要がある。
とか考えていると、他のクラスの男子が手を振っていた。
中学は違うが、テニス部のつながりで顔見知りだった男だ。
そいつも背中にラケットを担いでいた。
「よ、真木島。おまえも今日から参加か?」
「ああ。まったく、今日は機嫌が悪いから発散しなければな」
「わはは。女にでもフラれたかあ?」
「それなら、こんなにイラついておらん。ダメなら他の女に声を掛ければいいだけだ」
「相変わらず女子慣れしすぎてて嫉妬もできんわ……」
そんな話をしながら、渡り廊下を歩いていく。
……と、向こうに見覚えのある人影を見つけた。
(あれは、夏目か?)
HRが終わったらすぐに教室を出て行ったし、てっきり帰ったものだと思っていた。
駐輪場の裏の花壇のような場所で、屈んで何かしている。
隣を行く男子に断りを入れた。
「オレは後で行く。もし練習に間に合わなかったら、明日から参加すると先輩たちに伝えておいてくれたまえ」
「マジかよ⁉ おれの心細さが半端ねえ!」
「ナハハ。貴様がそんな軟弱な男かよ。ではな?」
「うーっす。それじゃあな」
下足場でそいつと別れて、オレは夏目のもとへ向かった。
駐輪場の裏か。
オレも自転車通学だが、こんな場所があるのは気づかなかった。
けっこう広々としているし、意外にいい隠れスポットだな。
いつも邪魔する日葵ちゃんもいないし、ナイスタイミングだ。
「やあ。夏目くん?」
「……っ⁉」
予想通り、夏目はビクッと反応した。
屈んで土いじりをしていたのに、慌てて立ち上がって……その拍子に尻もちをつく。
(……薄々感じていたが、こいつ運動センスないかもしれんなァ)
うまいこと誑し込んだら、テニス部に入れようと思っていたのに。
全国制覇の野望が遠退くのを感じながら、オレは首を振った。
切り替えだ、切り替え。
第一の目的を忘れるな。
まずは、この男と『親友』になる。
こいつは雲雀さんのお気に入りらしいからな。
オレが健全な友人関係というやつを教えてやれば、あの変態から離れていくのは必定。
そしてオレは、あの完璧超人の悔しがる顔を見物するのだ。ナハハハ!
ということで、まずは夏目の腕を掴んで引き起こした。
「夏目くん。何を驚いておるのだ?」
「い、いや。……真木島くんはどうしてここに?」
「テニス部の練習に向かう途中で、夏目くんの姿が見えてな。何かしておるようだったから、気になって見にきたのだが……」
花壇は放置され、荒れ果てていた。
夏目はその雑草を抜いているようだった。
「ほう。この花壇に何か植えるのか?」
「えっ⁉ ど、どど、どうしてそう思うの⁉」
「いや、花壇の手入れをするのに、それ以外が考えられるのか……?」
やけに慌てた感じで変なことを言う。
まるで、花壇に何か植えることを知られたくないかのようだ。
(まさか大麻でも植えるつもりではあるまいな……?)
オレがアホなことを考えていると、夏目が躊躇いがちに聞いてきた。
「ま、真木島くんは、どうして俺なんかに構ってくれるの?」
「…………」