短編④ 仁義なき男トモ女トモ戦争 合コン編 ②
(真木島くんにアクセのこと言ったら……いや、無理だ。まだ俺に、そんな勇気はない)
その真木島くんは、後ろの席で他のクラスの友だちと談笑していた。
どうやら同じテニス部の面々のようだ。
その会話が、何気なしに耳に入ってくる。
「真木島。一人これなくなった」
「ほう。それは参ったな」
「どうする? このまま行くか?」
「それもいいが、男のほうが少なくてはイマイチ格好がつかん。まあ、中止でもいいのではないか?」
「おいコラ。こちとら部活休みのチャンスを活かさないわけにはいかないんだよ!」
「ナハハ。オレは女には困っておらんのでなァ?」
……たぶん放課後、女子グループと遊びに行こうって趣旨の話だろう。
いかにもリア充側の会話って感じがする。
こんな田舎でも、活発にこの手の遊びに興じる人たちは存在するのだ。
俺には縁がないなあと思っていると、ふと真木島くんが「お、そうだ」と立ち上がる。
そして何をとち狂ったか、俺の肩を叩いた。
「夏目くん。この後、どうせ用事ないのであろう?」
「いや、決めつけないで⁉」
ついツッコんじゃって、しまったと口をつぐむ。
真木島くんはニマァッと目を細めた。
「ナハハ。やっぱり聞いておったな?」
「うっ……」
いや、自然と聞こえたんだからしょうがないでしょ。
まるで俺が興味津々で出歯亀してたように言うのやめてほしい。
真木島くんは扇子で俺の頬をぺしぺし叩きながら、席を立つように促してくる。
「さ、行くぞ?」
「でも俺みたいな知らないやつがいたらサガっちゃうし……」
「ほう? 行きたくないわけではないのだな?」
「あ、いや、言葉のあやっていうか……」
そりゃカノジョみたいなのには憧れますけど!?
男の子なんだから、しょうがないだろ!!
てか、絶対にわかって言ってる顔だ。
さすが日葵と意気投合してるだけあって、真木島くんも人の揚げ足取り大好きだよな。
「それに俺は日葵を待ってるから……」
「ハァ。またそれか。日葵ちゃん大好きなのもいいが、少しは他の女子に目を向けたほうがよいのではないか?」
「いや、別に俺は……」
「しかし、この前、日葵ちゃんは二年の男と付き合っていたであろう? まあ、一週間で男がフラれておったが。その間、夏目くんはずいぶん寂しそうにしておったではないか?」
「うぐっ」
痛いところを突かれて、押し黙る。
確かに日葵が男と付き合っている間は、俺はアクセに集中していればいい。
でも話し相手がずっといないっていうのも、色々と手持ち無沙汰になっちゃうのは事実だ。
「夏目くんなら、ビジュアル的には問題ない。いや、むしろ歓迎する。こっちのメンバーも基本的にガッついておるが、根はいいやつらばかりだ。うちのテニス部に入ったときのためにも、少しは親交を深めておくのもいいと思うが?」
「そのテニス部に入る前提なのが怖すぎるんですけど……」
テニス部の男子たちが「ガッついて悪いか!?」
「夏目くん、行こうぜー」とめっちゃ前向きに誘ってくれる。確かにいい人たちっぽい……。
「でも女子と話すの怖いし……」
「何を今さら。日葵ちゃんと仲いいではないか」
「日葵は感性が特殊だし……」
「大して変わるものか。不安ならオレの隣に座って、適当に相槌を打っていればよい。何かしゃべりたいときだけ、オレの膝でも叩けばフォローしてやる」
めっちゃぐいぐいくる。
心なしか、後ろのテニス部の面々も
「ほら行くぞ!」
「はよ行くぞ!」と圧をかけてきているような気が……あ、これ気のせいじゃないっすね。
「でも勝手に行くと日葵が……」
最後の言い訳を口にした瞬間だった。
俺のスマホが、ポンッと鳴る。
日葵からのメッセージだった。
『悠宇、ゴメン! アタシ用事できちゃったから、今日は先に帰ってて!』
それを覗き込んで、真木島くんがにやーっと笑って肩を叩いた。
扇子の先を俺の椅子に向けて、ピッと鋭く上方に跳ね上げる。
つまり
「さっさと立ちたまえ?」ということらしい。
「夏目くん。楽しい思い出になるとよいな?」
「……空気シラケさせちゃっても文句言わないでよ」
真木島くんが「そんな度量の小さい男ではない」と笑いながら、俺を引き連れて教室を出て行った。
♣♣♣
俺たち男子5人は、カラオケにきた。
うちの学校の生徒もよく利用するという国道沿いにあるスポットだ。
俺も日葵と一緒に、何度かきたことがあった。
遊ぶ予定の女子たちは、先にカラオケに入っているらしい。
初めての日葵がいない遊び場……。
ここにくるまでに緊張はMAXに到達し、さっきから心臓のバクバク音がやばい。
てか、なんか脚がふらつくし……。
「おっと。夏目くん、ビビリすぎではないか?」
「あ、ごめん……」
真木島くんが支えてくれた。
うーん。日葵に連れ回されて少しは耐性できたつもりだったんだけど、かなり恥ずかしい。
「そもそも、女子たちはどこの人?」
「ああ、そんなに緊張することはない。うちの学校の運動部の連中だ。カレピほしーと騒いでいたから声をかけたのだが、あっさり引っかかってなァ」
バチバチの身内コンパだった。
何かやらかした場合、明日も顔を合わせる可能性がある相手。
むしろ、他の学校の人たちより難易度が高い気がする……。
「やっぱ帰る……」
「おーい、おーい。今の情報で、なしてそうなる?」
回れ右したところで、他の男子たちにも回り込まれた。
「へっへっへ。夏目くん、逃がさないぜぇ……」
「おれたちのバラ色のGWが懸かってんだからよぅ……」
ひえっ。
真木島くんの友だちの目が血走っている!
「ナハハ。こっちから頼んだ数合わせなのだから、どーんと構えておればいいのだよ」
「でも下手なことやらかして、明日から学校で変な目で見られたら……」
「どこまでマイナス思考なのだ。そんなんで、よく日葵ちゃんの親友をやれておるな……」
ド正論だったわ。
いや、でも日葵はアレで空気読んでくれるし、一緒にいるの緊張しないんだよ……。
真木島くんはため息をつくと、ビシッと扇子を鼻先に向けてくる。
「よし、それなら夏目くんの料金はオレが肩代わりしてやろう。2、3時間ほど、黙ってタダ飯を食っていればよい。それでどうだ?」
「そ、それでいいって言うなら、まあ……」
少なくとも、喋る必要はないならイケそうだけど。
それにカラオケの食事って、なんか特別感あっていいよな。
「でも、なんで真木島くんは、そんなに俺によくしてくれるの?」
「…………」
一瞬、真木島くんの目が泳いだ。
しかし次の瞬間には人好きのする笑顔を浮かべて、俺の肩を叩くのだった。
「ナハハ。そんなもの、夏目くんが魅力的だからに決まっておるだろう? せっかく同じクラスになれたのだから、一生ものの友情を育もうではないか」
「…………」
嘘くせぇー……。
なーんか、嘘くさいんだよな。
いや、真木島くんがいい人だってのはわかるんだ。
だけど、たまーに漂う、このエセ雲雀さんって感じの爽やかさが逆に怪しい。
(……まあ、何でもいいけど)
それでも何か悪いことしてやろうって感じではなさそうだし、今日はせっかく誘ってくれたんだ。
カノジョは別にいらないけど、初めての男友だちとの遊び。
せめて邪魔にならないように、一人で飯でも食ってよう。
女子たちが待っているパーティルーム(広めの部屋って意味だ)に到着すると、真木島くんがドアを開けた。
「やあやあ。待たせたな?」
「はーい。先に始めちゃってるよー」