短編④ 仁義なき男トモ女トモ戦争 合コン編 ④
俺がわくわくしながら追撃しようとしていると、反対側の真木島くんが肩を叩いた。
「夏目くん。そんなにいじめてやるな」
真木島くんがニヤニヤ笑っていた。
「中学の頃に、ちょーっと付き合ってたことがあるだけだ」
ああ、なるほど。
学校が違う人と付き合ってるなんて、けっこう耳にするもんな。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことお⁉ 悠宇、ひどくない⁉」
「日葵が暇つぶし感覚で男と付き合うの、いつものことじゃん……」
そんなの言われても今さらすぎるって。
日葵が「ぐぬぬぬ……」と歯痒そうにしているのをしり目に、真木島くんが何か思いついた。
「日葵ちゃん。勝負といかないか?」
「は? 勝負?」
「そうだ。オレが負ければ、今後、夏目くんをテニス部には勧誘しない。オレが勝てば、夏目くんが熱を入れていることを教えてもらう。どうだ?」
日葵がフッと微笑んだ。
「乗ったあ!」
乗んなし。
当人の意向を無視して、何を始めてるんですかねえ。
「いや、俺は嫌なんだけど……」
「んふふー。悠宇、そんなこと言っていいのかなー?」
「え……」
日葵がにこーっと微笑んだ。
耳元で、そっと囁く。
「ここにきてる時点で『陰キャ気取ってるけど、ほんとはカノジョほしい!』っていう本心ダダ洩れなんだよなー? これ、うちのお兄ちゃんに報告したらどうなるかなー?」
「わかった! やるから! だから、やめてマジで!!」
そんなことしたら、次の日には六法全書並みの分厚いお見合い情報が届けられてしまう。
こいつ絶対、さっきの「そんなことか」ってリアクション根に持ってるだろ……。
俺の人権を無視して、頭のいい連中で話が進んでいく。
「ルールは簡単だ。このコンパに参加している女子の中で、夏目くんに相性のいい子を指定したほうの勝ち。勝敗の結果は……ラインを交換できたほうでどうだ。夏目くんのことを理解しているというなら、造作もないことであろう?」
「よーし! ラインの交換なんてケチなこと言わないで、ここで悠宇のカノジョ作っちゃうから覚悟しとけよコラァーっ!」
シンキングタイムに入る二人を眺めながら、俺は諦め気分で揚げタコ焼きを注文した。
……こいつら、絶対に仲いいと思うの俺だけ?
♣♣♣
先攻、日葵。
俺は日葵が指定した女子のほうに、こっそり移動する。
行きたくない……。
知らない女子怖い……。
俺は飯だけ食ってればいいって言ってたのに……。
しかも、金髪のギャルっぽい子だし……。
真木島くんに恨みの視線を向けると、へらへら笑いながら手を振った。
すごく緊張しながら、その子の隣を指さした。
「こ、ここ。いい、ですか……?」
「あっ。いいよ、いいよー。てか、クラスメイトなんだからタメでよくない?」
「え?」
俺が素で驚くと、その子は屈託なく笑った。
「アハハハ! 覚えてないかよーっ!」
「ご、ごめん。人の顔、覚えるの苦手で……」
「まあ、喋ったことないもんねー。これ、何気に初絡みだよねー?」
「あ、そ、そう、だと思う……」
この金髪ミドルの髪型……あ、うちのクラス?
そういえば、なんとなく見たことあるような気がする……。
「うち、マオねー。よろしくー」
「ま、マオさん。よろしくお願いします……」
マオさんはコーラをストローで飲みながら、俺に話しかける。
「てか、夏目くん意外だねー」
「な、何が?」
「こういうとこ、くるんだなーって」
「そ、そうかな……」
そうだよな……。
場違い感が半端ないのはわかってる。
俺が自分で驚いてるくらいだ。
マオさんは気にせず、話を続けた。
「そういえば夏目くん、日葵さんと付き合ってんじゃないの?」
「いや、それはないけど……」
「あ、そうなん? あー、よかった。いやー、今日、うちの部活の先輩がくる予定だったんだけど、これなくなっちゃってさー。日葵さんに代打お願いしたんだけど、まさか夏目くんいるとは思わないじゃん? あっちゃーって思ってたんだけど、けっこう普通に話してるから大丈夫だったんかなーって。さすがに寝覚め悪いからさー。あ、夏目くんが女の子と仲良くしたい系ならヤバみ? でも日葵さん、この前、先輩と付き合ってたみたいだし関係ないかな? まー、別にこういう遊びくらい普通だって――」
ちょ、ちょ、ちょ!
この子、めっちゃ喋るね⁉
カラオケの音量も凄いし、気を抜いたら完全に聞き逃しちゃうんだけど!
「あ、夏目くん。せっかくだし一緒に歌おー」
「マジで?」
「マジマジ~。ほら、マイク持って」
「あ、どうも……」
マオさん、マジで会話がコロコロ変わるね……。
この歌は……今、めちゃ流行ってるやつだ。
たぶん、高校生なら誰でも知ってるはず。
曲のチョイスが気遣いを感じさせる。
一緒にマイクを持って、一曲歌ってみた。
ちゃんと歌わなきゃってテンパってたせいで、正直なところ女子と歌う楽しさとか全然感じなかったけど……。
「アハハ。夏目くん、実は歌うまくねー?」
「そ、そうかな……」
「うんうん! あ、そーだ。うちらよく歌ってるし、次もこよー」
……マオさん、すごく話しやすいなあ。
ギャルっぽいから苦手だと思ったけど、話してみると気負わなくていい。
……というか、マオさんがずっと喋ってるのを聞いてるだけだから、すげえ気楽なんだよな。
なるほど。日葵がマオさんを指定した理由はわかった。
これならラインも……。
「えっと。マオさん、よかったらラインを交換……」
「あ、ごめーん。それは無理」
グッサア……ッ!
気を許しかけていたところに、えっぐいカウンターが突き刺さる!
え? 今のダメ?
別に付き合いたいとは言わないけど、連絡先の交換もダメっすか?
今、けっこう普通に話せてたよな?
女子怖い女子怖い……としくしく泣いていると、マオさんが笑った。
「アハハ。ごめん、ごめん。別に夏目くんが悪いってわけじゃなくてさー」
「え? じゃあ、なんで?」
もしかして、実はお家が厳しいとか?
異性の連絡先とか聞いた日には、きっついお説教が待ってたり?
……ハッ。つまり、このコンパにきたのも、そんな抑圧されたストレスの発散を⁉
「夏目くーん? たぶん考えてること違くねー?」
「あ、違うの?」
てか、当然のようにこっちの思考読んでくるの凄すぎでは?
マオさんは「たはーっ」と悪びれない無邪気な笑顔で、スマホを見せてきた。
そこには……真木島とのラインのトーク?
しかも、ほんの数分前?
『夏目くんとのライン交換を断れば、おまえが格好いいと言っていた野球部の先輩を紹介してやろう』
コラーっ!
真木島くん、なんという妨害を⁉
そんでマオさんの手のひら返しが華麗すぎる!
「ということで、ごめんね!」
「う、うん。いいよ。全然、大丈夫……」
日葵からの
「ゆっう~? 何を諦めてるのかな~?」という視線がチクチク刺さるけど、もうこれ以上は無理だ……。
日葵サイド。
ライン交換……失敗!
♣♣♣
後攻、真木島くん。
指定したのは、大人ポニテの黒髪の女子だ。
さっきのマオさんよりも大人しめだけど、目つきとかはちょっときつそう。
同じ轍は踏まぬ……と、先によくよく思い返せば、この子もクラスメイトだ。
マオさんと、よく一緒に行動していたはず。
「真木島くん。あの子の名前は……?」
「アズミだ。苗字は忘れた」
「なんであの子が、俺と相性いいの?」
「マオと同じように、異性と知り合うことに対してアクティブだ。進んで会話するタイプで、性格も悪くない。ここまでは条件が同じだが……」
だが?
俺がドリンクバーから取ってきたカルピスに口を付けた瞬間、真木島がこともなげに言い放った。