短編④ 仁義なき男トモ女トモ戦争 体育バスケ編 ②
「ぷははは。真木島くんの思い通りにさせるかってのー。この機会に、悠宇のこと諦めさせてやるからさー」
「チッ。よくもまあ、オレたちが話している隙に揃えたものだな……」
「アタシのおねだりにかかれば、このくらい余裕ってもんよ」
おねだりというか詐欺であろう。
ここの連中、日葵ちゃんの本性を知れば腰抜かすぞ。
(まあ、いい。こっちのチームも、決して運動能力が低いわけではない。向こうには日葵ちゃんというお荷物がいるのだし、勝てばいいのだ)
ピーッと試合開始のホイッスルが鳴った。
向こうのチームから放られたボールが、綺麗にオレの手に渡った。
なんだ、パスミスか?
そのボールをどうするか迷った瞬間――ガタイのいいのが、思いっきりタックルで突撃してきた!
「真木島、死ねええええええっ!」
ちょい待て。
貴様、明らかに殺りにきておるであろう。
「うわっと!? 危ないであろうが!」
慌てて避けて、味方にボールを回した。
向こうで日葵ちゃんがチッと舌打ちする。
「日葵ちゃん! 初っ端からラフプレーを指示するんじゃない!」
「えー? 何のことかなー? 真木島くん、言いがかりヒドーい!」
可愛い子ぶった日葵ちゃんに同調し、観客の女子たちが「そうだそうだ!」
「真木島死ね!」と野次を飛ばしてくる。
くそ、厄介な……。
うちのチームがボールを回しながら駆け上がるが……ゴール下でボールが奪われた!
(やはり、あの野球部のホープが邪魔だ……)
オレは味方の4人に指示を飛ばした。
「やつらの狙いはオレだ! オレがボールを奪って回すから、貴様らはバラけてひたすらゴールを狙え!」
予想通り、まずはオレにボールを寄越す。
そしてタックルを仕掛けてくるのを避けて、味方にボールを回していく。
……今度はうまいこと味方のシュートが決まった!
「よーし! その調子だ!」
ゴールが決まって、こっちのチームの士気が上がる。
このまま勢いで押し切……ああっ⁉
オレにくるかと思っていたボールが、ぽーんと頭上を通り過ぎていった。
(そっちは誰もいないはず……あっ!)
こちらのゴール下でしれっとスタンバイしていたナツが、隙のない動作でボールを受け取る。
そして背の高さを活かし、危なげなくゴールにくぐらせた。
「ナツ! 卑怯だぞ!」
「ええ……。これ、バスケだよね?」
向こうの日葵ちゃんが、どや顔で観客に手を振っている。
貴様の手柄ではなかろうに!
(相手のフォーメーション……やはり厄介だ!)
日葵ちゃんチームの作戦はこうだ。
ゴール下の守備に、日葵ちゃん+運動部2人=3人。
中央でオレを狙う運動部が1人。
こっちのゴール下の攻撃要員にナツ1人。
このフォーメーションを崩さずに、2パターンの攻撃方法を展開する。
①パスミスを装い、オレにボールを渡す。そしてラフプレーでオレを殺す。
②ラフプレー狙いと見せかけて、ロングパスからナツがシュートへ。
①に対応して数の理を活かして全員速攻を仕掛ければ、②でがら空きのゴールを取られる。
②を警戒して守備に人員を割けば、①に切り替えて悠々とオレを殺しにかかる
(おそらくこっちが本命)
。
(なんと性格の悪いプレーだ! 本当にあの完璧超人の妹か……⁉)
雲雀さんはいけ好かないが、基本は正々堂々だ。
まったく。どう教育を受ければ、こんな妹ができるのか。
「真木島! どうする⁉」
「あっち目が怖ぇよ!」
仲間たちが動揺している。
確かに、向こうの統率は異常だ。
いったい、どんな餌をぶら下げられておるのか……いや、想像はつくが。
しかし、これはよくないな。
ただでさえ能力差があるのに、士気まで挫かれては終わりだ。
「……仕方ない。本気でやるか」
オレはメンバーを一人、こっちのゴール下の守備に回した。
予想通り、向こうは攻撃②に移る。
オレを殺すべく、パスミスを装ってボールを寄越してきた。
(こんな素直なパスでは、体勢が整ってしまうぞ。やはり高校生だな)
ラフプレーを装って、ガタイのいいのがオレにタックルする。
行動がわかっていれば、動きの予測は容易い。
オレは華麗に反転し、そいつを後ろにいなした。
勢いをつけすぎた男子は、観客の女子たちのほうに突っ込んで転倒する。
(まず一人……)
右翼からドリブルで敵陣地に斬り込む。
残りは運動部2人と日葵ちゃんのみ。
警戒すべきは前者。
その一人が、すかざすオレの前を塞ぐ。
(このカバー能力……こいつ、いいプレイヤーになりそうだ。後で声をかけるか)
だが、いかんせん体勢が甘い。
こっちの奇襲に、身体が対応できておらん。
前のめりになって上半身が浮きすぎだ。
がら空きの股下へ、華麗にボールをくぐらせた。
「なんだありゃ⁉」
「真木島、バスケ部じゃねえよな⁉」
観客どもの困惑の声。
そして歓声。
ついでに女子どもの罵倒。
すべてが耳に心地いい。
馬鹿め、オレはあの完璧超人を超える男だぞ。
この程度のボールコントロール、必修に決まっておるだろう。
「させるかよッ!」
野球部のホープくんか。
コートの左翼側にいたはずだが、今の一瞬で距離を詰めてきた。
さすが県外勢は頭一つ抜きんでている。
オレの眼前に立ちはだかり、両腕を大きく上げてゴールをガードした。
その様相、気迫……まるで仁王像のようだ。
「ナハハ。たかが体育バスケでムキになりおって。推薦組の意地というやつか?」
「そうだ! おれは勝つためにきた! たとえ体育スポーツだろうと、おれに負けは許されない‼」
「暑苦しいやつめ。……嫌いではないがな」
最終防衛ライン。
後ろに1人いる以上、ここで時間をかけておれん。
オレと野球部ホープが対峙したのは、一瞬であった。
この状況、小細工は間に合わん。
体格差はあるが、正面突破が正解。
オレはドリブルの速度を緩めず、ボールを両手で掴み腹部に構える。
ゴール下に走り込みながらのレイアップシュート。
中学の体育バスケで練習するアレだ。
呼吸を乱さず、基本に忠実に。
2ステップめで、ゴールに向かって大きく跳躍した!
「真木島! 性格に似合わず、素直なシュートだな!」
「門外漢が奇策を用いてもロクなことにならんのでなァ!」
野球部ホープもゴール下で跳躍。
背の高さを活かして、覆いかぶさるように両腕を伸ばした。
絶妙にゴールを塞ぐ最高のディフェンスだ。
オレは腹に抱えたボールを、ふわりとスローイングした。
そしてボールは……宙で消えた。
オレのシュートを防ごうとした野球部ホープが、困惑の表情で周囲を見回す。
まるでボールが、手品のように消えて見えているはずだ。
しかし、そんなことはあり得ない。
オレの目には、確かにボールが見えている。
ただし、それは野球部ホープの背後。
野球部ホープが右翼のカバーに入り、がら空きになった左翼側。
そこに走り込んでいた、オレの味方の手にあったのだ。
つまりシュートに見せかけたアシストパスだ。
それに気づいた瞬間、野球部ホープの表情が苦悶に歪む。
「真木島⁉ 奇策は使わないんじゃなかったのかよ……っ!」
それにオレは、最高にあくどい笑みを返した。
「推薦組のエリートくんに、一つだけ教えてやろう。――オレはダブルスのほうが得意なのだよ」
オレと野球部ホープが空中で衝突する。
その隙に、仲間がゴールを決めた。
観客たちの歓声を背に、よっこらせと立ち上がった。
一緒に尻もちをついた野球部ホープに手を伸ばす。
「確かに貴様の運動センスは高い。だが、もうちょい柔軟な思考を取り入れんと、オレのようなやつに寝首をかかれるぞ」
「…………」