第一章 ③

「色々っていうと?」

「色々は色々だけど……おもどうはいしん?」

「動画配信? イラストレーターなのに?」


 なんの動画を配信してるってんだ?


「うんとね……絵をいているところを、なまほうそうしてみたり、こうしききよだくた上でゲームのプレイじつきようを生放送してみたり……そういう活動をしているみたいだよ」

「ほぉ~。まぁ、じつさい見てみないことには、よくわからんな」

「あ、ほら、ムネくん、最新のを見てよ。エロマンガ先生、今日これから生放送をやるってさ。ちょうどいいし、一回、てみたら?」


 というわけで、おれは、『たかさご書店』で、ライトノベルのしんかんなんさつこうにゆうしてたくした。ネットショップばかりにたよらず、なるべく近所のじつてんで本を買うというのが俺のしゆで、このあたり色々言いたいことはあるのだが、いまはそれどころじゃあないな。

 俺はげんかんとびらいきおいよく開ける。


「ただいまー」


 いつもどおり返事はない。けれど、かまわず階段の上に向かって声をかける。


ぎり~、メシ食い終わったら、の前に出しておけよー」


 一階の自室に戻った俺は、あらためてノートパソコンを開く。


「動画サイトで生放送……ねぇ」


 智恵と色々話したこともあって、ずっといつしよに仕事をしてきた『エロマンガ先生』に、改めてきよういていた。三年前は、調べられずに、あっさりとあきらめてしまったが……。

 どんな顔をしていて、どんな声をしていて、どんな考え方をする人なんだろう。

 俺や、俺の作品のことを、どう思ってくれているのだろう。

 かち、かち、と、例のブログをえつらんする。

 けっこう長くやっているのか、記事がメチャクチャ多い。

 あと、俺のサインの字がきたなけんについての記事が、すげーコメント伸びててはらつ。


「……ぐぬぬ」


 俺はそれ以上の閲覧をやめて、動画サイトへのリンクをクリックした。

 ちょうど動画の配信が始まるらしい。

 サイトは、動画が映るめんとコメントらんがある、ベーシックな形式だ。

 ──この画面に、エロマンガ先生が映るってことだよな。

 いま俺が見ている画面には、青いはいけいあかで『イラストを描きながらみんなとトーク⑯』という文字が書かれている。

たいちゆう』『わくわく』といったコメントが、右から左へと流れていった。


「始まったか。……さて……どんな人なんだ?」


 おれめんをじっと見つめる。

 するとノートパソコンから、へんせいを通したような低い声が聞こえてきた。


「えー、みなさんこんばんはっ。今日はり作業がてら、みんなとおしやべりしていこうと思います。よろしくー」

『エロマンガ先生!』『エロ!』『よろー』『エロマンガ先生~!』

「そ、そんな名前の人はしらない!」

『また始まったw』『自分でペンネームつけたくせになんでずかしがってんの?』『エロいイラストばっかいてるからエロマンガってペンネームなんでしょ?』

「だからちがうっつってんだろ! いっつもいっつもエロエロエロエロ言いやがってー!」

『はいはいw』『今日もかわいいエロ絵お願いします!』


 などなど──どうやら彼のファンがちようしているらしい。

 おおお……ファンと直接交流している……これはうらやましい。

 俺もやってみたい──と思ったが、しようせつ書くとこはいしんしてもな。

 つまらんこと受け合いである。


「いっとくけど、今日はあんまエロいやつじゃないから」


 かちっ。画面でイラストせいさくようのソフトウェアが立ち上がった。女の子のイラストと、ペンがたのカーソルだけがうつっている。

 これじゃあ、エロマンガ先生がどんな顔をしているのか、わからないな。


「今日、みんなといつしよに描いていく女の子は、和泉いずみマサムネ先生の『てんせいぎんろう』に登場するヒロインの一人、べにうさぎちゃん! オレのお気に入りキャラ! 和泉先生に三巻で殺されたけどね!」


 あっ、ごめん。

 つい、心の中であやまってしまった。あちゃー、エロマンガ先生、あのがお気に入りだったのかー……そういえば紅兎のキャラデザってあい入ってたもんな。

 もしかしてそれでおこってんのかな?


「まったく、和泉先生は本当にひどいヤツだよ。こんなに可愛かわいい娘をようしやなく殺しちゃってさあ。オレにとってはむすめみたいなものだったのに」


 俺へのうらぶしきながら、さらさらとように色を塗っていく。

 いや! それは! しょうがないじゃん! バトルものなんだから!

 その恨みは、紅兎ちゃんをブッ殺したきん(三巻のボスキャラ)に言えよ。


「♪」


 エロマンガ先生は、はなうたまじりに、紅兎に色を塗っていく。

 ……ふーん、イラストってこんなふうえがいているのか。

 そうぞうしていたのと、だいぶ違うな。

 カーソルの動きがはやすぎて、見ててもよくわからないのだが、ペンだけでなくマウスも使って、まるでほうのようにどんどん色がられていく。

 どんなぎようしゆにもいえることだが、プロのごとってのは、ほんと、じなにしか見えないな。

 しばらくいろどうながめていると、『和泉いずみマサムネのサイン会』の話題になった。


「あっ、コメントどもー。『ぎんろうかんけつねんのサイン会、行かなくてごめんな。オレ、顔出しはNGだからさ。たんとうさんにたのんで、和泉先生だけに行ってもらったの」

『実はオッサンなんでしょ?』『和泉先生はうわさどおりの美少女小学生なの?』

「うっせーな。和泉先生とは会ったことないから知らん」


 オッサンなんでしょというコメントに、ていせずしようするあたり、やはりオッサンなんだろうか。オッサンの手から、あの可愛かわいいイラストが生まれていることについて、ふくざつな気持ちになる人がいるかもしれないが、おれとしては感動しかない。すごいことだもの。

 それにしても、俺がネットでは美少女だと思われてるってマジかよ。

 思いっきり男の名前なのに……。よくわからんげんしようだな。


「そういえば会場にかざる用のサインしきに、和泉先生のサインがあったんだけど、あまりにもヘタクソぎてついブログにアップしちゃったよ」

『アレはワロタww』『らくがきだったwww』


 やかましいわ! 事実でも言っていいことと悪いことがあんだろ!

 くそ! 直接会ったら、あやまる前に、ぜつたいもん言ってやる!


「ってわけで、かんせいー♪」

『えろーい』『うおおおおおおおおおお』『おつー』

『おつかれー』『今日も楽しかったです』『めちゃくちゃかわええー』


 などなど感想コメントが流れていく。じつさい、見事なイラストが仕上がっていた。


『先生のイラスト、今回もかべがみにしてはいしてもいいですか?』

「はいよー、みんなおつかれー。見てくれてサンキュー」


 イラストが完成したのに、動画はいしんは終わらない。どうやらトークタイムに入ったようだ。


「やー、今日はたくさんしやべったから、ちょっとつかれたーっ」


 ふぃーといきくエロマンガ先生。


「次の配信では、どのキャラをこっかな」

きんちゃんがいいです!』『エロければなんでもおk』『いまやってるアニメのキャラでもいいの?』──などなどいつせいにアイデアコメントが流れていく。俺も、ついつい、このキャラを描いてしいなーというコメントを書き込んでしまった。


「ちょ、おまえらいつに言いすぎ! ちょっとってて!」


 しばらくのちんもくの後、PCのデスクトップめんうつしていた動画が切り替わり、アニメのおめんとヘッドセットをかぶった人物が映った。


『おおー』『本人とうじよう!』


 ──おっ、WEBカメラに切り替えたのか。

 ってことは、こいつが『エロマンガ先生』ってことだな。

 だいほんのあるテレビ番組なんかとちがって、こういう次に何が起こるかわからない感じが、いい意味で素人しろうとくさい。

 お祭りで売っているようなアニメキャラクターのお面を着け、さらにパーカーのフードを被っているので、あいわらずしようたいめい。向こうのが暗い上、しつが悪いのではんぜんとしないが、思ったよりもがらに見える。


刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影