第一章 ④

 エロマンガ先生は、アニメざつのキャラクターランキングページを広げ、おれたちに見せつけてきた。その中には、当然、俺の作品のキャラクターは入っていない。アニメ化してないから。


「この中から選んでよ。あ、でも、できればたんとう作品がいいかな。あいちやくもあるし」


 ふたたびリクエストコメントが流れていく。エロマンガ先生も、なにうれしいことを言ってくれていた。──が、俺はそれに参加することができなかった。


「……………………………………」


 それどころじゃなかったから。


「……………………………………」


 楽しげなトークも耳に入らず、ひたすらごんで、暗くせんめいどうを見続ける。


「……………………………………どういうことだ?」


 つぶやく。おれが見ていたのは彼の後ろ、おく

 さっき……


「はっ!」


 一分ほどフリーズしていたようだ。俺はしようを取り戻し、ぶるぶるっとかぶりを振る。

 じようきようぜん変わらず、目の前のノートパソコンには、パーカーにおめんの人物と、暗い部屋が映っている。コメントでは次にく女の子をどうするかについてのろんが、かつぱつに流れていた。

 そして目をこらせば、が家で使っているものとまったく同じしよつに盛られた、ターンオーバーの目玉焼きとサラダが映っている。ひとくちも手をつけられていない。


「どういうことだ」


 ふたたび呟く。さっきよりはしようえた頭で考えてみるも──わからない。


ぐうぜん……?」


 ちがうな。これしかないという答えはすでに出ているのだが、それがどうにも信じられん。


「……これ映ってるのって、俺んち……なのか?」


 俺は、てんじようを向いて、呟く。

 いや、いやいや。そうじゃない。もうごまかすのはよそう。


「こいつ、俺の妹じゃね?」


 口に出したしゆんかん、ぞくっとした。

 エロマンガ先生は、へんせいを使っていて、お面とパーカーで顔と身体からだのラインをかくしている。つまり、女でもおかしくない、ということ。

 ……『まさかな』という思いがてきれない。

 あの──部屋に引きこもって、何者ともせつしよくしようとしないぎりが?

 明るく楽しくファンとおしやべりしたりする、俺のたんとうイラストレーター?


「……ありえるのか? そんなの。どんなかくりつだよ……」


 しようじき言ってこんらんしていたが、俺・和泉いずみまさむねしんそうしんは、ちゃんとアラームを鳴らしてくれた。

 ──これはチャンスだ。

 ってな。

 もしも『エロマンガ先生』イコール『俺の妹・紗霧』なのだとしたら。

 いま、俺のノートパソコンは、あのかたく固くざされた『かずの』の中とつながっているということになる……よな?

 とうてい信じられないが、もしもそうならすごいことだ。この一年間ずっとまりだったってのに、やくてきしんだった。この大チャンスをなんとしても、モノにしなければならない。


「考えろ……!」


 おれはデスクにりようひじをつき、頭をかかえた。


「……っ………………ダメだ! なんも思いつかねえ!」


 だってネットでつながっているっつっても、俺にできるのはどうにコメントを残すくらいなんだぜ? それでどうなるってんだ。何を書き込めってんだよ。

『おまえ俺の妹だろ』──きやつ。『から出てこい』──却下。

 そんなんじゃ、食事といつしよにメッセージをつたえるのと、何も変わらない。むしろ、とんでもないことになりそうないやな予感がある。それじゃほんまつてんとうだ。

 なやんでいる間に、めんでは『次にく女の子』の話がまとまったらしく、エロマンガ先生がめに入っていた。


「そんじゃ、次回はいしんは明日の予定です」


 くそっ、タイムオーバーかっ! ど、どうすりゃいいんだよ!

 何もさくが思いつかずあせっていると──

 エロマンガ先生が、ちょっとしたミスをおかした。


「次も見てくれよな。ばいばーい♪」

『おつかれー』『次も楽しみにしてます』『おつおつ』『乙~』『あれ?』


 動画配信ではたまにあるポカで、かんたんに言うとWEBカメラの切り忘れというやつだ。


『おいwwまだうつってんぞwww』『エロマンガ先生www』

『カメラカメラ!』『切り忘れてんぞ』


 ちようしやたちが教えてあげようとするも、エロマンガ先生は気付かない。

 ……やばいんじゃないか、これ?

 このミスをやってしまうとどうなるかというと、ほうそうが終わったと思い込んでいる配信者は、視聴者たちの前で、の自分をさらしてしまうことになる。

 きよくたんな例をあげると、動画がまだなま配信されていると気付かずに、カメラの前ではだかになったり、ことにできないくらいえっちなこうをしてしまった人もいるらしい。

 むちゃくちゃずかしいプライベートシーンを全世界に公開しちまったわけだ。

 おそろしい話である。本人、こうかいしてもしきれないだろう──────っておいおいおい!

 俺は思わずを乗り出してしまった。

 なぜなら画面の中で、とんでもないことが起こりつつあったからだ。


「っあ~~~~~~~~~楽しかったぁ。オナカいてたのに、ごはん食べるの忘れてたぁ」


 エロマンガ先生が立ち上がり、おもむろに服をぎ始めたのである。

 くつ下をぎよう悪く足でぎ、すう歩いてめんから見切れつつ、っていたパーカーを脱ぎてる。次いで画面外からおめんが飛んできた。


『おっ! エロマンガ先生のしようたいバレくるか!』『どうせオッサンだろ』

『くそっ、見切れてるぞ! 戻って来い!』『男が脱ぐとこ見てもなぁ』

『意外にカラフルなくつしたじゃん』『ちょwwなんというエンターテイナーwww』


 ガタッ!


「やべええええええええええええええええええええ!」


 おれはタブレットがたりたたんだノートパソコンをかかえ、ぜんそくりよくを飛び出した。

 かいだんけ上り二階の『かずの』へと向かう。


「マズいマズいマズいマズい! 絶対にマズすぎる!」


 だってそうだろう!?

 もしもエロマンガ先生が、俺の妹なんだとしたら。

 マジで同一人物なんだとしたら!

 妹のストリップショーが、全世界公開されちまう!


「ストァァァァァァァ──────────────ップ!」


 バァン!

 俺は妹の部屋のとびらを、ぶちやぶいきおいでブッたたいた。

 ガンガンガンガンガンガン! わきに抱えたタブレットをよこに、何度も何度も力強く叩きつける。


「カメラアアアアアアアアア! 切り忘れてる! カメラアアアアアアアアアアア!」


 ガンガンガンガンガンガン!


「やらかしてんぞおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ここまでなりふりかまわず妹にびかけたのは、これが初めてかもしれない。

 とにかく必死だった。気付け! 気付け気付け気付け気付け!

 ガンガンガンガン! 扉を叩く音が、にかさなって聞こえる。わきに抱えているパソコンのスピーカーからも、まったく同じ音が聞こえてくるのだ。

 つまり──そういうことなのだろう。


『めっちゃドア叩かれてるぞ!』『ちょwwぞくらんにゆうwwwww』


 というコメントが画面に流れたところで、ぷつん、といきなりどうはいしんが終わった。


「……切れた…………………………………」


 しん、とろうしずまりかえる。

 ……よく見ていなかったが、間に合っていた、はず……だよな?

 さいあくたいは……防げた、よな?


「っ………………ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」


 両目をきつくつむり、とびらこぶしを押しつけたまま、思い切りいきいた。

 ぜえ、ぜえ、とかたを上下させる。


「……守れた。なんとか……妹のはだかは、守れた」


 それでよしとしよう。

 せっかくの大チャンスをふいにしてしまったが、


「……いはない」


 扉からはなれ、ひたいあせぬぐう。


「だ、だが……かくしておけよ」


 おれは扉をにらみ付ける。


かならずおまえに、このの扉を開けさせてみせる……!」


 がちゃ。

 ちかった直後に扉が開いた。


「えっ?」


 けな声を出してしまった。

 いやっ、だって──えっ? ちょ……えぇっ? ……なんであっさり開いてんの?

 きぃ……ぎぃぃ……

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影