第一章 ⑨

「だよな。……とりあえず」


 色々言ってやりたいことがあったのだが、せいしんてきゆうがなかったせいか、おれはまずこう言った。ぱん、とおがむように手を合わせて、


「えっちなイラストばっかかせてごめん!」

「っっ! ばっ、ばか!」

「マイクで大声を出すんじゃない!」


 俺はとっさに両耳を押さえてさけぶ。

 きぃ────ん。

 耳鳴りが収まらん。あっぶねぇなぁ──


まくやぶれたらどうすんだバカ!」

「ば、ばかはそっちっ!」


 顔全体をにして、両手をばたばたさせるぎり


「えっち! へんたいっ! この前もっ! 今日もっ! お、女の子に、いきなりあんなことっ……! ぜったいだめ!」


 こいつ……どうやらずかしさがいつていえると、目の前のあいこうげきしてくるしゆうせいがあるらしいな。この前ジョイパッドでちされたのも、たぶんそれだ。


「……そこまでおこることかよ。いままで妹に、えっちなイラストばっかリクエストしていたつみを、あやまろうとしただけじゃん」


 というか、ノーブラ&ボタン全開で言う台詞せりふじゃないぞ。

 エロマンガ先生のかつこうの方が、よっぽどエッチだろ。


「えっちなイラストは、ごとだしっ、きだからいいのっ! でもそういうのはだめ!」


 ……好きなんだ、えっちなイラストを描くの。

 なのにダメって……。


「なんで?」

「…………ぅ」


 俺のいに、紗霧はうつむき、だまり込んでしまう。顔はさらに赤くなっている。


「どうして紗霧は、えっちなイラストを描くのがだいきなのに、自分が描いたえっちなイラストの話をされるのはダメなんだ?」


 俺は問うた。別に問いめるつもりじゃなくて、じゆんすいもんだったから。

 そしたら、


「……ぅ……ぅぅ……そ、」

「そ?」

「そんなの言えるかーっ!」


 がすっ!


いたって! おま! またジョイパッドでおれを……!」

「兄さんのばかっ! にぶちん! ラノベしゆじんこうっ!」


 そ、そのわるぐちざんしんだなオイ。

 でも、俺はあいつらほど耳は遠くないぞ。

 おまえの声がむちゃくちゃ小さいから、聞こえないこともあるけど。


「わかった、わかった。もう言わない。悪かったな」

「……わかればいい」


 はぁ、はぁ、と肩を上下させるぎり

 さすが引きこもりだけあって、すぐにいきれするやつだ。

 そしていちいち表情がえっちなので、とてもちよくできん。

 エロマンガなんてペンネームをつけるだけのことはある。

 エロマンガ先生はえろい。名はたいあらわしていたな。

 しろほおこうちようさせて、紗霧が俺を指差す。


「うううう……だ、だいたいっ……兄さんはっ……いろいろとだめっ」

「色々ってなんだよ」

「た、たとえば……そ、そう! 休みの日に家にいすぎっ!」

けんぎよう作家なんだから、日曜は家で仕事してるに決まってんだろ!」

「……夏休みも?」

「夏休みもだ。あのころは毎週ボツが連続してて、てつ続きで……おかげでおまえのメシ作んの忘れてた」

「ちょ! 夏休みのあれって、から私を追い出すためのひようろうめじゃなかったの!?」

つうに忘れてただけだよ。なんだ兵糧攻めって、よそんちのお母さんはそんなひどいことすんの?」

「に、兄さんだって同じことをしてるじゃない!」


 まぁ、結果的にはね。


「くぅっ……ゆかをどんどんしてもごはんが来なかったときのぜつぼう……兄さんにわかる?」


 当時のことを思い出してしまったのか、紗霧はなみだになっている。


「メシくらい部屋出て食えよ」

「部屋を出たらけだと思っているわ」

めいげんっぽく言っても、ちっともカッコよくないからな」


 はたらいたらけというあの台詞せりふよりも、さらにダメ度がアップしている。


「夏休みは、兄さんがずっと家にいて出かけないから、なかなかおにも入れないし……トイレに行くだけでひとろうだったんだから……」


 せつじつだな。

 おれは一階で、ぎりの部屋がある二階にもトイレはあるから、行けないってことはないんだろうが。


「あまりにも家にいるから、兄さんって友達いないんじゃって心配してた」

けいなお世話だ!」


 いるよ! 友達くらい! 少しは! ともとか!

 あと……あと……えっと……まあいいや!


「友達も彼女もいないから、友情やれんあいびようしやせつとくりよくがないのよ」

「おまえ人のこと言えんだろうが! そもそもそんなん作品にえいきようしねえよ! ぜつさんふたまたちゆうせんぱいが、むちゃくちゃれいじゆんあいラブコメ書いたりしてるもん!」

「その人はぶんしようりよくのあるクズだから書けるの。兄さんはないでしょう?」

「……当たり前の事実であるかのように言うのやめてくんない?」


 いちおうしんじんしようで賞とってるからね?

 ぐぬぬ……こいつめ……。

 俺は、びし! と紗霧を指差して、


「お、おまえだって、せんとうシーンのさしくのヘタクソじゃねーか!」

「なっ!」


 紗霧は目をまんまるに見開いた。


「い、言ってはならないことを……そ、それは、兄さんの書き方がわかりづらいせいもあるから!」

「ていうかりよう見て描けよ! おまえのイラスト、じゆうかまえ方とかマジありえないから!」

「そんなのしらないもんっ! もんあるなら資料送ってくればいいでしょ! あ、あと資料といえばっ! なんでちゆうからキャラクターのがいけんせつていを送ってこなくなったのっ? しようせつほんぶんでもろくにびようしやしてないし、どんなを描けばいいかわからないじゃない!」

「だっておまえ、外見設定送ってもそのとおりに描かないじゃねぇか! かんが進むにつれてヒロインのしんちようが伸びたりちぢんだりするアレはなんなのよ!」


 キャラによっては同じ身長設定なのに、ならべると頭半分くらい身長ちがうというちんげんしようが起こっていたぞ。


「それは……そっちの方が可愛かわいいからそうしてるのっ!」

「じゃあもう最初からきに描けよ! イラストどおりに文章書くから!」

「そんなのだめっ! 兄さんはしようせつしつかくねっ!」


「うぐぐぐぐぐ……」「ぎにににににに……」


 きんきよでキバをおれたち。

 小説家とイラストレーターを対面させるとトラブりやすいというじつれいを、はからずもしようめいしてしまった形である。こうならないよう、いつもはへんしゆうしやが間に入ってごとを進めているのだ。


「「ふんっ」」


 ぷいっ、とおたがいそっぽを向く俺たち。

 しばらくのちんもくがあってから、俺はなるべく自然に切り出した。


「なぁ、おまえ、なんでこんなことをやってたんだ?」

「……どうしてイラストレーターをやっているかってこと? 別にめずらしい話じゃない。中学生で、私よりもずっとじようなイラストをく人だって、たくさんいるもん」

「そっちじゃないよ」


 学生でプロデビューなんて、俺でさえしているしな。いまとなっちゃ、そこまで珍しい話でもない。

 そうじゃなくて──

 ぎりは、両親がいなくなってしまって、落ち込んでしまったせいで、引きこもりになってしまったのだと思っていた。

 だから、こんなにもアクティブな活動をしていることに、かんがあったのだ。


「絵を描いて、どうはいしんして、ファンと楽しそうに話してたろ?」

「え……そっち?」

「ああ。なんで、ああいうことを始めたんだ?」

「わ、悪いの?」

「悪くないよ」


 すぐにそう答えた。なるべくやさしく聞こえるように。


「俺のっていうか、仕事あいをブログでディスるのは、よくないと思うけどな。ネットで活動するのって、なにも悪いことなんてないと思うぜ」

「…………」


 紗霧は、ごんのまま、ゆっくりと俺を見た。


「? どうした?」


 どきりとしんぞうが強くねた。

 それからさらに、十秒ほどもってから、ようやく紗霧は、ぼそりと口を動かす。


「…………楽しかったの。絵をくのも、どうはいしんして、みんなとおしやべりするのも」


 マイクを使わず、自分の声で、そう言った。


「……………………」

「……………………」

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影