第二章 ②

 に、ほんはいったい、どうなってしまったというのだ。おれが小学生だったころは、そんなことなかったはず……い、いや……アホな男子が気付かなかっただけで……実は……せいじゆんそうなあのも、そうなあの娘も……? う、うわあああああああああああああああああ!

 はげしくどうようする俺に、めぐみが言った。


「やだなぁ、そんなにおどろかなくても。きっと妹さんだっておちんちんだいきですよ」

「そんなわけないだろうが!」


 殺すぞくされビッチ! いいい、いつしゆんでも、ヘンなそうぞうさせやがって!

 くそ! なんてことだ! 俺の女子へのイメージが、ほんの数分でめいてきほうかいを……!

 がしがしと頭をかきむしる俺に、めぐみがあっさりと言った。


じようだんです」

「……………………」

「冗談ですって。もー、おにーさんてば驚きすぎー」


 けらけらと笑うめぐみ。

 どこまで冗談なんだ、小学生はなんだろうな、と、聞き返す力も残っていなかった。


「さぁて、話を戻しますよっと」

「……かつにしてくれ」


 俺は力なく肩を落とす。するとめぐみは「えーと」と、ことをさまよわせてから、


「あたし、クラスいんをやっているんです」

「はぁ?」


 クラス委員? この……じゆんせいこうゆうげんしたような、くされアマが?


「あ、信じてないでしょー。ほんとなのにぃ」


 だとしたら、よくあるめんどうごとを押しつけられたケースじゃなくて、目立ちたいがためにみずから委員長にりつこうするパターンだな、きっと。

 委員長・めぐみは、こほんとせきばらいをして、


「あたしは和泉いずみさんを、学校に行かせるために来たんですよ」


 にこやかにほんだいを切り出した。


「おじやしまーす」

「ま、てきとうすわっててくれ」

「はーい」


 俺は、めぐみをリビングに通してやった。本当は、こんなれんなやつを、俺とぎりの家に入れたくはなかったのだが、あのようけんを聞いてしまってはそうもいくまい。

 りんせつするキッチンに向かう。

 俺の母親……おふくろが大のりようきだったせいもあり、のシステムキッチンはやたらと本格的だ。おれにとってはオーバースペックなざいの数々は、見るたびに『使いこなせなくてすまん』ともうわけなく思う。

 でかいれいぞうからてきとうにジュースを選び、コップにそそいでもどると、めぐみは二人がけのソファにすわって、きょろきょろときようぶかそうにを見回していた。

 こちらに気付くと「あ、どもです」としやくをしてくる。


「なにを見てたんだ?」

可愛かわいいカレンダーがってあるなーと」

「ああ、それな」


 リビングには、俺のちよさくのカレンダーが貼ってある。グッズ化した、数少ないブツのひとつであった。『てんせいぎんろう』第一かんひようが、四月のカレンダーをいろどっている。


きなしようせつのカレンダーなんだ」


 わざわざ作者ですと明かすこともなかろうと、俺はめぐみにそう答えた。


「へーっ、和泉いずみさんじゃなくて、お兄さんが好きなんですか、こういうの。もしかして、オタクってやつです?」

「おう、まーな」


 ていすることはできない。本当のことだし、それに、アレはぎりいたイラストなのだから。だいきに決まっている。ただまぁ、リアじゆうっぽいめぐみには、ウケは悪いだろうな。きぬせぬやつだから、気持ち悪いくらいのことは言われるかもしれない。

 俺は表情には出さないように、ないしんかくを決めた。そしたら、


「いいですねっ」


 なんて返事がかえってきた。


「実はあたしもかなりオタクでぇ、むかしからすっ~ごいまんとか読むんですよっ」

「へぇ、意外だな。どんなのを読むんだ?」

「ワ●ピースとか大好きですっ!」

「……そ、そうか」


 へえ、ワンピ●ス! おもしろいよな! 俺も大好きだよ!

 口に出して言えたなら、俺もリア充になれるしつがあるのかもしれない。

 いや、俺も、毎週楽しみに読んじゃいるけど。それって本当に漫画が好きなの? 『みんなが好きなちようにん作品』だから、好きなだけじゃないの? なんてかんぐってしまう。


「ところで、和泉さんて」


 めぐみがそう切り出した。

 俺はローテーブルにジュースを置いてから、めぐみに「ちょっとっててくれ」と言い残し、『かずの』へと向かった。階段を上り、かたざされたとびらの前に立つ。

 ……絶対に無理だとは思うが、もしかしたら……。

 おれは万に一つののうせいにかけて、声を張り上げる。


ぎり~、クラスメイトが来てくれたぞー」


 一秒、二秒、三秒……

 どんどんっ!


「……おこっていらっしゃる」


 こうなるよなぁ……どーしたもんか。

かずの』にを向け、俺は、とぼとぼと階段を下りて行く。と──

 ピピピピピピ! ポケットに入れていたスマートフォンが鳴った。えきしようを見てみると、知らない番号だ。通話ボタンを押して、耳に当てる。


「はい、和泉いずみです。どちらさま──」

『……私』

「紗霧か!」


 俺は食い付くように話しかける。ボソッと小さい声だったが、妹の声をちがえるわけがない!


『そ、そう』

「やっぱそうか! ……おまえなぁ、なんで家にいんのに、電話なんだよ」


 どういうじようきようだ。てか、こいつん中から電話かけるしゆだんを持ってるんだ。けいたいを持っているのか、パソコンでなんかやってるのかは知らないが。

 まあよし。妹の電話番号ゲット!


『……とびらを開けずに兄さんと会話をするには、こうするしかなかったの』

「いいけどさ。よく俺の番号わかったな」

『……なんだって、いいでしょ』


 気になるが、問い詰めると切られてしまいそうだ。


『そ、それより……兄さん、ど、どういうこと?』

「なにが──って、ああ……おまえのクラスのいんちようが、いまうちに来てるんだよ」

『な、なんで家に入れちゃうの~~~~~~! に、兄さんは、私を殺したいのね!?』

「うおっ」


 いきなりおんりようが! どうやらマイクを使ったらしい。


「いや、もしかしたら、これでおまえが部屋から出てきてくれ──」

『出るわけない! 出ない出ない出ないっ! 出ないったら出ないっ! 追い返して!』

「うーん」


 わかっていたことだが、紗霧を部屋から出すのは無理か。

 しかし、妹にきらわれることなく(じゆうよう)、なんとかじようを引き出したい。

 せっかくのかいなんだし。


「すぐに追い出すのはだから……おれが話だけでも聞いてみることにするよ」

『聞くだけむだなのに』

「それでもだ。──なぁ、電話でもいいから、クラスメイトと話してみる気は──」

『ない!』


 そくとうである。


「……わかった。じゃ、切るぞ」

『ま、って』

「どうした?」

『……………………その、いんちようって……女?』

「ああ、けっこう可愛かわいだったぞ」


 くされビッチだけどな。


『……………………………………………………』

「……ぎり?」

『……話はしない。けど』

「けど?」


 しばらくちんもくが続く、が、俺はしんぼう強く待った。


『切らないで。持ってて。……気付かれないように』

「……それって」


 きぃ。俺のいに答えるかのように『かずの』のとびらがわずかに開く。

 そしてすきから、ぽいっと何かが飛んできた。

 俺はそれをひろい上げ、


「……これを着けろってことか」

『……そう』


 紗霧がの外に投げてきたのは……ワイヤレスイヤホンだった。


 リビングの扉を開けると、めぐみがちょこんとソファにこしけて、しゆつの多いあしをぶらぶらさせていた。


「待たせたな」


 俺は、めぐみへと近付いて行く。スマートフォンはむねポケットの中だ。ワイヤレスイヤホンは、片耳だけそうちやくし、外部の音も、紗霧の声も、聞こえるようにしてある。一方で、紗霧の声は、めぐみには聞こえない。


「あれ、おにーさん。和泉さんは? びに行ってくれたんじゃないんですか?」


 俺は首を振った。


「? 家にいなかったんですか?」

「いや、めっちゃいるけども」

「めっちゃいるって、なんか変なほんですね」


 そう表現したくなるくらい、ずっとにいるんだよ。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影