第二章 ③

「まあいいですけど、いるならなんでべないんですか?」

「部屋から出てこないからだ」

「………………」


 あまりにふたもない理由だったからか、めぐみからはんのうがかえってこない。

 目をぱちくりとさせている彼女に、おれはふんぞり返って言ってやった。


「どうだ、どうしようもないだろう」

えらそうに言わないでくださいっ」


 めぐみは、ローテーブルをたたいてツッコミを入れてくる。


「う~~、まさか学校に来ないだけじゃなくて、部屋からも出てこないなんて……ここまでの引きこもりっぷりだったとはっ」


 そうていがいですっ! と、めぐみは頭をかかえてしまう。でもって顔を上げて、


「ちなみにおにーさんは、このままでいいと思ってるんですかっ?」

「もちろん、よくないと思ってるぞ。この一年間、あいつが部屋から出てきてくれるよう、俺なりに色々がんばってきたつもりだ。……うまくいっているとはいえねえけどな」

「だったら、あたしと目的はいつしよってわけですね」

「まぁ……そうかもな」


 せいかくにはちとちがうが、いまはいいか。じつさい、『ぎりに部屋から出てきてほしい』ってところまでは、目的が一緒だしな。


「でしたら、おにーさん、あたしとどうめいを組みましょう!」


 ぐっとこぶしにぎりしめ、めぐみはそんなことを言い出した。


「同盟ねえ……」


 いまいち気乗りしないんだよな。

 ……こいつが役に立つというイメージがまったくわかない。


「ほらぁ、そんなところに立ってないで、となりすわってくださいよぉ」


 ぱんぱん! と、めぐみは自分が座っている二人がけソファをたたく。

 向かいのソファに座ろうと思っていた俺は、少々まよったが、


「さ、さ、えんりよしないで! 座ってください!」

「……自分ちみたいなぐさだな」


 けつきよくめぐみの言うとおり、隣に座ることにした。


「えへへー、おにーさんの隣ぃ♪」


 うざってぇやつだな。げんかんまえでのやり取りで、俺のおまえへのこうかんはダダ下がりなんだぞ。


『……お兄さんとか……なにこいつ……むかつく』


 ぎりもイラついているごよう


『兄さんも兄さん。ば、ばかじゃないの? どーせ鼻の下のばしちゃってるんでしょ……さいてー』


 ぐぬううううううううううう! 妹のこうかんがどんどん下がっていっている……!

 ちがう! 違うんだ紗霧……! わけをしたいがじようきようがそれをゆるさん……!


「あれー、おにーさん、どーしちゃったんですかぁ? そんなに顔をにして♪ あー、れてるんでしょー。えへへへへ、カワイイなー」


 ちっげーよくされビッチ! これは! くやしさをこらえているんだ……!


「も、もういい。話を戻してくれ──おれとおまえでどうめいを組む……だっけ?」

「はいっ。へへー、名付けて、和泉いずみちゃんをから引きり出すぞ同盟です!」

「なんだそのぶっそうなネーミングは」

「フッ、あたしのあいの入りっぷりがつたわるというものでしょう」


 たしかに、から回るほどの熱意がひしひしと伝わってくるが……。

 だからこそ、けいに不安である。


「そもそも、同盟うんぬんの前に聞いておきたいんだが。なんでおまえは、紗霧を部屋から出したいわけ?」

「トーゼン、学校に来させるためですっ!」

「……じゃあ、どうして紗霧を学校に来させたいんだ? いんちようだからってのはわかるが、それだけでここまでおせつかいをしてくるってのが……どうもよくわからん」

「あたし、友達作るのきなんですよ」


 めぐみはそう答えた。

 あっさりと。


「入学式が終わって、そっこー同じとしの子全員と友達になったんですけどぉ、和泉ちゃんとはまだ友達になってないなーって」


 ……な、なんか、とんでもないことをしれっと言ってないか?

 友達になった? 同じ歳のやつら全員と? えっと、クラス全員じゃなくて?


「入学したのに一回も学校来てない人がクラスにいる──ってみんなも心配してたし、せっかくなったんだから委員長っぽいことしたかったし、とうこうきよの子を学校に連れてくるのって前もやったことあったから、いけるかなーって」

「ま、前にもやったことがある……だと……?」

「小学生のときですけどね」


 じつせきありってことか。


しんせつ押し売りぜんしや帰れ』


 そう言うなよぎり。……これはもしかして……たいしてもいいのか?

 めぐみは、にいっとっ白な歯を見せて笑った。


「みんなにも、『あたしにまかせといて』っておおきっちゃいましたし、そんなわけであたしはいま、和泉いずみちゃんを引きり出すことにちょうねつを燃やしちゃってるわけですよん♪」


 いつの間にか、紗霧へのび名が、和泉ちゃんに変わっていやがる。


『一度も会ったことないくせに、このえんりよのないきよめ方……』


 きよぜつされるなんてまったく考えてない、というか、こわがってないんだろうな。


『すっごくきらいなタイプ』


 おれは、妹のこおりのような声を片耳で聞きつつ、


「なるほど……よくわかった。それで、たいてきにどうするんだ?」


 やや前のめりになってうた。こいつにきようりよくすれば、本当に妹がから出てきてくれるかも、と、ささやかな期待を持ち始めていたからだ。


「おにーさん、ひとつおたずねしますが、和泉ちゃんが部屋に引きこもって何をやっているか、ごぞんですか?」

「え……っと」


 いつしゆん、紗霧のしようたいどうはいしんのことがかされているのかと思ってあせってしまった。


「よくあるケースで、部屋に引きこもって、ずーっとパソコンをいじっているというのがありましてっ。もし和泉ちゃんがそうなら、家族に協力してもらうことによって、部屋から引き摺り出すさくがあります」


 だから引き摺り出すというげきな表現をやめろよ。


「おおむね当てはまっているが……ど、どんな秘策なんだ?」


 めぐみは、指を一本立てて、にこやかに言った。


「ネットかいやくしてください」


「……………………」

『……………………………………』


 マジか、この女。

 うわぁ……うわぁ……言っちゃうの、それ、みたいな。

 ふたもなさすぎて、秘策でもなんでもねえよ。


「……あれ? どうしてだまっているんです、おにーさんっ。さあ、いますぐプロバイダーに電話して、しよあくこんげんってしまいましょうよ!」


 怖い……俺はいま、たまらなくこの女が怖い……。

 正しい! 言っていることは確かに正しいんだけれども!


「お、おまえは人間じゃない! かみにでもなったつもりか!」

「いつの間にそんな大きな話にっ!?」

「ネ、ネットかいやくするとか、いくらなんでもひどすぎるだろ! おれが引きこもってるとうしやだったら、ぜつぼうして何するかわからんぞ!」


 からは出てくるかもしれないが、家族のきずなしゆうふくのうきずあとを残してしまう。


「え~っ? 大げさじゃありません?」


 めぐみはいまいちかいしていないような口ぶりで、


「友達がいれば、別にネットとかパソコンとか、いらなくないですか?」

「な、なに……?」


 あいが完全に本気で言っているようだったので、俺はとうわくしてしまう。


「ていうか、友達がいないのに、ネットかんきようだけあっても意味ないっていうか。友達がいないのにぃ~……いったいパソコンでなにやってるんですか? ほんとにほんとになんですけども」

「い、いや……それは……」


 きょとんと首をかしげるめぐみに、俺はどう答えたものやらこまってしまった。


「色々……あるだろ?」

「色々?」


 そう。たとえば、しようせつ書いたり、絵をいたり、けいばんながめたり、音楽聞いたり、ゲームやったり、ごとしたりさ。

 パソコンって、世界最高のばんのうツールじゃないか。

 友達をえてるよ。むしろパソコンがあれば友達なんていらねぇよ。

 ちがうの? 俺の考え、ちがってるの?

 ──と、声に出して言えないあたり、俺もリアじゆうサイドの人間なのだろう。


「い、色々は色々だよ。……パソコンがあると楽しいぞ? たとえ友達がいなくても」


 俺のくるまぎれの答えに、めぐみはくちびるをすぼめる。


「えーっ? 学校で友達とおしやべりしてた方がずーっとずーっと楽しくないですかぁ?」



『楽しくねえええええええええええええええええええええええええよ!』

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影