第二章 ④

 紗霧、たましいぜつきようであった。

 きぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん、というものすごい耳鳴り。

 そりゃそうだ、マイク使ってんだもん。下手へたすりゃまくやぶれるとこだ。


「…………が……は」


 くらりとかいれ──俺は、前のめりにぶったおれた。


「ちょ! お、おにーさんっ!? だいじょぶですかっ!?」

「い、いや……だいじよう……問題ない」


 おれは、耳鳴りでふらつくのをひつこらえ、なんとか起き上がる。


「というか、いまの声? って……」

「ん? こ、声? なんのことだ?」


 あわててトボけてはみたものの……ごまかすのはそうだな。

 思いっきりおとれしてたし。


「……じぃ」


 ホラ、めぐみのやつ、俺の耳をはんで見てやがるもん。


「なるほどー……和泉いずみちゃん……聞いておるね?」

『……兄さん、ごまかして』


 ちや言うなよ。


「あー、バレちまったら……しょうがねぇわな」


 俺は、自分の耳にはまっているワイヤレスイヤホンを指差した。


『兄さん!』


 いかりの声を上げるぎり。こりゃ、すぐに通話を切られるかな、と思いきや。


「ちょぉ~っとった! 和泉ちゃん、切るのすとーっぷ!」


 めぐみがかたうでを伸ばして、声を張り上げた。


「いま通話を切っちゃうとぉ~~~……こうかいするかもよ?」

『……なに言ってるの、この女』


 さあ。俺に聞かれても。


「ふふーん」


 にやぁ、と悪戯いたずらっぽいみを浮かべるめぐみ。

 ぞくっ、とみようかんしよくが、俺のすじけ上る。


「な、なんだよ……」

『…………』


 紗霧もようふんを感じ取ったのか、通話を切るのをいち取りやめたようだ。

 俺とめぐみは、二人がけソファにすわっているのだが。

 はじっこにを寄せて座っている俺に向かって、めぐみは座ったままのたいせいで、ぴょん、ぴょん、と近付いてきやがった。ほぼみつちやくに近い位置にだ。……逃げられない。妹とはちがう、かんきつけいこうすいかおりが、俺のくうをくすぐった。


「えっへっへぇ~……おにーさん、やぁ~っとあたしにドキドキしましたねぇ~」

「くっ……!」


 かくにもどうようしてしまった俺に、めぐみはあやしく微笑ほほえみかけ、こちらのむねに、身体からだをこすりつけてくる。さながらねこあまえるようにだ。


「お、おい……! やめ……! ど、どういうつもりだ!」

「すりすり♪ すりすり♪ えへへ~、おにーさん、いいにおい~♡」

「…………!」


 い、いったいどういうじようきようなんだコレ……! な、なな、なんでこの女は、いきなりおれにくっついてきているんだ? てかヤバ……!

 れんあいかんじようなんぞカケラもないが、コレはさすがに……!

 めぐみは、細いうでを俺の首にまき付け、みみもとに、ふぅ、と熱いいきをかけてくる。


「おにーさん……」


 次いで彼女は、俺のあたりに口を近づけ、なまめかしい声でささやいた。


「おにーさん……ちゅーしたこと、あります?」


 ドン! ドンドンドンドンドン!

 しゆんかんてんじようがぶちけそうなくらいの、ゆかドンがとどろいた。


「………………」

「………………」


 俺とめぐみは、ごんで天井をあおいだ。


「──ぷぷっ」


 めぐみがこらえきれないとばかりにき出す。

 ドゴン! ドゴドゴドゴンッ! ガッシャーン!

 ぎりさん、おおあばれである。ちょ、スゲー音したぞ、いま……!

 めぐみといい、紗霧といい──なんだってんだ、いったい。

 おれたいきゆうてんかいにまったくついて行けずにこうちよくしていると、


「えいっ」


 めぐみが俺のむねポケットから、紗霧との通話がつながったままのスマホをうばい取った。


「あっ、オマ……」

「いっただきぃ♪」


 うさぎのように飛びねて、軽やかに俺からきよを取るめぐみ。

 スマホを耳に当てて、


和泉いずみちゃん、初めまして! めぐみんでぇ~っす!」

「おい、返せ!」


 俺はあわててめぐみに手を伸ばす──も、かんたんけられてしまう。


「おっとと、アブナイアブナイ」


 めぐみは、たたっと小走りで、俺からさらに距離を取った。かべぎわで俺にを向け、なにやらあやしい動きをしている。


「おい! なにやってんだ!」


 立ち上がってめぐみを追うと、彼女はやおらこちらに振り返った。


「いえいえ、べっつにぃ~」


 めぐみは、スマホを俺に向かって放り投げてきた。


「はいっ、お返ししますね。切れちゃってますけど」


 ぱしんと俺はキャッチして、


「……なんだったんだよ、いったい」

「さーて、なんだったんでしょうねぇ~、ふひひひひ」


 いやらしい笑い方しやがって。

 めぐみは、で、ニヤニヤしている。

 こいつ……絶対なにか悪いことたくらんでいるだろ。

 けど、いまはそれどころじゃねぇ。


「心配だから、ちょっと上見てくる」

「あ、和泉ちゃんならだいじようですよ。ひとつないっぽいです。それよりも──」


 そこで、めぐみの調ちようががらりとしんけんなものへと変わった。


「おにーさんに、しつもんさせてもらっていいでしょうか? 和泉いずみちゃんの、ことで」


 知るか! おれは妹が心配だからようを見に行く──と、言うつもりだったのに。

 俺の口は、別の台詞せりふつむぐ。


「…………なんだよ」

「和泉ちゃんって、どんななんですか? あたし、しやしんも見たことないんです」

「悪いな、俺もぎりの写真は持ってない」


 たぶん、母さんのひんの中にあるのだろうが……。

 アレは俺がさわっていいものじゃないからな。


「紗霧がどんな娘なのか、か。そうだな──」


 俺はごくごくなおにこう答えた。


「まず、見た目は、むちゃくちゃれい可愛かわいいよな」


 ガタッ!


「……………………」


 俺とめぐみは、てんじようあおぐ。紗霧のやつ……また上で音立ててやがる。

 いつもの『ごはんのさいそく』とはちがう、初めて聞くタイプの物音だった。


「ほうほう、むちゃくちゃ綺麗で可愛い……ですかぁ」

「おう、ぱっと見、ひようじようで大人しそうで、さわるのがこわいくらいにきやしやで、まさにれん乙女おとめって感じなんだが──話してみると、ころころ表情が変わってあいきようあるんだ。あいつのがおを見るために、俺は生まれてきたのかもしれないな」


 ガタッ! ガタタッ!

 上から物音が連続する。めぐみは、あっけにとられた顔でちょっとかたまる。

 いかん、つい気持ち悪いポエムをろうしてしまったぜ。……シスコンとでも思われてしまったか。ま、まあいい、紗霧に聞かれているわけでもないしな。


「にゃるほど~、ふふふふ……」

「なに笑ってんの?」

「や! なんでもないです! ぷふっ……え、えっとぉ──それでそれで?」

「そうだなぁ……あとは、むちゃくちゃ絵が上手うまい」


 なにしろプロだもんな。めぐみにそうは言えないけども。


「へーっ、和泉ちゃんて、絵をくんだぁ。ちなみに、どんな絵を?」

「えっちな絵が上手いな」


 ガタンッ!


「……………………」


 俺とめぐみは、天井を振り仰ぐ。またか……なにやってんだ、あいつ。


「え、えっちな絵ですか?」

「ああ、じようらしい、えっちな絵をく」


 どんどんどんどん!


「もしかして、和泉いずみちゃんて……えっちな、だったり」


 おれおもおもしくうなずいた。


「えろい」


 どんっ! ……さっきからうるせえな。ゴキでも出たか。


「なにしろあいつ、中一のくせになかなかすごいぱんつを──」

「はいてるんですかっ!?」

「描いてるんだ!」


 なんで俺が、妹のぱんつの種類をクラスメイトにばらさなくちゃならんのだ。

 めぐみは、ドキドキとむねを押さえて、


「な、なんだぁ。もー、びっくりしちゃいましたよー……て、てっきり和泉ちゃんと、おにーさんが、変な関係なのかなって」

「ありえないかいはやめろ。いつしよらしてるからって、

「………………」

「なぜだまり込む?」

「い、いえ、別に。ちょっと、その、アレかなと」


 なんだそりゃ。意味がわからん。


「じゃ、次、最後のしつもん……いいですか?」

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影